巻頭特集

ニューヨークで奮闘する 革新者たち

アイディアはお金を生み出すし人も幸せにする
僕のアイディアの原石は魚の骨でした

生鮮業の卸しの営業としてボストンで仕事をしていた雄次さんは、毎日大量に捨てられていく魚の骨を有効活用できないかと考え、Yuji Ramenの原形となる魚介ラーメンを生み出した。

いつか自分の店をもちたいと、イベントやポップアップに参加して少しずつ知名度を上げていったという。「昔は店舗をもちたくても、リースを契約するお金もありませんでした。しかし、ある時、ロウアーイーストにあるホールフーズで2カ月間だけポップアップをしないかと声をかけられ、その時、調理器具が十分になく、揃えるのに3000ドル必要だったんです。友達がクラウドファンディングを教えてくれて、やってみたらすごく反応がよく、目標金額の4倍くらい集まったんです。そのお金でリースを契約することができたんです。当時は綱渡りをしているような感覚でした」と当時を振り返る。

天然魚だけを使った一汁三菜の定食屋「Okonomi」。コンセプトは地産地消

雄次さんは繋がった客一人一人にメールを送り顧客管理を徹底したという。「インスタは今ほど盛り上がってはいなかったので、写真をアップして集客するという感じではありませんでした。うちは、10年前から来店してくれるお客さんもいるので、とにかく『お客様を大切に』の気持ちを忘れないよう徹底して社員にも伝えています」。

現在は、市内に鮮魚店の「OSAKANA」2店舗と、お寿司の「OKOZUSHI」などを運営。昨年オープンしたカフェ「As you like」については、「日本食という枠に囚われず、もっと色々な人に出会えるいい機会と思い、カフェ事業のパートナーと共に始めました。地域密着型を目指して、フリーマーケットや、寿司ナイト、子供連れで集まれる、お客さんにとって『3rdプレイス』になれたらと思います。他にも、地元アーティストによる陶芸の販売や、ファーマーズマーケットで出会った無農薬農家とコラボしてアイスクリームを作ったりもしています。とにかくお客さんに喜んでもらえたらいいなと思っています」。

 

原口雄次さん
Yuji Ramen/Okonomi、
Osakana、Okozushi創業者

栃木県生まれ。
2012年にブルックリン区にラーメンと、天然魚だけを使った一汁三菜の定食屋「Yuji Ramen/Okonomi」をオープン。
続いて鮮魚店「OSAKANA」や寿司屋「OKOZUSHI」、カフェ「As you like」などを手がける。
yujiharaguchi.com


多角度から驚きや、楽しさ、感動を提供できる

食ビジネスとは何かを常に意識

飲食店激戦区ミッドタウンに店を構える東京豚骨ラーメンの「TONCHIN」は、ミシュランのビブグルマンに連続選出され、昨年はブルックリン店を、そして今年はロサンゼルス店をオープンし、今もっとも勢いのある日系レストランとして注目を浴びている。

その魅力についてCEOの菅野亜南さんは「東京で30年間守り抜いてきたブランドとして、全ての素材を自家製にしていますが、ただ美味しいだけではなく全ての角度に驚きや、楽しさ、感動を提供するために一つ一つの物事に対してデザインから追求して、スタッフとともに『TONCHIN体験』とは何かを日々考えながら体現しています」と話す。

昨年オープンしたブルックリン店は洗練されたモダンな雰囲気

海外進出にあたり様々な困難もあったようで、一店舗目を開店するまでに2年以上もかかり、資金面やビザ、パーミッションなど苦労したようだ。またロサンゼルス店では、オープンして3日目で嵐による洪水被害を受けたという。

「レストランビジネスなので、最も大変なことも最も嬉しいことも、人のマネジメントだと感じています。様々なバックグラウンドを持つ人たちが集まる現場なので、そこには『当たり前』という言葉が通用しません。いかに、明確に仲間に対して、今私たちは何をしなければいけないのかを伝えるのは常に私の役割です。チームで掲げたビジョンに対して、同じ方向性を向いて実現するために日々楽しみながらプロジェクトを動かせるメンバーを一人でも多く作るということは大変なことでもあり、同時にやりがいでもあります。 そして、お店のコンセプト、デザイン、場所選び全て一から作っている立場としては、やはり描いていた景色にスタッフやお客様が集まり楽しそうに食事をしている光景を見たり、『美味しかったよ』と一言いただく瞬間は涙が出そうになるぐらい嬉しいです」と語る。

