心と体のメンテナンス

アメリカの薬局で買える!胃薬・風邪薬を賢く利用 薬剤師が解説(前編)

胃酸中和タイプ、抑制タイプ
症状と、薬の効き方で選択を

Q. 胃薬にはどんな種類がありますか?

A.

アメリカで市販されている胃薬は、胃酸を抑えるものが主流です。食べ物の消化を助ける胃酸ですが、食べ過ぎ、飲み過ぎ、疲労、ストレスなど、何らかの理由で必要以上に分泌されると、胃の粘膜が傷つき、胸やけ、むかつき、胃もたれ、胃痛などの原因になります。市販の胃薬は、このように胃酸過多が原因の症状の緩和に効果があります。

胃薬には、分泌された胃酸を中和してその影響を抑えるものと、胃酸の分泌自体を抑えるものの大きく2種類があり、分泌を抑えるタイプは、そのアプローチによってさらに2つに大別されます。いずれも薬が効果を出す仕組み(作用機序)が違います。

参考までに、処方せんがなくても薬局で買える一般用医薬品、俗にいう市販薬を、アメリカではOTC薬(Over the Counter Drug)といいます。

 

Q. 胃酸を中和する胃薬とは?

A. 

胃酸過多による胸やけや胃もたれに、最も安全で即効性もあるのがこのタイプです。出過ぎた胃酸をアルカリ性の薬剤で中和することから、制酸剤とも呼ばれます。

アメリカでは「タムス(Tums)」「ペプトビスモル(Pepto-Bismol」「アルカセルツァー(Alka-Seltzer)」などの商品がよく知られています。タムスは噛んで口の中で溶かしてから飲み込むタイプで、有効成分は炭酸カルシウムです。アルカセルツァーは水に溶かして飲むものと、噛むタイプがあります。作用はタムスに似ていますが、水に溶かすタイプには抗酸化剤とアスピリンが含まれます。

ペプトビスモルは、液体、錠剤、噛むタイプの3種類で、胃壁を覆う成分が含まれています。胃壁を荒らす鎮痛剤などと一緒に飲むなら、胃を守るこのタイプがいいでしょう。

胃酸の分泌を抑えるH2ブロッカー「ペプシッドAC」と、胃酸を中和する「ペプトビスモル」

 

Q.「H2ブロッカー」とは何ですか?

A.

胃酸の分泌を抑える2種類の薬のうちの一つです。

胃酸は、体内で作られるヒスタミンという物質が胃粘膜にある「H2受容体」を刺激し、さらにプロトンポンプという物質が働くことで生成され、胃の中に分泌されます。H2ブロッカーは、そのうちのH2受容体を阻害します。

代表的な商品に、「ザンタック(Zantac)」や「ペプシッドAC(Pepcid AC)」などがあります。薬の箱や添付文書に書かれた有効成分を見て、成分名の末尾に「〜ジン(dine)」が付いていればH2ブロッカーです。例えばザンタックの有効成分はラニチジン(Ranitidine)、ペプシッドACの有効成分はファモチジン(Famotidine)です。

ザンタックは発がん性物質が検出されたとの報告を受け、昨年秋に商品が自主回収されました。人体に影響のある量か、もしくは実際に発がん性があるかは現段階ではまだ不明で、引き続き安全性の調査と原因究明作業が行われています。

 

Q.「プロトンポンプ阻害剤」とは何ですか?

A.

H2ブロッカーと同じく、胃酸の分泌を抑える薬です。市販の胃薬の中で作用が最も強く、胃の痛みや胸やけが強い人、他の種類の胃薬で十分な効果が得られない人向きです。

名前の通りプロトンポンプ阻害剤は、胃酸を生成するプロトンポンプという物質を阻害する薬です。英語表記の頭文字を取って、「PPI(Proton Pump Inhibitor)」と呼ばれることもあります。

「プリロセック(Prilosec)」や「ネキシウム(Nexium)」が代表的商品です。有効成分の名前の末尾に「〜ゾール(zole」と付くものがPPIです。PPIは市販薬ではありますが、作用が強く、日本では今も処方せんがなければ入手できません。安易に飲み続ける薬ではなく、特に妊婦や子供が服用する際は事前に医師に相談してください。

 

Q. 副作用の心配はありますか?

A.

市販薬は比較的安全とされていますが、副作用が全くないわけではありません。説明書をよく読み、用量・用法を守って正しく服用することが大事です。胃薬の場合、中和型から飲み始め、十分な効果がなければ推奨範囲内で用量を増やすか、作用が強い種類の薬に変えると安全です。薬の特徴を知り、自分に合ったものを選びましょう。

※次回は、風邪薬と薬の飲み方についてです。

後編はこちらから↓

薬局で買える!胃薬・風邪薬を賢く利用 薬剤師が解説(後編)

 

樋口聖先生
Sei Higuchi, PhD

_________________

薬学博士、薬剤師(日本の免許)。
城西大学大学院で薬学研究科修士課程修了後、福岡大学大学院で薬学研究科博士課程を修了。
京都大学医学部博士研究員を経て、2015年からコロンビア大学博士研究員。脂質代謝と食欲の関係を解明し、新規の肥満・糖尿病治療法の提案を目指す。
米国日本人医師会(JMSA)主催「NYライフ・サイエンス・フォーラム」運営委員など。

Columbia University Medical Center

Naomi Berrie Diabetes Center
Russ Berrie Medical Science Pavilion
1150 St. Nicholas Ave.
(bet. 167th & 168th Sts.)
www.rhaeuslerlab.com

 

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1240

今年のセントパトリックデーはイル文化を探索しよう

3月17日(土)のセントパトリックデー(Saint Patrick’s Day。以下:聖パトリックデー)が近づくとニューヨークの街中が緑色の装飾で活気づく。一足先に春の芽吹きを感じさせるこの記念日は、アイルランドの血を引く人にとっては「盆暮れ」と同じくらい大事。大人も子供も大はしゃぎでパレード見物やアイリッシュパブに出かける。聖パトリックデーとアイルランド魂の真髄を紹介する。

Vol. 1238

どうする? 今年のサマーキャンプ

ニューヨークも少しずつ春めいてきた。そろそろ夏休みの計画が気になり始める。特にお子さんのいる家庭では「サマーキャンプ、どうする?」といった会話が食卓でも上るのではないだろうか? 大自然の中で思いっきり身体を使うお泊まりキャンプから、ニューヨーク特有のリソースを利用する市内のデイキャンプまで選択肢は山ほどある。どうやったら2カ月を超える長い夏休みを子どもが退屈せず、かつ、親のストレスなく過ごせるか? サマーキャンプ選びのヒントを集めてみた。