巻頭特集

ニューヨークで頑張る日本人パフォーミングアーティストたち

出会いが紡いだ新たな音色の世界

幼少からクラシックピアノを学んできた田中舘芙未(たなかだて・ふみ)さんだが、子どもの頃の夢は宇宙飛行士。ウェスリアン大学では地球環境科学を専攻し、ピアノの道に進むことは考えていなかった。しかしその後、クラシックピアノで大学院に進み、創造の世界に巡りあう。

和太鼓に関わるきっかけは、大学で受講した和太鼓の授業を担当していた元鼓童の渡辺薫氏との出会いだ。マンハッタン音楽院でピアノの修士課程に勤しむのと並行し、ジャズ出身の渡辺氏の元で和太鼓の修行も開始。打楽器というピアノとの共通項がありつつも、クラシックでは経験しなかった即興という新しい面白さを和太鼓を通して感じた。田中舘さんの音の世界に新たな楽器が加わった瞬間だ。

 

渡辺薫氏(中央)、吉井盛悟氏との演奏

ソロ活動も増え、オペラや演劇とのコラボレーション、映像音楽、渡辺薫太鼓センター(KWTC)をはじめ、国内外の太鼓カンファレンスでの指導など、活動の場はどんどん広がっていった。

コロナ禍では、充電の時間としてポジティブに捉え、ピアノにじっくり向き合う時間もできた。しかし、コロナで延期になった台湾と韓国のアーティストとのトリオ公演が昨年12月に再開した時は、何度も台湾を訪れて音作りをしていた仲間との1年数カ月振りの再会に、喜びよりも不安が先に立った。一緒に過ごすからこそ生まれるつながりがあり、もの創りは目に見えない大切なものがあると改めて実感した。伝統を踏まえつつ、この先どんなものを残したいかを仲間と再確認できたと田中舘さん。

カテゴリーに捉われず、出会ってきた音色やリズムを吸収、融合して音を紡ぐ田中舘さんの挑戦は続く。

 

 

 

田中舘芙未さん
音楽家、ピアノ・和太鼓・笛奏者
taikonyc.com

●今後の出演舞台●
9月からKWTCで太鼓のクラスを開始する。詳細はウェブサイトでチェック。


プロデューサー高橋友紀子さんに聞く
NYパフォーミングアーツ界のこれから

舞台芸術家たちの活躍の場を提供する立場で、20年にわたり日米在住日本人アーティストの活動に携わってきた高橋友紀子さんに、昨年のNYパフォーミングアーツ界の振り返りと今後を聞いた。


今回のような、1年以上にわたる長期の劇場閉鎖は演劇界始まって以来のことでした。皆一斉に仕事がなくなり、アーティストにはいろいろな救済プログラムが立ち上がりましたが、制作、スタッフ、通訳などアドミニ系への救済プログラムはほとんどなく、これは今後の業界の課題といえるでしょう。

スポンサーの資金繰りが難しくなり、将来的に中止になった舞台も多くあります。観客にワクチン接種が義務付けられ、国内外からの観光客の見込みも厳しく、ブロードウェーも地元観客頼みで、これら経営的なダメージの回復には4年はかかるといわれています。

一方で新たな可能性も

ですが逆に、コロナ禍を経験したことで新しい可能性も見出されました。舞台はライブであるべきとの思い込みがありましたが、配信だからこそ観客の心に届くこともあると気付いたことです。配信での観劇に慣れて劇場に観客が戻らないのではという懸念もありましたが、実際は逆で、配信を見たことで次は劇場で本物を見たいと思う人が増えるという効果がありました。

特に経済的、健康上の理由で劇場に行けなかった人たちが、配信を通して舞台芸術に触れるチャンスが増えたことは重要です。劇場が、高額チケットを買える層だけでなく、包括的に人々を観客として迎えることができる、つまりインクルーシブになる可能性を見出しました。今後もライブと配信が併用されるようになるのではと思います。

日本人パーフォーマーにもチャンス

もう一つの大きな変化は、BLM、アジアンヘイトなど、この1年で明るみになった人種問題が、舞台芸術界にも影響を与えたことです。アジア系俳優への意識改革も広まりました。先月、トニー賞受賞のオール白人キャストの人気ミュージカル「紳士のための愛と殺人の手引き」が、リア・サロンガの呼び掛けで全てアジア系俳優とスタッフで配信上演され、大きな反響を呼びました。

アジア系のために作った作品だけでなく、「どんな作品でも、優れたパフォーマーは人種に関係なく配役されるべきだし、その力がある」というメッセージを印象付けたのです。

加えて、舞台俳優組合にO-1ビザ(アーティストビザ)で加入できるようになるなど、組合加入への門戸が広まりました。この動きは日本人パフォーマーにとっても大きなチャンスでしょう。

9月から再開するシーズンは、人々の思いを反映した新たな出発になると思います。皆さんもぜひ劇場に足を運んでみてください。

 

高橋友紀子さん
プロデューサー、コーディネーター、演劇ライター

1993年来米。
NYU舞台芸術経営修士課程を経て、日生劇場、サントリーホール、カーネギーホールなどでの舞台芸術の国際交流に携わる。
ライターとして朝日新聞「論座」などでブロードウェー情報を執筆。


◆ ◆ 日本人パフォーマー出演の注目のパフォーミングアーツをチェック! ◆ ◆

この秋のカーネギーホール公演
Breakthrough

※高橋友紀子さんオススメ!

新潟とニューヨークを拠点とする三味線プレーヤー、史佳(ふみよし)さんが2度目のカーネギーホール公演を行う。伝統から和と洋のフュージョンまで、パンデミックを打破し、次なるステージへ。特別ゲストは”ジャズベースの神様”のロン・カーターさん。

【日時】10月17日(日)午後2時開演
【会場】カーネギーホール ワイル・リサイタル・ホール
carnegiehall.org


ショートムービーをオンラインで配信
3×13

ニューヨークを拠点に活躍するダンサーの逢坂由佳梨さんが、13人のダンサーと共にニューヨークの街中で舞う。13人のダンサーたちとコラボした「Yaa Samar! Dance Theatre」による短編映画。この秋、日本語訳でも公開される。

下記のサイトから視聴しよう!
3x13film.ysdt.org

 

 

 

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