今後は、米国内で他のエリアへの出店を加速したり、他のジャンルの日本食に挑戦していくことも視野に入れているという。

 

菅野亜南さん
TONCHIN 代表

東京都出身。
幼い頃から家業であるラーメン店、食堂、居酒屋などを通して、人々の日常に寄り添う町の飲食店に触れる機会が多く、自らもその道を選びレストランでの仕事に携わる。
24歳でニューヨーク、ロサンゼルスへ行った際に、海外での豚骨ラーメンの可能性を目の当たりにし渡米することを決意する。
tonchinnewyork.com


日本のプロダクトを
世界へ広める企業家たち

米国人が作るプレミアム日本酒
「SOTO」

日本酒「SOTO」は各アワードを受賞するなど高い評価を受けている。「今までさまざまな飲料のマーケティングに携わっていたこと、日本食への情熱もあり、日本酒に惹かれていきました。私たちは新しい消費者に日本酒を届けるというビジョンをもち、アプローチを行ったことで反響があり、再注文が増えました。米国は世界で最も影響力のある市場ですが、新しい国での販売もしていきます」。コラボレーションで限定商品の開発も行っている。「『SOTO X YAMAGATA MASAMUNE 雄町 きもと 純米大吟醸』は、グラン・クリュと称される酒蔵と提携し、最古の酒米、雄町を使った純米大吟醸を造りました」。さまざまな事業を手がけてきただけに、起業の厳しさも知る。「すぐになくなるブランドも見てきたので息の長いブランドに育てていきたい」。

Billy Melnyk
SOTO Founder&CEO


世界100カ国以上で展開する
サブスクスナック

「Bokksu」は、日本の伝統的な菓子を届けるサブスクリプション。「日本で働いた後、米国に戻り、すぐに日本文化が恋しくなりました。2016年に日本から買ってきた菓子を元に『Bokksu』のベータ版を立ち上げました」。5年後、同社は1億ドルの価値を持ち、世界中に出荷している。競合他社と比べて「Bokksu」の強みは?「重要なのは日本のスナックメーカーとの関係です。市場に出回っている製品は安価で大量生産された商品の詰め合わせだと気づきました。私がやりたいことは、日本の小さな家族経営メーカーを支援することです。その関係に投資し、彼らのビジネスを長期的に発展させることで、伝統的なスナックメーカーが何世代にもわたって繁栄し、その技術を共有し続けることをしたいです」。現在では50人のダイバーシティーで優秀な人材を抱え、事業を進めている。

 

Danny Taing
Bokksu Founder & CEO

関連記事

NYジャピオン 最新号

Vol. 1245

春到来! 週末のプチお出かけ 〜ハドソン川流域・キャッツキル山麓編〜

桜の花も満開を迎え春の行楽シーズンがやって来た。ニューヨーク市内から日帰りできるハドソン川流域・キャッツキル山麓の人気のスポットを紹介しよう。

Vol. 1244

オーェックしよ

コロナ禍で飲食店の入れ替わりが激しかったニューヨーク。パン屋においても新店が続々とオープンしている最近、こだわりのサワードウ生地のパンや個性的なクロワッサン、日本スタイルのサンドイッチなどが話題だ。今号では、2022年から今年にかけてオープンした注目のベーカリーを一挙紹介。

Vol. 1243

お引越し

新年度スタートの今頃から初夏にかけては帰国や転勤、子供の独立などさまざまな引越しが街中で繰り広げられる。一方で、米国での引越しには、遅延、破損などトラブルがつきもの、とも言われる。話題の米系業者への独占取材をはじめ、安心して引越しするための「すぐに役立つ」アドバイスや心得をまとめた。