巻頭特集

ニューヨークで頑張る日本人パフォーミングアーティストたち

パフォーミングアーティストたちを応援しよう!

舞台に灯が戻ってきた今、ミュージカル、ダンス、舞台、音楽、それぞれのフィールドで自分たちの表現活動を追求し続けるアーティストたちに思いを聞いた。


夢の舞台で役を創り出す喜び

3年前、オーディションを経て念願の新作ミュージカル「プレゼントパーフェクト」のオリジナルキャストを手に入れた撫佐仁美さん。語学学校を舞台に多様な人間模様で、アメリカ社会を反映する意欲作だ。

撫佐さんは日本人生徒役で、作家も撫佐さんにインタビューをしながら役柄を膨らませる作品作りだった。劇中はソロナンバーも見せる。自分の人生が反映される舞台に、「諦めずにやってきてよかった」と俳優としての喜びを噛み締めているそう。

 

「ウェスト・サイド・ストーリー」に出演中の撫佐さん。前列左から2人目

劇団四季出身で、どうしてもニューヨークの舞台に立ちたかったという撫佐さん。留学で訪れた時は、ビザの関係で仕事に就けない悔しさを味わい帰国したが、日本で四季の舞台に立ちながらアーティストビザ取得の準備を進め、6年後の2013年、ビザを手に戻って来た。アメリカでは「ウェスト・サイド・ストーリー」「コーラスライン」などに出演し、本場の舞台経験を重ねてきたが、オーディションで仕事を得る過程は戦いと似ているという。「仕事が取れず、諦めようと何度も思いました」。そこでくじけなかったのは、自分の力で役を勝ち取る喜びを知っているからだ。

コロナ禍で「プレゼントパーフェクト」のフロリダ本公演は延期になったが制作は続いている。「誰にもこの役を渡したくない」。俳優としてそう思える役に巡り合えた手応えを感じる中、これからは希少なアジア系の役を追うだけでなく、自分で創っていける俳優になりたいという。

今はアジア系俳優へのチャンスが広がっていると感じている。時代が変わるのを待つだけでなく、自分もその変化を起こす側として、今撫佐さんは確実に前進している。

 

撫佐仁美さん
ミュージカル俳優
musahitomi.com

 

●今後の出演舞台●
9月19日から10月30日まで、アリゾナ州ブロードウェー劇場で、ミュージカル「シカゴ」に出演
azbroadway.org


人間のエネルギーをダンスに昇華

「ダンスに出会って、自分がどういう人間で、どういう生き方をしたいかを初めて考えるようになりました」と語る石黒裕紀さんは、経済を学ぶために入学した立命館大学のキャンパスでブレイクダンスを目にして衝撃を受けた。2009年にニューヨークのコンテンポラリーダンスの拠点「ダンス・ニュー・アムステルダム」へ留学。11年にアーティストビザを取得し、ダンス公演、ツアー参加、ダンス教師として、アメリカ各地で踊ってきた。そして行き着いたのが「自分の動きを作る側になる」ことだった。「人の振り付けで踊るよりも、自分の作品を作りたい」という思いで、18年、ニューヨークでダンスカンパニー「Yu.S.アーティストリー」を創立した。

 

「ここまで10年かかりました。苦労で死にそうな目にも3回くらいは遭いました」と真っすぐな目で語る石黒さん。カンパニーを持つことで自分のスタイルを継承してくれるコミュニティーを作っていくことが目標だそう。

パンデミック時は、ペンシルベニア州のダンス学校で教えていて、半年間ニューヨークに戻ることができなかった。その学校長が学校閉鎖後4日目にはオンラインクラスを始め、ゴルフ場の駐車場でドライブイン形式で発表会を開催するなど、組織を率いる者の素早い判断力に刺激を受けた。

自粛中は「クリエーションの時間だった」と石黒さん。映像作品も制作したが、動画は編集を見せるもので踊りを見せるものではないと感じたともいう。劇場でしか得られない、視覚可できない人間のエネルギーが石黒さんのダンスだ。

「見た人が物語を想像できるような刺激的なダンスを作りたいです」。現在は新作公演に向けて資金集めも進行中だ。

 

 

石黒裕紀さん
振付家、ダンサー、Yu. S.アーティストリー芸術監督
yukiishiguro.com

 

●今後の出演舞台●
現在、新作準備中。詳細が決定次第、HPで発表されるので要チェック。


内に秘めた情熱で表現を探求し続ける

昨年3月、ブロードウェーで陽性者が出た時、川久幸(かわひさ・ゆき)さんはオフブロードウェー公演「スーサイドフォレスト」の舞台に立っていた。延長公演が決まった矢先だった。

「電話で翌日からの公演中止を伝えられた舞台が大半だった中、私たちはプロデューサーから最後の上演をするかどうかの選択肢を与えてもらいました」。観客に説明をし、「今夜が最後」と思って舞台を務め、気持ちの区切りをつけることができたという。劇場の灯が消え、「明日からどうなる」と呆然とした数日後、彼女はクマのかぶり物をしてYouTubeで配信を始めた。ある朝目覚めるとクマになっていたという、その名も「変身劇場」。以来1日も休むことなく、現在まで配信は500回を超える。

 

川久さんの作品「wonder.I. wanderer. I am.somewhere. in between.」より

毎日こつこつ綴ることを、「表現者としての筋肉を鍛える修行かもしれません」と語る。「バリでダンスなどを学びましたが、バリでは芸術と信仰の境目がありません。アートも日常生活の中にあります」。クマの「仮面」に日常と創造の境界線を超える可能性を感じているという。

川久さんの舞台は、癒やされるが胸に刺さる。一度一緒に仕事をした人は、また彼女と作品作りをしたくなるのだ。

カナダで舞台修行を始めた川久さんは、ニューヨークの名門リー・ストラスバーグ演劇学校で身体表現に出会った。全米俳優組合へ加入しているが、それは創作活動にとって重要ではないという。「自分の拠点はアンダーグラウンドにある」という川久さん。

この秋、コペンハーゲンで創作研修に参加する。身体表現で名をはせる劇団コンプリシテとの共同企画であることも、川久さんの意欲をかき立てている。

 

川久幸さん
パフォーマー、俳優
yukikawahisa.com

●今後の出演舞台●

ニューヨークでのパフォーマンスはしばらく未定だが、「変身劇場」はYoutubeで毎日更新中。@Yuki Kawahisa

               

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