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劇場の灯が消えて1年半、ニューヨークの劇場が戻ってくる。ブロードウェーやメトロポリタンオペラ、カーネギーホールなどの劇場再開とともに、小・中劇場やコミュニティーに根ざすアーティストたちも、新たな決意を胸に再始動しつつある。ニューヨークで頑張る日本人パフォーミングアーティストたちに取材した。(取材・文/河原その子)
いよいよ舞台にカムバック!
ニューヨーク在住日本人パフォーマーたちの今
2020年3月12日は、舞台演劇、コンサート、ミュージシャン、ダンサーなど、あらゆるパフォーミングアーティストそしてスタッフ、現場関係者にとって忘れられない日だ。前日ブロードウェーの舞台で陽性者が出て、この日を境に観客を目の前にしたパフォーマンスは中止になった。厳しい条件付きで劇場が観客を再び迎え入れることができたのは1年後、今年4月1日になってからだ。当初、パフォーミングアーティストたちは、仲間や観客に稽古場や劇場で会えない日がこれほど長く続くとは誰も予想していなかっただろう。
新しい可能性を探って
観客の反応を受けて初めて完結するライブパフォーマンスに関わる者にとって、同じ時間と空間を人々と共有することができないということは、これまで当たり前だと思っていた、自分たちの表現手段がなくなったということだ。しかし選択肢がなくなった時、今まで考えたことがなかった可能性も見えた。
オンライン配信に舞台が移った時に、改めて映画やテレビの映像作品と自分たちのライブパフォーマンスの違いに向き合う人もいただろう。配信によりこれまで届かなかった観客の存在を意識し、手話や字幕の活用などによるインクルーシブシアターへの理解も深まった。コロナ禍で可視化された、社会的、経済的格差、人種差別への問題意識の高まりなど、オンラインの手軽さで、ワークショップや意見交換などの企画も増えた。世界的アーティストのセミナーに参加したり、現地へ赴かずに世界的フェスティバルを体験したり、普段自分の行動範囲の中だけでは出会わなかったであろう人々と、地域差、時間差を超えて交流が増えたことで、舞台がストップしなければ「できたことだが、やらないでいたこと」に気付かされた。
しかし、これは同時に、ライブパフォーマンスや演劇における観客の存在の意義、人前でパフォーマンスを行う「べき」理由を再確認することでもあった。ライブでしか伝えることができないというこだわりを手放さざるを得なくなったことで、有観客で人と人のエネルギーが集まることが、いかに人間にとって必要だったかをも考えさせられた。「集う」場での表現活動の特別さを改めて発見するプロセスだったとも言える。
「集う」エネルギーを求めて
ニューヨーク在住の日本人コミュニティーもこれまでになくつながった。ニューヨークがロックダウンになってすぐに立ち上がったフェイスブックグループの「NY情報共有」「エンタメ情報共有」は、5000人を超えるメンバーが新型コロナウイルス感染対策や生活情報を共有しあい、日本人アーティストたちの配信、公演、クラスの情報を現在に至るまで、積極的に発信し続け、多くのアーティストを支援してきた。
芸術という形式以前に、「集う」エネルギーは、作り手と観客どちらもが存在して初めて活性化する。スタッフも裏方もどちらも参加者だ。失ったことで得たことを胸に舞台に彼らが戻ってくることは、単に「元に戻る」だけではなく、この経験を経ての新しい表現の始まりだ。本格的に舞台や公演がコロナ禍以前のように戻るまでにはまだ時間がかかるだろう。こんな時だからこそ、ニューヨークで頑張る日本人アーティストたちを応援しよう。
河原その子
舞台演出家。
New York Theater Workshop、The Drama League、Mabou Mainesなどのフェロー&レジデント。
リンカーンセンター・ディレクターズラボ、日本演出者協会会員。
フォーダム大学、ボストン大学招待アーティスト。
2021年秋学期はプリンストン大学で講師を務める。
コロンビア大学院舞台演出修士(M.F.A.)。
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