巻頭特集

ニューヨークで奮闘する 革新者たち

目指すは世界ナンバーワンの農業企業
自分の中の日本人スピリットを世界に広めたい

 

植物工場で作った日本のいちごが、ニューヨークのミシュランシェフの間で話題となった。その仕掛け人が「Oishii」ファウンダーの古賀大貴さんだ。

ニュージャージーの植物工場にて

「現在は完全閉鎖型の植物工場で日本の天候でしかできない日本のいちごを作っています」。植物工場に興味を持ったきっかけを尋ねた。「コンサル時代に色々なクライアントを抱えていた時、何が将来自分でビジネスとして出来るかも同時に考えていました。当時、植物工場のクライアントを持っていたので、ビジネスモデルについては理解していました。世界最先端の植物工場の技術が日本にはありますが、新鮮な食材が手に入る日本では需要がない。グリーンハウス農業が存在しない、また、国土の広い米国では新鮮な食材がすぐに手に入らないという現状もあり、都市部に近い場所で植物工場をやろうと決めました」。

サステナブルな植物工場は今後、電気自動車のように普及していくという。

「私たちは植物工場でテスラのポジションを取りたいと思っています。植物工場で作ったいちごが通常のいちごより美味しいという強いブランディングです。世界一の農業企業を作ろうと思った時に、米国で起業し、ニューヨークでやろうと決めていました」。

世界中の植物工場でレタスが作られているが、いちごを作れる技術は皆が持っていない。日本の甘いいちごでインパクトを残すべく、スタートした。

起業して苦労したことは? 「苦労は思い浮かびませんが、日本人として米国で起業したので、日本だったらもっと色々と簡単だったとは思います」。

幼少期を海外で過ごした古賀さんにとって、日本の強い技術力を海外に発信することも一つのミッションだという。

「日本独特の文化や技術を世界で証明したいです。我々は高品質なオンリーワンの商品を作っています。価格が高くても圧倒的な認知度とブランド力でここまできました。中間目標としては植物工場でナンバーワンの会社になること。足がかりとしていちごを作っているだけで、今後は他の食材も作っていきます。最終的には世界最大の素材ブランドを目指して『Oishii』という棚がどこにでもあって、そこに行けば美味しいものが手に入るようにしたい。それはサステナブルに作られた肉や魚かもしれません」。

 

古賀大貴さん
Oishii Farm, Co-Founder & CEO

慶應大学を卒業。
コンサルティングファームを経て、UCバークレーでMBAを取得。
持続可能な農業と、世界中に「Oishii」を広めるべく、在学中の2016年12月に「Oishii Farm」を創業、日本のイチゴを育てる植物工場を構え、2022年からは、ホールフーズでの展開も開始し、米ファスト・カンパニーが選ぶ「最もイノベーティブな企業」の一つに選出されている。
oishii.com


NASAと火星住宅開発に挑む建築事務所
環境の知覚体験を根幹に置く設計手法とは

2010年に曽野正之さんとオスタップ・ルダケヴィッチさんにより設立された建築事務所「クラウズ・アーキテクチャー・オフィス」。現在は、正之さんの奥様の祐子さんも建築家として加わり3人で、環境の知覚体験を根幹に置く設計手法により、多様なプロジェクトを提案している。住宅・公共施設から自然災害対策の建築、数々の宇宙建築に至る幅広い設計に携わっている。

15年にはNASAが開催した火星基地設計コンペで発表した「氷の家」が優勝し世界的に注目を集め、19年には日本で初めて3Dプリンターで住宅を創るプロジェクトを開始するなど、建築業界に革命を起こしている。

3Dプリント住宅

まずは正之さんに同建築事務所の魅力について聞いた。「実際に建てるプロジェクトと仮想の提案(スペキュラティブ)をボーダーレスに行う事で、現実性と自由な発想、先端的リサーチがクリエイティブな相互作用を起こす事を目指しています」と話す。

正之さんは、兵庫県出身で少年期をニューヨークで過ごす。幼少の頃から物作りや絵に興味があり、後に幾何学や物理への興味が加わっていったそうだ。奥様の祐子さんは京都府出身で、子供の頃に遊びに行った同級生の家が京都の町家つくりで、その空間の機能性と美の豊かさに感動し、建築に興味をもったという。

自然災害対策の建築、宇宙建築に多く取り組んでいる正之さんに、その二つに共通するものはあるか尋ねると「どちらも物理的・心理的に極限状態に置かれた建築であり、建設過程にも大きな制限が課せられる点で共通していると思います(最小限の素材での簡易な建設が必要となる等)。そうした意味でも宇宙建築で培われた技術や設計法を『逆輸入』することで地球でも貢献することが重要と考えています」と教えてくれた。

現在は、ニューヨーク市内や近郊の住宅、美術関連施設や、以前に設計したスタテンアイランド911メモリアル広場のアップグレードに携わっているという。また、日本では、火星で提案している3Dプリント住居ともコンセプト面で関連があるコンクリートの3Dプリンターを用いた新しいタイプの住宅設計に取り組んでいる他、昨年末には福岡の中心にシアター複合施設も竣工した。

今後のビジョンについては「私達は物質面だけではなく、環境の知覚による精神面や想像力という目には見えない部分も建物にとって重要な要素であると考えています。今後もそうした豊かさや人間性を感じられる体験を目指し、コンセプトと実施の両面で多様なプロジェクトに関わってゆきたいと思っています」と語った。

 

曽野正之さん
CLOUDS Architecture Office 共同創設者

神戸大学及びワシントン大学にて建築修士号取得。
都市スケールの文化施設からパブリック・アートのデザインに及ぶ多様なプロジェクトに携わる。
ニューヨーク・スタテン・アイランド9.11メモリアル国際コンペ優勝作品によるアメリカ建築家協会公共建築賞をはじめ受賞多数。
cloudsao.com

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