アメリカでの健康と医療

第18回 10月の乳がん月間によせて

在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。


米国では女性の八人に一人が乳がんを発症すると言われています。乳がん啓発月間の今月は、FLAT・ふらっとのボランティアで乳がんサバイバーのロング容子さんと、臨床アドバイザーの田原梨絵先生からのメッセージをお届けします。

ステージ3から長期サバイバーへ(ロング容子)

「ステージ3の乳がんです」と診断された日は、私たち夫婦の結婚20周年記念日でした。私は若くして米国に渡り、大学卒業後に結婚、仕事と、普通の生活を送っていました。三人の子供に恵まれて、子育て真っ最中。仕事を辞めて子供との時間を増やしたいなぁと思っていた矢先のことでした。先延ばしにしていた健康診断を受け、初めて乳がんのマンモグラフィー検査に行ったのです。

まさかその1週間後に、乳がん宣告を受けるとは思いもしませんでした。その晩、帰宅した主人にステージ3の診断結果を伝え、二人で泣きました。主人は大学時代に母と姉をがんで失っているため、私のがん宣告は彼にとっても大きなショックだったと思います。もう10年前のことですが、その日のことは昨日のことのように覚えています。当時、末っ子はまだ8歳で、私は「この子が成人するまでは元気でいる」と誓いました。

腫瘍内科医から、まず標準治療を行うと説明されました。なぜ標準治療が私にとって最適なのかを丁寧に説明してくれましたが、それでも心の中では「私のがんは本当に標準治療で治るのだろうか?」という不安は消えませんでした。セカンドオピニオンも受けた方がよいと聞き、他州の大きな大学病院にも連絡したのですが、やはり同じような標準治療をすすめられました。その結果、化学療法・両胸全摘・放射線療法・子宮卵巣摘出を受けることにしたのです。

自己組織で胸の再建も行い、10年間続けたホルモン療法も来年で終了予定です。治療後の後遺症はありますが、子供たちの成長を見守れる自分がここにいることを考えると、それも受け入れられます。

幸運にも「サバイバー」として生き延びた今、同じように闘病する患者さんに恩送りしたいと考えていた時に、「FLAT・ふらっと」の前身となる患者支援団体と出会いました。

現在、私はボランティアとしてZoomミーティングを通じ、さまざまな状況のがん患者さんとお話しする機会をいただいています。私の経験だけでなく、参加者の皆さんの経験もまた、お互いの心の支えになっています。日本にいる家族に心配をかけたくないと思う一方で、日本語で気持ちを分かち合いたいという在米日本人患者さんたちの思いは切実です。そんな時に、日本語でお手伝いできることが、サバイバーとしての私の使命だと感じています。

乳がん治療で最初に知っておいてほしいこと(田原梨絵・乳腺科医師)

FLAT・ふらっとの乳がん臨床アドバイザーの田原梨絵です。皆さんは「標準治療」という言葉からどのようなイメージを思い浮かべますか? 「標準」と聞くと、「標準以上の特別な治療があるのでは?」と考える方も多いかもしれません。しかし、がん治療における「標準治療」とは、現時点でエビデンス(科学的根拠)によって有効性が証明されている、最良の治療法を指します。多くの臨床試験の結果を基に専門家が検討を重ね、最善であると合意されている治療法なのです。つまり、標準治療以上に有効な治療は存在しません。

この「標準治療」という言葉に対するイメージと、その真の意味とのギャップから、臨床現場では誤解が生じることが多々あります。容子さんの体験談でも「本当に標準治療で治るのだろうか? との不安が残りました」とあるように、標準治療は並の治療で最良の治療ではないのでは?という不安が生じてしまうのです。容子さんはセカンドオピニオンでも標準治療をすすめられたことで、その治療法を選択し、今の素晴らしいサバイバーとしての活動につながっています。

さまざまな医療情報が溢れる中、専門家から見れば間違った情報や、根拠のない治療も多く存在します。自分や家族ががんと診断された時に、正しい情報を選び、最良の治療である「標準治療」を選択することがとても大切だということを、ぜひ皆さんに知っていただければと思います。

乳がん大事典【 BC Tube編集部】

有志の乳腺科医の集まりであるBC Tube編集部が、乳房や乳がんに関する正確な情報をYouTubeで発信中!

youtube.com/@-BCTube


今週の執筆者

ロング容子

患者ナビゲーター

「FL AT・ふらっと」患者ミーティング・ファシリテーター。1987年に渡米し、米国の大学を卒業後、働きながらMBA取得。金融機関勤務、会社設立を経て、現在は専業主婦を満喫中。

田原梨絵

乳腺科医、MD

「FLAT・ふらっと」乳がんプログラム臨床アドバイザー、一般社団法人BC Tube理事を務める米国在住の乳腺科医、MD。ダナファーバがん研究所研究助手、MDアンダーソンがんセンターのリサーチ・インターンを経験。Instagram: @rie_tahara_breast.md


●サポートミーティング情報●

乳がん、婦人科がん、その他のがん、転移がん、自己免疫疾患患者さんのためのサポートミーティング、シニアカフェなどをオンラインで定期開催中。参加費は無料。

スケジュールや詳細は、FLATのウェブサイトをご参照ください。この他にも、一般の方にもご参加いただけるウェビナーなども実施しています。

 

 

 

 


「FL AT・ふらっと」は、がん患者や慢性疾患、高齢者、特別支援が必要な子どもを持つ保護者、介護者など、在米日本人の健康を、広い範囲でサポートする団体です。

Website: www.flatjp.org

Email: contact@flatjp.org

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