トランプ大統領による新政権 第2章が遂に動き出す

米大統領選挙は今月5日投開票され、米東部時間6日午前5時30分過ぎに共和党候補のドナルド・トランプ前大統領(78)の勝利が確実となった。一方、民主党候補だったカマラ・ハリス副大統領は6日午後、首都ワシントンで演説し敗北を認めた。支持者らに向け、理想のために戦うことを「決してあきらめない」よう訴え、「この選挙結果は私たちが望んだものではない」としながらも、平和的な政権移譲が必要だと強調した。1期目とは全く異なると言われるトランプ政権2期目の行方はいかに。


第2次トランプ政権に「バックル・アップ!」

トランプ次期大統領の新政権に「彼こそが新のリーダー」と支持者の熱が高まる一方、分断の加速を不安視する声や、やりたい放題になるのでは…など懸念の声もあがっている。また、日本に与える影響について、予測不能なトランプ氏の行動に日本がどう対応するかが課題と言われている。今後の米政治の同行と日米関係について、ジャーナリストの北丸雄二氏に解説していただいた。

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8年前に続き、マンハッタン区14丁目の6番街と7番街を繋ぐ地下鉄駅通路にまた「地下鉄セラピー」の壁ができていた。選挙後の不安な思いを用意された机とペンでポストイットに書き、壁のタイルに貼る──「胸焼け状態」「次に何が起きるか怖い」「イスラエルとパレスチナに平和を」「彼らが勝つのは私たちが諦めた時だけ」……。

一方でSNS上には早くも中絶問題での女性たちのスローガン「My Body,My Choice」に対する「Your Body, My Choice(オマエの体はオレの勝手)」なる非道な男性主義言説が溢れ始めている。

経済公約の矛盾ループをどうするか?

第2次トランプ政権がどこまでその白人男性優位主義的「公約」を遂行するかは未知だが、「バックル・アップ!」とは言える。なにせ経済分野に限っても、自国経済ファーストの高関税は消費財インフレに油を注ぎ、ドル高を招いて自国経済の沈下につながる。つまりぐるっと回る矛盾ループの露呈。規制緩和や減税の恩恵享受はほぼ米国企業だ。

トランプを選んだペンシルベニア州では、原材料を輸入に依存する製造業者が従業員に「関税導入前に数年分の原材料を買い溜める必要があるから今年の冬ボーナスはなし」と説明したところ、従業員が「関税は輸出元が払うとトランプが言っていた」と憤慨したとか。あれほど関税説明の誤りがファクトチェックで指摘されていたのに。

トヨタ、新日鉄…不可視な先行き

トヨタはメキシコの2工場に14億5 千万ドル(2200億円)の新規投資を行いハイブリッド小型トラック生産の強化を発表したばかりだが、せっかく快走のHV車需要もメキシコ製なら関税対策が迫られる。おまけにイーロン・マスクが政権入りとなれば、公約転換でEV車優遇復活もある。

もう一つは新日鉄のUSスチール買収問題。客観的にはウィンウィンのはずだが、140億ドル超のディールは「米国を売り渡す」象徴のように喧伝され、トランプ・JDバンス組は鉄鋼労組の「味方」として選挙利用し反対を煽った。対米外国投資委員会(CFIUS)などの審査(国家安全保障に関する審査)は期限があるため、新日鉄は年末までに買収完了見込みとするが、あとはトランプが、バイデン政権下での買収として看過するかどうかだ。

あのビザ規制が再びやってくる

日本人コミュニティーにとっていま一つ気がかりなのがビザ問題。前回17年の大統領就任後、移民政策の厳格化で初回雇用のH1B申請の却下率は18年度に24%、19年度には21%に上昇した。同じ会社の既存従業員のためのH1B延長申請もまた却下率が上昇。延長取得できなかった従業員は米国を離れるしかなかった。

米国ファーストをより強化する第2次トランプ政権でも同じ事態あるいはさらなる制限が予想される。

また近年、経済停滞の日本からの米国渡航者のうち、短期で高収入を得る売春目的と見做される者の空港での入国拒否が頻発している。この傾向が続けば日本人の観光ビザや学生ビザの審査の厳格化や強制送還の恐れも想定される。

副次的な影響としてもコロナ禍の際の「中国ウイルス」言説の流布で、アジア系一般への暴力事件が激増した。トランプが語る移民イメージは合法か不法かに関わらず悪化するだろうから、冒頭に挙げた女性への暴力の示唆同様、そこに非白人の日本人が例外である保証はない。とにかくまずは最悪を想定して「バックル・アップ」するに越したことはない2025年である。

 

北丸雄二(きたまる・ゆうじ)さん

ジャーナリスト、作家。東京新聞ニューヨーク支局長を経て独立し、在米のまま25年間取材執筆活動。現在は東京を拠点に新聞、ラジオ、ネット番組などでコラムや時事評論を行う。著書に『愛と差別と友情とLGBTQ+』など。

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