巻頭特集

NYの「ドラァグクイーン 」ーその歴史から最新スポットまで

華やかで、挑発的で、どこまでも自由。ドラァグクイーンは、衣装とメーク、そしてパフォーマンスを通じて、性の境界を軽やかに越え、自らの存在を鮮やかに表現する。そしてニューヨークは、世界でも屈指のドラァグカルチャーの都。本特集では、1980〜90年代のアンダーグラウンドシーンの歴史から、最新のショーやクラブまでを紹介し、変化し続けるその魅力に迫る。(文・取材/篠原諄也)


ドラァグカルチャーは、1980〜90年代のニューヨークで黄金期を迎えていた。そう語るのは、ドラァグアーティストのリンダ・シンプソン。当時、イーストビレッジの伝説的クラブ・ピラミッドクラブを拠点に活動し、その周辺のドラァグクイーンの様子を写真に収めた。以降、ニューヨークのドラァグカルチャーを内側から記録し続けてきた第一人者だ。リンダがそうした歴史的背景について語るトークショーが9月にリンカーンセンターで開催された(「グリッターとコンクリート/ニューヨークのドラァグカルチャー史〜米国LGBTQ+博物館と回顧する」)。その模様を抜粋・編集してお届けしたい。

80年代にドラァグの活動を始めたリンダは当時の様子を次のように振り返る。
「本当に面白い時代でした。当初はドラァグは全くクールではありませんでした。ゲイバーもストレートのバーもドラァグを求めていませんでした。しかしイーストビレッジでは、ドラァグが祝福されていました。興味深いと思ったのは、主流から外れているからこそ、魅力的であると捉えられていたことです。それは本物の『反逆』であり、表現への渇望がたぎったアートなのでした」

リンダはイーストビレッジの伝説的クラブ・ピラミッドクラブの楽屋を仕切る存在となった。主催していたパーティー「チャンネル69」では、毎週異なるテーマのショーが繰り広げられ、いつも新たな出演者と観客でにぎわっていた。楽屋は地下の一室だったが、多様なクイーンが集う自由で民主的な社交場だった。

イーストビレッジで花開いたムーブメントは、次第にマンハッタンの他のエリアにも広がっていく。新世代のクイーンたちが登場し、その個性とユーモアは、当時盛り上がりを見せていたクラブカルチャーと共鳴した。リンダは91年から96年にかけての5年間が黄金期だったと語る。パラディアム、トンネル、ライムライトなどの大型クラブが夜ごとに熱気を放っていた。

「95年、ドラァグアーティストで俳優のチャールズ・ブッシュは『ニューヨークマガジン』の特集で「今こそドラァグの黄金時代」だと宣言しました。マンハッタンは世界のドラァグ首都なのだと。その表紙を飾ったのは誰だったでしょう? ドルチェ&ガッバーナのドレスを着た私なんです。その後、決定的な本が出ました。ジュリアン・フライシャーの『The Drag Queens of New York』。そこではキャンディス・ケイン(ドラァグクイーンでハリウッドで活躍するトランスジェンダー女優)が、私と同じドレスを着て登場しました。ル・ポールはすでに大成功していて、私たちも皆、名声と富を手にする寸前にいるように思えました」

しかし、状況は急速に変化していく。90年代半ば、当時のジュリアーニ市長の治安強化政策により、ナイトクラブの規制と摘発が相次いだ。ニューヨークのナイトライフは急速に萎縮してしまう。追い打ちをかけたのが、クラブキッズの象徴的人物マイケル・アリグによる薬物殺人事件。華やかだったシーンは一転して社会的非難を浴び、崩壊の道をたどった。

「大きなクラブが一つ、また一つと閉鎖されました。夜の住人たちは通りへと追い出され、街の熱気は静かになくなっていったのです。ドラァグとメディアの甘い蜜月も終わりを迎えました。報道は『ドラァグはただの浮浪者であり、栄華の時代は終焉を迎えた』と断じました。仕事は途絶え、ドラァグで生計を立てることは、難しくなりました」

「この黄金時代の終わりは、私にとってトラウマだったでしょうか。そんなことはありません。もともと私は名声と富を追い求めることにあまり関心はありませんでしたから。それに私は今でも大成するつもりですし、ここリンカーンセンターにいるじゃないですか。でも、あの頃を恋しく思うことはあります。素晴らしいクイーンたちのネットワークがあり、誰も踏み入れたことのない領域に大胆に進んでいきました。暗い時代に立ち上がり、喜びと輝きを表現しました。私たちは馬鹿げていてくだらなかったかもしれない。でもドラァグの精神を伝えるアンバサダーであり、戦士であり、ヒロインだった。誇張ではありません。私たちは偉大なドラァグ世代だった。あの頃はYouTubeのメーク動画なんてありませんでしたが、自分たちで美を作りあげました。個性を存分に輝かせました。そしてお互いに支え合っていました。それこそが私の恋しいもの。ニューヨークで毎晩絶え間なく続いたシスターフッド。あの全ての美しさが恋しいのです」

 

               

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