永住権放棄の際に金融機関へ確認すべき三つのポイント

永住権を放棄して日本に完全帰国する際、「どの金融口座を残しておくべきか?」「口座の整理が必要か?」と考える方も多いでしょう。そこで最初に確認すべき重要なポイントは、「そもそも米国内の口座を帰国後も維持できるかどうか」です。永住権を放棄することで米国の非居住者となり、金融機関の扱いが変わる可能性があるため、帰国前に各金融機関の「非居住者への対応方針」を理解し、それに基づいた計画を立てることが重要です。この記事では、米国永住権放棄前に金融機関に確認しておくべき三つのポイントについて説明します。

1.日米で異なる相続税や贈与税の仕組み

まず、日米のクロスボーダー人にとって重要なことは、日米間での相続税や贈与税の仕組みが大きく異なる点を理解することです。日本では、もらった人、つまり相続人が税金を支払いますが、米国では財産を渡す側、すなわち亡くなった人やあげる人が税金を負担します。相続の場合、米国では、亡くなった人の財産から税金が支払われ、その後に相続人が受け取ります。その手続きは遺産管理人が担当します。

米国では相続税は財産を渡す側に課されるため、受け取る側に直接課税されることはありません。このため、米国では「相続税」とは呼ばず、「遺産税Estate Tax)」として扱われます。ただし、州によっては「相続税(InheritanceTax)」が課される場合があるため、注意が必要です。

2.永住権を放棄しても口座の維持は可能か?

永住権を放棄すると、正式に米国非居住者のステータスとなり、金融機関にはW8BENフォームを提出して非居住者であることを申告する必要があります。これにより、米国内の口座を維持できるかどうかは、各金融機関の方針によって異なります。

口座が維持できた場合でも、非居住者になることで資産運用に制限がかかることがあります。例えば、年金口座や投資口座では、特定のファンドにアクセスできなくなる、または特定の投資商品が利用できないといった制約が生じる可能性があります。

さらに、金融機関の方針変更や担当者の異動、米国の法改正によって将来的に口座維持が難しくなる可能性もあります。こうした変化に備え、口座維持が難しくなった場合の対応をあらかじめ検討しておくことも重要です。

3.海外からのオンライン管理の状況

海外からどの程度口座をオンラインで管理できるかは、口座維持において重要なポイントです。以下の三つの点について事前に確認しておきましょう。本人認証方法

ログインや取引時には本人認証が必要で、多くの米国金融機関では米国電話番号を使った二要素認証が一般的です。そのため、日本移住後はアクセスが難しくなる場合があります。金融機関によっては、日本の電話番号や認証アプリを使った代替手段を提供している場合もあるので、日本からのアクセスがスムーズにできる認証手段があるのか事前に確認しましょう。また、米国外からのアクセスにはセキュリティー設定が厳しく、アカウントがロックされたりアクセス制限がかかる場合もあります。こうした場合の解除方法についても事前に把握し、帰国後に問題なくアクセスできるよう準備しておきましょう。

日本への送金手続き

非居住者として米国内の口座を維持できる場合でも、日本への送金が希望の方法で行えるかを確認することが大切です。金融機関によっては、電子送金や小切手に限定されることもあります。手数料も送金手続きによって異なるため、事前に確認しておくと安心です。

利用可能なサービス範囲

米国外からのオンライン管理では、米国に居住していたときと同じようにすべてのサービスが利用できるわけではありません。オンラインバンキングの基本機能、例えば引き出しや残高照会、送金手続きは可能であっても、投資口座での取引には制限がかかる場合が一般的です。特に、オンラインインベストメントのサービスは制約されることが多いため、現地にいる間に現在の金融機関での利用可能なサービスの範囲を確認し、帰国後も利用可能なサービス内容を十分に把握しておきましょう。国際取引に対応した経験が豊富な金融機関を選ぶことも、スムーズなオンライン管理を行うために重要です。

おわりに

米国永住権保持者が日本に本帰国をして永住権を放棄する際には、米国内の金融口座の管理が大きな課題となります。口座維持やオンラインでのアクセス可否、本人認証や送金手続きの方法など、帰国後の資産管理がスムーズに行えるかどうかは、事前準備にかかっています。各金融機関の方針を十分に理解し、帰国前に必要な確認を行うことで、安心して新しい生活を迎えられるようにしてください。


ハラ―基江

CDH会計事務所 Cross-Border Manager

CDHクロスボーダーコンサルティングチームは、日米に家族や資産を持つ方々の国際税務をサポートしています。確定申告、二重国籍者の税務、海外資産報告、相続・贈与、離婚、永住権や市民権の取得・放棄、出国税など。無料オンライン面談予約は下記ウェブサイトから。

〈お問い合わせ〉

crossborder@cdhcpa.com

\無料オンライン面談実施中・詳細はこちらから

・・・・・・・・・・・・・・

本記事に関する注意事項(Disclaimer)

本記事の内容を、権利者の許可なく複製・転用することは法律で禁止されています。本記事は法律上または専門的なアドバイスの提供を目的としたものではなく、一般的な情報の提供を目的としています。掲載されている情報の正確性や最新性については万全を期していますが、利用者が本情報を基に行う行為や、それによって生じた結果や損失について、当事務所および筆者は一切の責任を負いかねます。法律や政府の方針は頻繁に変更されるため、実際の税務処理に際しては必ず専門家の助言を求めるようお願いします。

NYジャピオン 最新号

Vol. 1273

トランプ大統領による新政権 第2章が遂に動き出す

米大統領選挙は今月5日投開票され、米東部時間6日午前5時30分過ぎに共和党候補のドナルド・トランプ前大統領(78)の勝利が確実となった。一方、民主党候補だったカマラ・ハリス副大統領は6日午後、首都ワシントンで演説し敗北を認めた。支持者らに向け、理想のために戦うことを「決してあきらめない」よう訴え、「この選挙結果は私たちが望んだものではない」としながらも、平和的な政権移譲が必要だと強調した。1期目とは全く異なると言われるトランプ政権2期目の行方はいかに。

Vol. 1272

リトルポルトガル味めぐり

ニュージャージー州ニューアークはポルトガルからの移民とその子孫が多く暮らしていることで有名だ。今週は日本人の舌にも合うポルトガルの味を探訪、併せてリトルポルトガルの成り立ちにも迫る。

Vol. 1271

冬に飲みたくなる、贈りたくなる ウイスキー魅力再発見

ウイスキーといえば、近年ジャパニーズウイスキーが世界で注目を集め、希少価値も上がっているようだ。ウイスキーには、シングルモルトや、ブレンデッド、グレーンなど種類によって味が異なり、銘柄ごとの個性を楽しめるのも魅力だ。そこで今回は、ニューヨークでウイスキーの魅力を再発見してみよう。