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演劇界の基本情報
米国の劇団は、日本と違い、基本的に劇団員を抱えない制作母体だ。俳優やスタッフはその都度雇用される。ブロードウェーから小劇場まで、業界の裏側をちょっと覗いてみよう。
<商業演劇と非営利劇団>
米国のプロの演劇は大きくわけて、商業演劇と非営利組織の劇団がある。
商業演劇:ブロードウェーに代表される、利益追求を目的に制作・上演する舞台。投資家の出資とチケットの売上げで収益をあげる。利益が望めないと、評価関係なくクローズも珍しくない。
非営利演劇団体:利益追求を目的とせず、社会的・文化的使命を掲げ、芸術の普及と社会貢献を目的とする。寄付、助成金、チケットの売上で運営。寄付は税金控除になる。
米国には国立劇場のような政府所有の公共劇場がなく、芸術は政府から独立して運営されるべきという建国精神を垣間見ることができる。
<セクハラ防止の演劇界の取り組み>
米国では「セクハラ防止研修」を雇用主に義務付けているが、芸術創作の現場は、暴力や性的表現に限らず、肉体的、感情的な危うさと隣合わせで、そこに力関係が加わりハラスメントが生じてしまうことが後を絶たない。2017年、その状況を打破するための画期的な試みが、シカゴの演劇界から発信された。大劇団から非ユニオンの小劇団まで、立場を越えた有志が、演劇の現場からハラスメントを排除する提言「シカゴ・シアター・スタンダード」である。盛り込まれるべき契約条項の提案を、38ページの文書にまとめたこの提言は大きな反響を呼び、現在多くの劇団が規定しているハラスメント防止条項の基礎になっている。
<ユニオンとは?>
ユニオンは労働組合を意味し、劇場の全ての職業にはユニオンがあるが、中でも一番力が大きいのが舞台俳優組合だ。1913年、低賃金や劣悪な労働条件に苦しむニューヨークの舞台俳優たちが、搾取から身を守るために設立した。現在、全米5万人以上の舞台俳優とステージ・マネジャーが加入。賃金保証、福利厚生、年金制度を提供する。ユニオンに加入しないと受けられないオーディションは多い。
制作形態ごとに、就労ルールや最低賃金が定められている。例えば来季度のブロードウェーの最低賃金は週給2349ドル、オフの商業演劇で週給772ドル、非営利劇団で週給729ドルになる。ここから経験、アンダースタディなどの追加役割、制作規模などの要件が加味され、賃金が決まる。
小規模公演には、組合と関わらないノン・ユニオンの公演と、「ショーケース」と呼ばれる低い報酬で組合の俳優が出演できる公演がある。その場合でも、組合俳優が好条件の仕事を得た場合、稽古や本番中いつでも舞台を離れられる権利があり、制作側にとって難しいいくつかの制限が加えられる。
意欲的なアーティストによるノン・ユニオン作品とのコラボレーションなど、自由な創作活動を継続するため、あえて組合に加入しない俳優もいる。
舞台俳優組合アクターズ・エクイティ・アソシエーション
ニューヨーク演劇の任務
演劇人は芸術家であると同時に社会経済に貢献する労働者
A.R.T./NYは、1972年の設立以来、ニューヨークのアートや演劇に関するセミナー、情報、助成、スペースの貸出など、多様なサービスを提供する中心的組織だ。一連のプログラムの戦略的ビジョンと目標を設定するプログラム・ディレクター、デビッドさんに演劇の社会的役割について話を聞いた。
─運営はどのように?
主に民間団体や政府機関の慈善資金で、ハワード・ギルマン財団、アンドリュー・W・メロン財団、ハースト財団、レオン・レビィ財団、ニューヨーク市文化局、ニューヨーク州芸術評議会(以下:NYSCA)などです。加えて個人からの寄付で運営しています。
─米国で、演劇は社会を形成する重要な要素と考えられている理由は?
演劇は社会の繁栄に不可欠な要素です。演劇はニューヨークの経済に大きく貢献し、すべてのニューヨーカーの生活の質を向上させています。私は、演劇人として最も重要な任務の一つは、人々がさまざまな視点を通して世界を体験し、また自分自身や自分の体験 が舞台に反映されるのを見ることによって、共感を育む手助けをすることだと信じています。 それを実現しようとしている演劇、特にニューヨークの演劇は、私たちの社会に不可欠なものであり、多くの人がその繁栄を望んでいます。とはいえ、米国の芸術に対する政府の財政支援は、その重要性に見合うものではありません。日本の状況は知りませんが、欧州では米国に比べて政府からの支援は確実に多いはずです。
豊富な情報が満載のA.R.T./NYウェブサイト
─なぜ演劇人を支援?
舞台芸術家は労働者であり、コミュニティーの大切な一員だからです。全てのフィールドに、その産業で働く労働者を支援する組織 があります。A.R.T./NYは、ニューヨークの非営利演劇産業で働く労働者のための組織です。演劇人は芸術家であるだけでな く、社会経済に貢献するプロフェッショナルなのです。
─コロナ禍での救済は?
緊急救済金を演劇人に届けるために多くの組織と提携しました。ギリシャの芸術・文化支援で有名なスタブロス・ニアルコス財団は、「何かできることはないか?」と私たちに資金提供を申し出てくれました。NYSCAは連邦政府からの救済資金を、私たちと共同で劇団に再分配しました。他の組織との協働なくして素早い救済は不可能でした。
─今後の取り組みは?
私たちは常にサービス内容を評価、改善し、今必要とされていることに対応します。ハイブリッドモデルの新しい世界で、生の演劇をどうプロデュースしていくのか、今変化の過渡期です。多くの人が限界まで追い込まれて疲弊する中、私たちが有益と思うサービスも、余裕のないアーティストに届きにくいと感じます。
そこで現在、非同期のリソースに注目しています。新しいポッドキャスト「What’s Off?」は、いつでも自由に、私たちの持つ有益なコンテンツにアクセスできます。
最終的なゴールは、公正で発展的な演劇に寄与する演劇人の育成です。人々への思いやり、機会平等、包括的な仕事場の価値を認める演劇人への支援です。
─セクハラ防止の訓練
演劇に限らず、あらゆる分野でセクハラは依然として存在します。私たちの演劇に特化したセクハラ防止トレーニングは、責任やリスクに関する会話から、身体の自律性や肯定的同意へと文化をシフトさせるようデザインされています。些細なことでも許されない環境を作ることが重要です。それが、いずれ起こる大きな危険を回避するからです。
デビッド・E・シェーン
A.R.T./NY プログラム・ディレクター、演出家
演出家としては、新作中心にオフ・ブロードウェー、地域劇団で活躍。演劇支援組織「シアターリソース」プログラム・ディレクター、ブリストル・バレー劇場のアソシエイト芸術監督などを歴任。
The Resident of Art Alliance of New York (A.R.T./NY)
art-newyork.org
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