Peaceful Resonance 響き合う魂、争わない心

〈第4回〉Peaceful Resonance- 響き合う魂、争わない心

音楽でつなぐ記憶と未来──これは、沖縄生まれの私が、非戦を映画にしようと思った理由。前回の予告通り、今回は映画『非戦』について少し踏み込んで解説してみたい。

序章

──風が吹いている。土の匂い。残された者の祈り。名もなき涙。それらは、今も沖縄の地に漂い、私たちの中で、沈黙のうちに響いている。争いは、記憶として終わったのではない。私たちは今も、〝戦後〟という時代の中を歩いているのだ。

沖縄は音楽の島である。その魂は、戦争の傷跡を音楽によって癒し、音楽で立ち直ってきた。それはただの文化や観光資源ではなく、生き延びるためのリズムであり、心の再生を促す響きだった。音楽は、武器を持たない。音楽は、命を削らない。音楽は、過去と未来をやさしくつなぐ橋になる。

今回撮る映画『非戦』には、そうした音楽の力と、私自身のスピリチュアルな視点が随所に込められている。

沈黙のなかに浮かぶ 〝非戦〟の灯火──それが、すべてのはじまり

改めて申し上げると、私は 1968年、沖縄・那覇に生まれました。当時、沖縄はまだ米国の統治下。フェンスの向こうに立つ兵士たちと銃の影、英語のアナウンス、基地の灯り、それらが幼い私の日常だった。幼いながらに、「ここは本当に自分の国なのか?」という名づけようのない違和感が胸の奥にあったことを、今でもはっきりと覚えています。

私は霊能者でもあります。だから、目に見えない 〝気〟の流れや、〝土地に刻まれた記憶〟のようなものに、強く反応してしまう体質です。ある場所に立っただけで、身体が重くなったり、突然呼吸が浅くなったりする。そうした場所には、たいてい〝癒えていない記憶〟が眠っています。戦争が残した痕跡は、けして歴史書の中だけにあるのではない。むしろ、そうした 〝気配〟が、今も土地に、空間に、人々の潜在意識にしみ込んでいると、私は感じています。

7月のニューヨーク滞在では、そうした視点から拠点となる土地を選び、映画監督との協議を重ねながら、「非戦をテーマにした映画」を本格的に動かし始めました。この作品で描きたいのは、戦争そのものの悲惨さではありません。それよりも、「戦わないという選択」を、どう文化として根づかせ、未来へと繋いでいけるか。その〝祈りの選択〟を描くことが目的です。

物語の主人公は私自身

ある日、祖母の遺品の中から一枚の古いモノクロ写真を見つけます。そこには、沖縄の基地ゲート前で、米兵に抱かれた幼い少女が写っていた。それが私の記憶を呼び起こし、自分のルーツ、沖縄の記憶、米国との関係、そして〝戦争の影〟と向き合っていく旅が始まるのです。

撮影は、ニューヨークの街角、地下鉄、教会、ブルックリン区、セントラルパークなどを舞台に構想しています。それらの場所に流れる 〝音〟──ハーモニカの響き、地下鉄のざわめき、祈りの歌声、街の沈黙。それらが、物語の中で〝語られない声〟を浮かび上がらせてくれるでしょう。

私は今回の映画を、一つの霊的セレモニーと捉えています。ロケ地を選ぶときも、霊的な磁場の安定している場所を優先します。それは、撮影クルーや演者の体調、映像に宿る波動にまで影響を及ぼすからです。

音も同じです。音には、空間を癒し、記憶を鎮める力がある。霊の世界では、音は〝光〟と並ぶ浄化のメディアとされており、今回の映画でも、音を祈りの代替物として用います。

場所を選び、音を選び、人を選ぶ。そのすべての選択が、私にとっては〝祈り〟に近いものです。そうでなければ、「非戦」というテーマは表層で消えてしまう。この映画は、戦争に抗う叫びではなく、争わないという〝静かな勇気〟を映すものにしたいのです。

次回は、映画に使う音楽や撮影予定地であるニューヨーク各所の霊的磁場について、さらに具体的にお話ししたいと思います。非戦とは、怒りを我慢することではありません。武器を持たずに、それでも美しく響き合うこと。私はそれを、音楽と映像の中に探しています。

 


HAL
⾳楽家/著述家

1968年10⽉18⽇生まれ。沖縄県出身。琉球王朝時代から続く正統なユタで、その特異な能⼒により年間で1万⼈以上のカウンセリングを⾏う沖縄では伝説のユタである。2005年から拠点を神奈川県に移した後も、その優れた能⼒のカウンセリングを求め、全国各地から多くの⼈々が訪れた。琉球シャーマンはメッセージを⾳楽で届けており、HALは、これまで20万⼈以上のお悩みに寄り添い、癒し、アドバイスした経験を歌に変えてメッセージ(⾳楽、講演)活動を⾏なってきた。09年に神奈川県から東京都に拠点を移してからは、ソニー・ミュージック・アソシエイテッド・レコーズよりメジャーデビューを果たし、年間90本近いライブ活動や講演会を⾏なっている。17年からは海外での演奏活動も始め、台湾やニューヨークでも活発にライブ活動を⾏なっている。18年から米ツアー(ノースカロライナ、ニュージャージー、アイオワ、ニューヨーク)も⾏い、各地のメディアでも⼤きく取り上げられた。テレビ番組や雑誌などの活動も幅広く⾏なっており、過去には『サンデージャポン(TBS)』、『HEY!HEY!HEY!(CX)』、『ロンドンハーツ(テレビ朝⽇)』などにも不定期で出演した。HALの作る楽曲は「スピリチュアルミュージック」であり、流⾏にとらわれず現代⼈の⼼を癒す、まさに現代の「琉歌」として知られている。また、スピリチュアルアーティストとして、⾳楽のみならず、書籍の出版、絵画、写真など幅広い活動を行う。

琉球ユタとは
琉球(沖縄)信仰において、琉球王国が制定したシャーマンである。公的な神事、祭事を司り、⼀般⼈を相⼿に霊的アドバイスを⾏う事を⽣業とする。アドバイスを⾏うときに「琉歌」を歌い、メッセージを伝える。

               

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