スタンドアップコメディーを見に行こう!

マイク1本で客を笑わせるスタンドアップコメディー。その内容は時事ネタや政治・経済、人種、宗教からジョークや下ネタまで幅広い。今回は、ニューヨークで奮闘する日本のお笑い芸人・村本大輔さんや、コメディーショーのプロデューサーとして活躍するドリュー・ビークラーさんらに、ニューヨークのスタンドアップコメディーについて話を聞いた。(文・取材/伏見真理子)


言葉を研ぎ独自のお笑いを貫くコメディアン・村本大輔

お笑い芸人の村本大輔さんは、ウーマンラッシュアワーのボケ担当として2013年に漫才コンクール「THE MANZAI」で優勝後、一年間で250本を超えるテレビ番組に出演。しかし、「ネタ」に政治問題を入れ始めてからその数は急落したという。日本のテレビ業界に見切りをつけ、単身活動の拠点をニューヨークへ。移住から今年の2月でちょうど一年を迎えた村本さんに話を聞いた。

 

村本さんのネタは自身のインスタグラムからも見られる

@muramotodaisuke1125

@comediandaisuke

 

─普段はどこでネタを披露されているのですか?

いくつかあって、一つは「ブラックキャットLES」というカフェで、月〜土曜日の午後7時と9時からオープンマイクがあり、芸人が各自8ドル払って参加するスタイルです。普通のカフェなので、お客さんは読書やPCで仕事をしていたりするのですが、7時になると突然MCがマイクで「コメディーショー!」と勢いよく喋りだすので、知らないお客さんはいつもびっくりしています(笑)。そんな感じのところで週3回くらいやっています。あと、老舗の「コメディーセラー」や「ザ・グリズリー・ペア」に有名なブッキングの人が見に来ていたりするので、チャンスを狙った芸人が集まる感じで、そこでもやっています。僕が出るのは早い時間なので、お客さんは全然いませんがなかなか貴重な体験です。

─村本さんは日本で、他の芸人がなかなか触れない問題に切り込むその姿勢に共感するファンが多いですが、ここではどのような反応を感じますか?

実は最近、カナダとニューヨークで、パレスチナ問題のネタをやってとても反応がよかったんです。その一方で、知り合いのイスラエル人の芸人からそれに対して、警告のような長文のメッセージを受け取ったり、別のステージで同じネタを披露しようとしていたら、企画側から「ここの店のオーナーはイスラエル人だから気を付けてね」と言われたこともありました。しかしその時、そのままネタをやったら会場は大ウケ。終わった後に店のオーナーに感想を聞いてみたら、フレンドリーな感じで「面白かったよ〜」と言ってくれたんです。たまたまだったかもしれませんが、思い切ってそのネタをやったことで僕にとって芸人として糧になった気がします。

 

「The Fear City Comedy Club」に出演しネタを披露する村本さん

 

─村本さんにとってスタンドアップコメディーとは?

コメディアンのジェリー・サインフェルドが「本物のコメディアンは、ギリギリの線を見つけて、その線の上でダンスをするのが仕事だ」と言っていて、すごく共感しました。「一線」を超えて仕事を失うのが怖いと感じて「その線」の内側ばかりにとどまるのは、僕が目指すお笑いではありません。安心安全のお笑いもありますが、僕はコメディアンの役割として緊張感のあるものを笑いに変えたいと考えています。

─今の目標は?

今まで人を笑わすのも、友達に何かお願いするのも、女の子をデートに誘うのも言葉巧みに日本語を使ってきましたが、Be動詞を40代になってから覚えて、ネタ作りの時は翻訳アプリを使っているのが現状です。1分あるネタを一生懸命ブツブツ声に出して覚えようとしても、うまく覚えられないし、覚えようとする言葉は、自分の本当の言葉ではありません。今は「本当にこれだけは言わしてくれ」というものに、しっくりくる言葉を自分なりに選別しています。こっちで(米国)で言葉を失った分、日本でまたネタをやる時は、すごく心のこもった言葉を発せられるようになるのではないかなと、自分自身、今後の変化が楽しみです。

 

村本さんおすすめのコメディアン

米国の理解できないあれこれを笑いに変えるコメディアン、ロニー・チェン 「今までアジア人は自分たちの自虐ネタを得意とする立ち位置でしたが、彼のお笑いは逆で、米国人ではないことを武器に今までのタブーを破っていく勢いが新鮮なんです」と、実はロニー・チェンと親交のある村本さん。現在NetFlixで『ロニー・チェンのアメリカをぶっ壊す!』『ロニー・チェンのココだけの話』『ロニー・チェンの嫌いだけど放っておけない!』の3本の映画が配信されているので、ぜひチェックしてみては。

 

               

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