アメリカでの健康と医療

第19回 認知症を予防するには?

在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。


科学的根拠の乏しい「脳トレ」

「認知症予防」と聞くと、何を思い浮かべるでしょうか。サプリメントや脳トレという言葉が思い浮かぶ人も少なくないかもしれません。どれも「科学で証明された」などの言葉が並び、なかなかその真偽の見分けがつかないでしょう。

しかし、世に多くある「認知症に効く脳トレ」といった広告の多くは製作者や販売者の仮説でしかなく、科学的根拠に乏しいものが多いのが実情です。実際のところ、世の中には「認知症に効く脳トレ」というような広告が数多くありますが、それらは科学に忠実でなく、十分な根拠を欠く製作者や販売者の仮説でしかありません。そして、仮説はよく間違うことに注意が必要です。

特定のアプリやゲームが認知症予防に効果的とする証拠は現時点では見つかっておらず、仮説に基づく主張に過ぎないケースも多々あります。そのため、こうした商品やサービスを過信するのではなく、冷静に捉える姿勢が大切です。特定の方法に頼りすぎると、本来取り組むべき大切な要素を見逃すことにつながりかねません。

修正可能な認知症リスク

世界保健機関(WHO)は、認知症リスクに関わる14の修正可能な要因を挙げています。具体的には、教育の欠如、聴力低下、高LDLコレステロール、うつ、頭部のけが、運動の欠如、糖尿病、喫煙、高血圧、肥満、過度の飲酒、社会的孤立、大気汚染、視力低下といった項目です。

これらはいずれも、それに対処すれば将来の認知症のリスクを下げられる可能性が高いものです。こうしたリスクを減らす取り組みをすることで、理論上は認知症の半数近くを予防できる可能性があるとされています。

例えば、頭部のけがを防ぐために自転車やバイクのヘルメットを着用する、運動習慣をつける、飲酒量を1日ビール2缶(350ml/缶)程度に抑える、禁煙を心がける、肥満の人はダイエットに取り組むといった生活改善が効果的です。また、人間関係を大切にすること、視力や聴力のケアを心がけることも大切です。

実は日常的にさらされている騒音や大音量のテレビ・音楽も少しずつ耳を傷つけています。音量を少し控えめにすることが将来のあなたの耳を守ることにつながります。

また、大気汚染などは個人の努力では変えられないと思うかもしれませんが、実は汚染された大気よりも、さらに汚染された空気が身近に存在していることをご存知でしょうか?それは、自宅内の空気です。自宅の限られた空間の容積は、広大な大気の容積に比べ圧倒的に小さいのです。分母が圧倒的に小さければ、有毒ガスは少量でも容易にその濃度が上昇します。

あなたが自宅でガスコンロを使うことがあるのであれば、調理後にはPM2・5などの有害なガスが自宅に充満しています。その後にもし換気をしなければ、有害ガスに汚染された空気を吸い込み続けることになります。換気は感染症対策としてばかり語られがちですが、実は認知症予防にも重要な対策なのかもしれません。

生活習慣病にも注意

認知症リスクに関わる14項目には高血圧、糖尿病、高コレステロールといった生活習慣病も含まれています。健康診断を定期的に受け、異常があれば医師の指導のもとで治療に取り組むといった医師との二人三脚が、認知症予防のためにも大切なのです。認知症予防は、一見魅力的に見えるサプリメントや脳トレにあるのではなく、あなたの身近なライフスタイルに密接に関連します。

先の14項目を見直し、日々できる範囲で改善していくことが将来の認知症予防につながります。効果がすぐに目に見えなくても、「塵も積もれば山となる」。こうした改善を少しずつ積み重ねていくことが、将来の自分への投資になるのです。

米国での相談先

米国在住で「認知症が心配」「認知症かもしれない」と感じた場合、まずはかかりつけの医師(プライマリケア医)に相談することが最初のステップです。かかりつけ医が認知症の初期症状を評価し、必要に応じて専門医を紹介します。認知症の診断や治療には神経科医(neurologistや私のような老年科医geriatrician)が精通しています。

また、アルツハイマー協会Alzheimer’s Associationや地域の医療機関が提供するサポートサービスも有効に活用できるかもしれません。心配があれば、まずかかりつけ医に相談しましょう。


今週の執筆者

山田悠史 米国老年医学専門医

マウントサイナイ医科大学、老年医学・緩和医療科所属。臨床医として活躍する傍ら、ニュースメディアや音声コンテンツなど多岐にわたって活動中。著書は「健康の大疑問」(マガジンハウス新書)他多数。在米日本人の健康と医療を支える「FLAT」の代表メンバー。Twitter: @YujiY0402


●サポートミーティング情報●

乳がん、婦人科がん、その他のがん、転移がん、自己免疫疾患患者さんのためのサポートミーティング、シニアカフェなどをオンラインで定期開催中。参加費は無料。

スケジュールや詳細は、FLATのウェブサイトをご参照ください。この他にも、一般の方にもご参加いただけるウェビナーなども実施しています。

 

 

 

 


「FL AT・ふらっと」は、がん患者や慢性疾患、高齢者、特別支援が必要な子どもを持つ保護者、介護者など、在米日本人の健康を、広い範囲でサポートする団体です。

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