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虫垂炎を例に挙げて説明しましょう。
初期の虫垂炎の痛みは、「内臓痛」です。虫垂そのものの痛み(内臓痛)が、臓器側の神経を経由して脳に伝わるのですが、臓器側の神経が胃の近くを通るため、虫垂の内臓痛をみぞおちの辺りに漠然と感じます。これが虫垂炎の初期の痛みです。そのため、胃が痛いと勘違いされることが多いのです。内臓痛は重く鈍い漠然とした痛みです。
ところが炎症が進み、虫垂がある右下腹部の腹壁が内側から刺激され始めると、虫垂炎の痛みをこの部位の痛み(腹壁痛)として感じ始めます。鋭い痛みで、痛みの場所が明瞭です。この段階になると、徐々に虫垂がある右下腹部の痛みを自覚するようになります。
このように、腹部臓器疾患の痛みは、内臓痛と腹壁痛という、異なる種類の痛みが合わさって感じられることを、患者さんが知っておくと役に立つと思います。鈍い漠然とした痛みなのか、鋭く場所がはっきりとした痛みなのか。また、痛みが周期的に変化するのか、持続するのか。周期的に変化するなら、何秒、あるいは何分ぐらいの間隔を空けて変化するのかを観察して、医師に伝えるとよいでしょう。
左上のイラストに準じて説明しましょう。内臓痛と腹壁痛を加味すると、このイラストが示す通り単純ではありませんが、臓器の場所の基礎知識として知っておくといいでしょう。
①右上腹部の痛み=肝臓、胆道、十二指腸、右腎などの疾患が考えられます。
②みぞおちの痛み=食道、胃、膵臓(すいぞう)といった消化器系の他に、心臓疾患も考えられます。心筋梗塞や狭心症の痛みを「胃が痛い」と訴える患者さんは本当に多いのです。
③左上腹部の痛み=この部位に痛みを生じる疾患はあまりありません。特殊なケースで、脾臓(ひぞう)、膵臓(すいぞう)、大腸、左肺の疾患などが考えられます。
④右側腹部の痛み=痛みが腹部前面であれば憩室炎(けいしつえん・大腸の疾患)を、背中側なら右腎臓の結石などを疑います。
⑤へそ周辺の痛み=この辺りは、小腸がとぐろを巻いて折り畳まれている場所です。小腸の疾患のほとんどはウイルス性急性胃腸炎。この辺りが痛くて、痛みが波のように来たり引いたりし、下痢を伴う場合は急性胃腸炎です。
⑥左側腹部の痛み=この部位も右側腹部と同じです。前面ならば大腸の疾患、背中側なら左腎臓疾患を疑います。
⑦右下腹部の痛み=まず心配するのは急性虫垂炎です。そのほか大腸の憩室炎や右の卵巣の疾患も考えなければなりません。
⑧恥骨上部の痛み=男性はこの部位が痛むことは珍しいです。女性の場合は、恥骨のすぐ上辺りが痛むなら、子宮や卵巣の婦人科系疾患を最も疑います。排尿痛があれば膀胱炎。S状結腸の憩室炎である場合もあります。
⑨左下腹部の痛み=虫垂がないので、S状結腸憩室炎や左の卵巣の疾患を疑います。
以上の他にも、まだまだ腹痛は奥が深いですが、つまり腹痛にはさまざまな可能性があるということです。気になる腹痛は放置せずに、医師に相談しましょう。(後編につづく)
桑間雄一郎先生
Yuichiro Kuwama, MD
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内科専門医師(Board Certified)。
東京海上記念診療所院長、マウントサイナイ医科大学内科准教授。
東京大学医学部卒業後、腫瘍血管外科勤務を経て来米、ベス・イスラエル病院で内科研修を修了。
東大医学部非常勤講師、日本医師会総合政策研究機構・主任研究員などを歴任。
著書に「裸のお医者さまたち」(ビジネス社)、「極論で語る総合診療」(丸善出版)など。
東京海上記念診療所
Mount Sinai Beth Israel
Japanese Medical Practice
55 E. 34th St., 2nd Fl.
(bet. Park & Madison Aves.)
TEL: 212-889-2119
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