海外では大
世界的に有名なミクソロジスト阿久津宏朋は、日本人独特の美学や世界観をカクテルで表現することで知られている。そんな彼のジャパニーズ・スタイル・カクテルと、創造性を重視するアメリカンスタイルを融合させ、新しいものを生み出したいという彼の熱い想いを聞いた。
―ミクソロジストになったきっかけは?
オーストラリアに留学していた時に出会ったバーがきっかけです。そのバーは、地元の人たちにとって大切な社交場であり、そこから生まれる人間ドラマもあって奥が深いと感じました。お酒の種類も豊富で、カクテルを自然体で楽しんでいるお客さんの姿は、日本とは違って見えて新鮮でした。僕はお酒が好きな方ではありませんでしたが、思い切ってバーの世界に飛び込んでみたくなりました。
─日本ではどのようなバーで働かれていたのですか?
帰国してから僕は東京・青山にある「Two Rooms Grill & Bar」でキャリアをスタートさせました。ヘッドバーテンダーとして、カクテル作りだけでなくチームを構築するなどマネジメント的なこともして、自分の技術と知識をチームに共有することできました。その仕事ぶりがすぐに評価され、またバー業界にもその評判が広がり、恵比寿にある「Bar Trench」で働き始めました。レンガの壁に天井まで届く棚がヨーロッパのような趣きを感じさせるバーです。オーナーはブラジルと日本にルーツを持つ日系3世で、クリエーティブで遊び心のある西洋のバーテンディングと、繊細で正確な日本のバーテンディング技術を融合させ、世界のバー業界から尊敬されています。その後、系列店の「Bar Tram」でカフェ・バーマネージャーを務めました。
─カクテル作りのアイデアはどこから?
前職ではファッション業界にいてビジュアルマーチャンダイジングを担当していました。その時に培った、視覚的に消費者の感性や感覚に訴求する手法が、視覚的な表現から味覚的な表現に変わり、カクテル作りに影響しているのかもしれません。「Bar Trench」で働いていた時、近所に住む高齢の男性をイメージしたカクテルがあります。毎晩見かけていたその男性を、ある日を境に見かけなくなり、バーのスタッフが話題にしたことから始まり、オーナーがカクテルを作りました。僕もすごくその気持ちに共感したのを覚えています。バーはさまざまな人間模様が交差する場所だと思います。それをカクテルで表現するのも粋な発想で、僕の中でカクテルのアイデアは無限です。
メキシコ産蒸留酒のメスカルや、オレンジピールとルバーブの風味で軽い苦味と上品な甘みのあるハーブ・リキュール、グラン・クラシコ・ビターなどを使った阿久津さん自慢のカクテル『Earth Wind and Fire』
阿久津さんのこだわりである純度の高い氷にダイアモンドカットを施し見た目にも美しい
─カクテル作りにもいろいろスタイルがあるようですが、阿久津さんはどのようなスタイルをお持ちなのですか?
僕は、日本人ミクソロジストとして日本風のカクテルに焦点を当てています。ボトルやシェイカーを投げたり回したり、華麗なパフォーマンスでお客さんを楽しませながらカクテルを作るスタイルもありますが、僕はお客さんがお店の雰囲気を肌で感じ、カクテルのクオリティーやストーリー性も含めて楽しむ時代だと思っているので、ただマテリアルを混ぜるだけではありません。お店の空間作りやBGM、グラス、氷などのディテールにもこだわり、お店の雰囲気作りを徹底したいと思います。。
特に日本では、カクテルメイキングにおいて氷の純度は非常に重要です。僕は基本的に製氷機で作られる氷は使いません。不純物が少ない氷は溶ける速度も違いますし、氷が溶けて希釈することで味も変わってきます。また、それに伴い氷のカッティング技術も必要になります。ミクソロジストとして、「Bar Trench」と「Bar Tram」時代に総合的な評価をいただき、表彰を多数獲得しました。これからは、米国でもセミナーやイベントに参加し、日本の焼酎や日本酒メーカーと共に日本のお酒を使ったカクテルを広めて、焼酎や日本酒をもっと米国の人に馴染みのあるものにしていけたらと考えています。
阿久津宏朋
Hirotomo Akutsu
東京都内にあるバーでバーテンダーとして経験を積んだ後、恵比寿にある国際的に有名な「Bar Trench」でバーテンダー/ミクソロジストとして数々の受賞経歴をもつ。同店は、世界ベストバー50選や、フォーブスのアジアベストバー50選に選ばれるなどした。2021年ニューヨークへ来米し、目標は日本風のカクテルをニューヨークで普及させること。