2015/12/11発行 ジャピオン843号掲載記事

堀古英司の経済ミラクルキャッチ!

第16回 「大き過ぎてつぶせない」に幕

FRBの新ルール
金融機関救済に変化


 「大き過ぎてつぶせない」(Too Big to Fail)という言葉をご存知でしょうか。金融危機時に金融機関が破綻の危機に直面した際、もし本当に潰してしまうと、その金融機関だけでなく、アメリカの金融システム、ひいては世界経済まで大変なことになってしまうので、救済するしかないという状況の時によく使われた言葉です。

 金融危機から7年以上たって、われわれの生活は金融危機前と変わりない状況に戻っていると思います。しかしもしあの時、「大き過ぎてつぶせない」金融機関をつぶしていたら、今のわれわれの生活は経済的にかなり異なったものになっていたでしょう。

 「住宅バブルに踊った金融機関が、その責任も取らずに税金で助けてもらっている」として、大手金融機関はアメリカ中から非難を浴びました。もうかっている時はその利益を経営陣と従業員で山分け。しかし一転して危機にひんしたら税金で助けてもらう。そして危機が去るやいなや、巨額の報酬の支給を再開する…。

さらに非難を高めた
金融機関の開き直り

 しかし大手金融機関の経営陣は非難に対して、こう発言しました。

 「われわれが助けられていなかったら、アメリカ国民の生活はとても厳しいものになっていたはずだ」

 同じ金融業界にいる私も、これら一連の大手金融機関の態度には完全に愛想が尽きました。

 それでも当時は「大き過ぎてつぶせない」金融機関を救済するしかありませんでした。例えて言えば、隣の家で火事が起こっている。火事は隣の家の責任だけれども、まず火事を消さないと自分の家に飛び火するかもしれない。責任の追及は後回しにして、まず火事を鎮静化することに集中するしかない、という状況だったということです。
 
 その後、隣の家の人が「ご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。今後二度とこのような事が無いように気を付けます」と言うのであれば、納得できるかもしれません。しかし「消火活動に協力してなかったら、あなたの家も燃えていたよ」などと言われたら、批判が高まるのは当たり前でしょう。

 金融危機が去ってから、「ウォール街を占拠せよ」という運動が起こりましたが、背景にはこのような状況があったわけです。

FRBが発表
金融救済の新ルール

 このような理不尽な状況を二度と起こさないためには、前もって準備しておかなければなりません。隣の家で火事が起こっても、自分の家に飛び火しないようにしておくことです。金融危機後、そのような検討がなされてきましたが、先日ついにそのルールが決まりました。連邦準備制度理事会(FRB)が定めた、「個別の金融機関が危機に陥っても救済しない」というものです。

 金融危機時にAIGという世界最大の保険会社が救済されましたが、今後はあのような救済措置は取られなくなります。ただ一方で、国の金融システム全体が大きく傷つくような事態には救済に乗り出します。具体的には「五つ以上の金融機関を対象にする場合のみ」というルールに改められました。
 また現在大手金融機関は、監督当局に「遺言状」を提出することが義務付けられています。これはその金融機関が破綻の危機に陥った時、金融システム全体に迷惑をかけることなく、どのように清算してほしいか、そのプランをあらかじめ記したものです。これにより、例え大手金融機関であっても破綻する時は破綻し、その一方で金融システム全体に影響が及ばないよう配慮されることになりました。

 今後、大手金融機関でもつぶれる時代が来るのだ、と思うと少々恐ろしく感じられるかもしれません。しかしルールがあらかじめそうなっていれば、金融機関も顧客の方もより慎重になりますので、ひいては金融危機のような事態は起こりにくくなるものです。もちろん、だからといって将来、再び金融危機のような事態が起こらない保証はありませんが、少なくとも今後「大き過ぎてつぶせない」という理不尽なてんまつには、もうならないということです。


AIGは金融危機の際、「大き過ぎてつぶせない」としてアメリカ政府によって救済措置が取られた

堀古英司

堀古英司
■ニューヨークに拠点を置く投資顧問会社、ホリコ・キャピタル・マネジメントLLC最高運用責任者。テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」をはじめ、メディアに多数出演。著書に「リスクを取らないリスク」。関西学院大学時代、アメフト部で活躍。

今週の用語解説

AIGの救済

2008年9月16日、金融危機を受け経営危機に陥ったアメリカ最大の保険会社、アメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)に対し、政府とFRBが850億ドルの融資を決定。政府がAIGの株式の79.9%を取得し事実上の国有化となった。その後も追加投資を続け、政府が投入した公的資金は総額1820億ドルに達し、財務省のAIG株保有率は一時90%を超えた。2012年12月11日、財務省は保有していたAIGの普通株式の残り約2億3417万株を全て、約76億ドルで売却すると発表した。

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