巻頭特集

ホリデーを彩るワインの魔法

料理とワインの出会いが生む、味わいのハーモニー

ニューヨークで小柳津さんが絶大な信頼を寄せるソムリエ、ジェイミーさんとともに、その奥深い世界を語り合ってもらった。基本と創造性、そして対話が導く“最高の一杯”とは──。二人の対談から、そのヒントを探る。


ペアリングの基本と〝掛け算〟の魔法

 

ジェイミーさん:ソムリエの世界でまず基本とされるのは、“What grows together goes together”(同じ土地で育つものは合う)という考え方。イタリア料理にはイタリアワインが合うように、自然と調和するのです。加えて、酸・熟度・タンニン・重さなど、〝ワインの構造〟と料理を合わせる方法も欠かせません。

小柳津さん:ペアリングは〝掛け算〟だと考えています。ワインと料理が重なることで、新しい味わいが立ち上がるからです。爽やかな酸味のソーヴィニヨン・ブランにはビネガーが効いたカルパッチョ、樽熟成の濃厚なシャルドネには、バターやクリームの料理が好相性。酸や脂が衝突せず、味が同じ方向へ伸びていくとき、足し算にはない特別な一体感が生まれます。

ジェイミーさん:ホリデーシーズンの面白いペアリングは「シャンパン×フライドチキン」。シャンパンの爽やかな酸味と微かな甘さが油をスッと切ってくれます。私はクリスマスには中華料理を食べるのが定番なのですが、「リースリング×四川料理」は相性抜群で、酸味とやさしい甘味が辛さを包み込んでくれます。

小柳津さん:面白い。私は鴨やローストチキンなどクリスマスの鉄板料理には、軽やかなピノ・ノワールが繊細な旨味を引き立ててくれるので好きですね。

ジェイミーさん:構造を捉える発想と通じますね。基本を押さえつつ、料理の〝今の表情〟に合わせて調整していくのが、ペアリングの醍醐味ですね。

 

 

ソムリエの役割と、ゲストとつくる〝最高の一杯〟

ジェイミーさん:ソムリエはワインの専門家というより、〝レストランで最もホスピタリティーに長けた存在〟であるべきだと思っています。ゲストの体験を導き、レストラン全体を支えるのが本質的な役割なんです。

小柳津さん:私にとってレストランでの最初の一杯の注文は、今日の気分や料理との掛け合わせを探る〝儀式〟なんです。ソムリエやサーバーとの対話を通じて、「料理×ワイン」だけでなく、「知識×対話×誰と飲むか」が揃った瞬間、単なる食事が感動へと変わる。日本人はこの対話を省きがちですが、料理に合う一杯を探ることで、ソムリエの経験と世界が開け、感動の追体験が始まるのです。

ジェイミーさん:好みがわからないゲストには、過去に飲んだワインの印象から対話を始めます。ただ、「軽い/重い」さえわからないことも多い。だからこそ最後に価格感と、“I trust you”と伝えてもらえると、責任を持って選びたくなります。良いソムリエとは、ゲストの感覚を翻訳し、ワインの〝楽しさ〟を共有する存在だと思っています。

小柳津さん:正直、好みを聞かれても分からないことは多いです。だからこそ悩んだ時は信頼を委ねる。ソムリエの感性に導かれることで、想像もしていなかった世界が突然開けることがあります。

 

〝ワインの世界の深さ〟と、そこで広がる新しい食体験

小柳津さん:正直、ニューヨークに来るまでは、ワインがこんなに面白いとは思っていませんでした。ワインの違いや、味の良さもピンと来なくて。ですが、圧倒的なレストラン文化とペアリングの奥深さに触れ、景色が一変したのです。

ジェイミーさん:ニューヨークはアメリカ最大級のワイン市場で、質の高い輸入ワインが集まる〝流通の中心地〟。生産や専門知識に長けた西海岸とは異なり、古くから富裕層がワインを嗜む文化が根付いており、ワインを飲む歴史も深い。そのため、レストランもワインショップも自然とレベルが高くなります。

小柳津さん:だからこそ、日本では出会えないようなペアリングにも巡り合える。日常的に世界各国の料理とワインに触れられる環境は、人生を豊かにする投資だと思っています。ニューヨークにいるなら、積極的に体験すべきですね。

ジェイミーさん:本当にそう。ニューヨークに住む日本人には、世界トップレベルのワインにアクセスできる環境にいることを、もっと知ってほしいですね。ワインの世界は広く深い探求の旅。ブルゴーニュを極めるも、世界各国を飲み歩くもよし。自分のペースで楽しみ方が見つかるはずです。

ジェイミー・コーヘンさん ・ワインソムリエ

15歳でレストラン業界に入り、17年以上の経験を持つ。カリフォルニア州ナパバレー訪問を機にワインの道へ進み、オレゴン州やカリフォルニア州の高級リゾート、ミシュラン二つ星レストランで経験を積む。現在はミシュラン二つ星シェフ・ジャン=ジョルジュ氏のプラザ地区レストラン「フォー・トゥエンティ・ファイブ」で1300本以上のワインを統括している。

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スマートワインを楽しむ!ワンポイントマナー

テイスティング:グラスに少量注がれたら、まずは色と香りを確認。一口含んで味に問題なければ「Perfect, thank you.」と伝えれば十分。ただし、品質に疑問を持った際は遠慮なく指摘し、対話を通じて解決すること。

スワリング:グラスを回して香りを存分に楽しむのは、ワインを味わう醍醐味のひとつ。回すときは、必ず内回しにするのがマナー。失敗しても他の人にかかりにくく安心。

               

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