共感マーケティング

第229回 掛け算する

〝共感〟をキーワードに独自のマーケティング理論を展開するブランディングコンサルタント・阪本啓一の「マーケティング力アップ講座」。



商売は、「選ばれる」ことの連続です。繁盛するイコール、選ばれ続けると同義です。顧客が選ぶのは、自分にとって価値があると思うからです。

その点、顧客はリスクを負っています。映画を観て、面白くないからといって料金は返ってきません。

美容院で思ったような仕上がりにならなくても「お金返して」とは言えません。ラーメンがおいしくなくても、代金は支払わなければなりません。


埋もれてしまう

その点、「タランティーノ監督の新作なら私の好みだろう」「**ラーメンは、まず、裏切らない」という、事前の品質保証・担保がブランドです。

とはいえ、

「エステティシャンです」

「経営コンサルタントです」

「日本食レストランです」

では大きすぎます。ブランドにはなり得ません。

ニューヨーク州に日本食レストランは1892軒あり、2010年の1439軒に比較して132%増加しています(18年、ジェトロ調べ)。つまり、「日本食レストラン」だけでは1/1892になってしまいます(あくまでニューヨーク州全体ではありますが)。

埋もれてしまい、選ばれるためには千分の1な話になってしまいます。どうすればいいのでしょう。


小さく考える

「エステティシャン」「経営コンサルタント」「日本食レストラン」は大きい。これに小さい要素を掛け算するのです。

10に5を掛けると50、10に0・1を掛けると1になります。50と1、それぞれがライバルの数です。掛けるのが5だと50人、0・1だと1人です。掛け算前には10人なのが、5だと5倍に、0・1だと1/10の1人、つまり、自分だけになるのです。あくまで机上の計算ですが。

経営コンサルタントで考えてみましょう。掛ける要素というのは、「組織開発」「戦略構築」「マーケティング・アドバイス」……というようなことです。どれ一つ取ってみても簡単なことではありません。身に付けるためには膨大なエネルギー、費用、時間が必要です。

しかし、苦労して手に入れても、こういう「どこかで耳にしたなあ」というありふれた要素では、ライバルを増やすだけになってしまうのです。要素の数だけライバルが増える……この掛け算のパラドックスに注意しましょう。

知人は長く水産業界にいた経験を生かし、「イカの定温配送」についての深いノウハウを持っています。このノウハウを持っているのはおそらく100人に1人でしょう。すると1/100、0・01になります。10×0・01=0・1。めちゃくちゃ小さくなります。「経営コンサルタント×イカの定温配送」の掛け算は正解なのです。

ブランドになるための掛け算=A×B=大×小

選ばれてナンボ、選ばれ続けるために、どこまで小さい要素を得意にできるか。日本食レストランだと、どうなるでしょう。

「お茶漬けしか置いてません」「漬物をおいしく食べる店です」「食後の日本茶をおいしくいただくための食事のみを置いてます」

狭く、濃くしましょう。広く、薄くは、選ばれるどころか見つけられることもない時代です。

 

今週の教訓
小さい要素を「得意」にしましょう!

 

阪本啓一
ブランディングコンサルタント。大阪大学人間科学部卒業後、旭化成入社。
2000年に独立し渡米、ニューヨークでコンサルティング会社を設立。
06年、株式会社JOYWOW創業、現在取締役社長。
地球と人をリスペクトする、サステナビリティ経営の実現に取り組む。
「ブランド・ジーン〜繁盛をもたらす遺伝子」(日経BP社)などの著書・訳書、講演活動も多数。
www.kei-sakamoto.jp


 

読めばわかるこの一冊

 

働く君に伝えたい「お金」の教養
出口治明

『○万円貯めること』ではなく、『毎月確実にお金が入ってくること』のほうがずっと大切」(本文より引用)

 

特に若い人に向けて、お金について話しかける内容です。私も20代、30代の人と話していると、彼らに共通する「将来の不安」は、煎じ詰めてみると「お金の不安」だとわかります。「不安」は「知らないこと」から生まれます。お金の不安は実は思い込みであり、「お金の正体について知る」だけで不安は消えます。

「(お金について)知る編」「使う編」「貯める編」「殖やす編」「稼ぐ編」の5講。著者の出口さんは日本生命に長く勤務され、還暦を前にして、インターネットで販売するライフネット生命を起業した経験から、お金について懇切丁寧に解説してくれます。「掛け捨てと貯蓄型の保険の違い」など、意外に知らないお金の仕組みがわかります。私はこの本、息子にプレゼントしました。お金の心配は、知識さえあれば消えるものです。

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