巻頭特集

日本の手仕事を特集

NYで息づく日本の手仕事

伝統を継承しながら独自に発展させる作家や、注目のギャラリーオーナーらが発信する日本の手仕事を紹介する。


和紙
サステナブル&エコロジー可能性は無限大

さまざまな技法を駆使した和紙を使って建築用建具や照明、タペストリーなど、ハイエンドなインテリア作品の制作を手掛ける和紙作家で建築家の小平(おだいら)伸浩さん。世界中にVIPクライアントを持つ小平さんに和紙の魅力を聞いた。

表現媒体として和紙を選んだきっかけは?

大学院で建築を勉強し、建築事務所を立ち上げた直後に同時多発テロに遭遇したことがきっかけです。現代文明の象徴のようなタワーがあっという間に崩壊。2977人が亡くなり、グラウンドゼロはがれきの山となりました。アスベストなどの有毒な粉じんが飛び散り、今でもその後遺症で亡くなる人が後を絶ちません。

建築を生業(なりわい)とする自分ができることは何か、傷ついた人々の生活に安らぎをもたらすものは何かと自問したときに、人と自然の生態系に有害な物質を含まない、サステナブルで地球環境に優しい和紙に行き着きました。一つ一つを手仕事で行う紙すきというプロセスは、マスプロダクト=消費文明へのアンチテーゼであり挑戦です。多国籍社会のアメリカで日本人としてのアイデンティティーを意識し、遠く離れた母国である日本とポジティブに関わりたい、日本人であることを誇れるような仕事をしたいと思いました。

和紙の魅力とは?

和紙は木の繊維と水の流れから織りなされる立体造形です。表面の凹凸が光を反射したり通したりする時に生まれる豊かな表情、柔らかな色や質感といった美の側面と、耐久性、通気性といった用の側面が共存する和紙は、古来より日本の生活空間にさまざまな形で活用されてきました。私が専門とするインテリアの分野で、和紙を使った日本伝統の建具である襖を例に説明しましょう。襖は部屋を仕切るドアですが、絵が描かれ細工が施された、まさに「日常に存在するアート」です。また、和紙を「折る」「包む」ことで伝える礼のたしなみは日本ならではのものです。和紙は、暮らしに快適さと潤いをもたらす知恵や可能性を無限に秘めていると思います。

小平さんが手掛ける和紙インテリアとは?

一言で言うなら「和紙でなければできないもの」です。私の代表作品に無色透明な素材に和紙をはめ込んで光を具現化した「NYふすまドア」(写真下)があります。これは、光るスライディングドアで、扉の向こう側が所々見えることで、日本の障子のように外と内の曖昧な空間を感じさせる効果があり、さまざまな空間で使われています。制作の一部は江戸時代から続く工房で人間国宝級の職人たちによる手仕事を経た後、ニューヨークで作品として仕上げています。

日本ならではの「曖昧な美しさ」を表現した、小平さんの代表作「NYふすまドア」(個人宅に設置)

 

小平伸浩さん

和紙作家、建築家。江戸時代から続く和紙の技法をよみがえらせ、現代の和紙を使ったインテリア作品を制作する集団「プレシャスピース」主宰。
これまでにディズニーワールド、ブルーミングデールズ、ノブなどの他、MoMA改築のプロジェクトにも関わる。
プラットインスティチュート修士課程建築学科で学ぶ。
新潟県出身。
hiroodaira.com


金継ぎ
修復で吹き込む新しい命壊れや経年劣化に見出す美

セラミックアーティストや器好き、茶道をたしなむ人たちの間で静かなブームとなっているのが日本古来の修復技法、金継ぎ。ブルックリンを拠点に活動する金継ぎ師の軍司裕子さんを訪ねた。

金継ぎの魅力とは?

金継ぎとは漆や金、銀を使う器の修復技法です。古くは室町時代からあったとされ、それ以降、工芸技術の発達に伴い、経年劣化やひび、破損を「景色」「わびさび」として愛でる茶道の精神と共に受け継がれてきました。壊れに美を見出す日本の思想は、壊れた痕跡を消し去る西洋の修復とは真逆です。修復して新しい命を吹き込むといっそう愛着が湧きますよね。壊れた歴史もその人の「ストーリー」として大切にする、そこが魅力だと思います。

なぜ金継ぎを仕事に選んだのですか?

美大でグラフィックアートを専攻し、手を動かして何かを作ることがずっと好きで、そのようなことができる仕事をしたいと考えていました。2017年初めにニューヨークに来て、蒔絵(まきえ)アーティストの更谷源先生が金継ぎのクラスを開いていらっしゃると知ってビビッときました。実家は祖父の代からの美術品・骨董品収集家で、今は美術館を運営しています。そのような環境で育ったせいか、小さい頃から金継ぎの作品を目にしていましたし、日本人として日本の工芸や伝統文化をやりたくなったんです。更谷先生に弟子入りし、工房には4年いました。

金継ぎの種類と工程は?

金仕上げ、銀仕上げ、漆(黒・赤)仕上げなどがあります。金と銀には消し粉と丸粉の2種類あり、丸粉は粒子が大きいので傷に強い。色が濃くメタリックなので高級感があります。作業工程をざっと説明すると、漆と小麦粉を混ぜたもので割れた断面をつなげ、室(むろ)で固め、砥石の粉と漆を混ぜたもので隙間を埋め、室で固め、削って平らにし、その上に色漆を塗り、再び室で固めます。塗りの工程を何回か繰り返した後に、再度、色漆を塗り金や銀をまきます。丸粉の場合はさらに磨く工程が増えます。

これからは?

引き続き金継ぎ師として活動し、習いたい人にも教えて、正しい金継ぎの知名度を上げていきたいです。壊れていないのに金を塗って「金継ぎ風」として発表するアーティストが多いけれど、金継ぎは自然にできた壊れを修復するもの。そこをきちんと理解してほしいです。器などに限ったことではないのですが、作り手へのリスペクトを忘れずにものを長く大切に使うことは、環境問題の解決にもつながりますし、人の心を豊かにすると思います。「子孫代々、何百年も使ってほしい」。そう願いながら金継ぎをしています。

 

消し粉で修復した、陶芸作家、タケダシノさんの楽焼タンブラー。約2カ月半かけて、細かく割れた破片をつなぎ合わせたという

 

軍司裕子さん

金継ぎアーティスト。
ニューヨークを中心に米国全土からの修復依頼を受け、陶器を中心にガラスや木、石など、これまでに1000個以上の割れや欠けを修復。
ブルックリンやマンハッタンで金継ぎの指揮の傍ら、ワークショップやレクチャーも行っている。
多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。
千葉県出身。
yukogunji.com

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