巻頭特集

みんな一緒に新学期

元公立小学校教員に聞く
ダイバーシティー教育の公立学校で
教えて学んだこと・伝えたいこと

アメリカの教員免許を持ち、ノースカロライナの公立学校で10年間教鞭(べん)を執った辻さん。あらゆる背景を持った生徒が集まる教室は、混乱と発見と喜びの日々だったという。アメリカ教育の多様性政策を、教える側の目線から語ってもらった。

ノースカロライナの教師時代、東北大震災のとき、生徒たちと鯉のぼりにメッセージを書いて被災地へ送った。

――どんな学校でしたか?

私が教えていたのは、ノースカロライナ州シャーロット市の公立学校です。マイノリティーの多い学区の中、マグネットスクールとして、日、仏、中、独、西語2カ国語同時教育の小・中一貫校のため、プログラムに引かれて、遠方から通学する生徒もいます。

そういう家庭は、裕福で親御さんが教育熱心な場合も多く、貧富、学力、人種、発達、出身国の国力、家庭環境などあらゆる分野で差のある子供たちが同じクラスで学びます。

――教えるのも大変では?

過去には、家庭環境が厳しく持参のランチが傷んでないかを毎朝チェックしてあげる必要のある生徒もいたり、問題行動や家庭でつらいことが多く、常に机に突っ伏している子、何不自由なく勉強もきちんとやる生徒など、学年始めの3カ月は、一人ひとりの学力や子供をとりまく事情を知ることに多くの時間を費やしました。これがとても大切で、ここをきっちりやっておくことで、その後の8カ月の生徒たちの成長が変わってきます。

私一人ではなく、他の先生、セラピスト、ガイダンスカウンセラーや心理士、警備スタッフまで、学校全体で生徒たちを見ます。教科によっては能力別に分け、学力の低い子には、常に進み具合を確認し先生を増やすなど、いろいろな工夫があります。

――保護者との関係は?

校長のリーダーシップが素晴らしく、教師と親の間に立ち、何があっても責任を取るという姿勢でした。その信頼関係があってこそ実現した教育だと思います。ダイバーシティーが、グローバル社会に育つ子供にとっていかに大事かということを、毎月保護者と勉強会もしていました。

――良かったことは?

親の病気でつらい思いをしている生徒がいて、無口で問題行動もあったのです。クラスの半分は恵まれた子で、クラスの雰囲気をどう作るか始めは悩みました。いろいろな方法をチームで試みるうちに、そういう大人を見て勉強のできる子が教えてあげるようになり、クラス全体で助け合う方法を考え始めました。

学年の終わり、問題のあった生徒が、教室が騒がしい時に「先生の話を聞こうよ」と言ってくれて。その時は涙が溢れました。どちらの生徒も成長すると実感しました。

――取り組みと目標は?

これまでの経験を生かし、困っている子供や親御さんを助けたいと強く思っています。小さな時から多様な環境でもまれる体験は、大人になって世界に出た時、絶対に違ってきます。

子育てが「孤育て」にならないよう、子育て支援、安心できる場所作りなどをブルックリン・デ・コソダテでも発信しています。

多様な生徒が一緒に学ぶ沙織さんの教室。難しかった生徒も1年で劇的に変化したという

 

 

 

辻沙織さん
Brooklyn de Kosodate代表/教育コンサルタント

5歳児の母、元米国日系私立幼稚園Edダイレクター4年勤務、元米国公立小学校学年主任10年勤務。
NY教員免許保持、米国教育学修士、ポジティブ心理学教師用コース修了。
個性を大切にしながら子育てができるよう、定期ワークショップや親子アクティビティーを実施。
FBでの情報共有、個別教育相談にも応じる。
brooklyn-de-kosodate.com


小学生の子供たちと読みたい
ダイバーシティーを学ぶおすすめ絵本

We’re Different, We’re the Same

(Random House Books for Young Readers, 1992)
rhcbooks.com


セサミストリートによる人種や、外見の特徴の個性に特化したお話。日本語訳もあるので、来米前の一読にもおすすめ。


In Our Mothers’ House

(Philomel Books; 1st Edition, 2009)
penguinrandomhouse.com

母親が2人の家庭で育つ子供のお話。「違うということは、大変なこともあるけど、ただ違うだけなのだ」という多様性が学べる。日本語訳あり。


Pink Is For Boys

(Running Press Kids; Illustrated edition, 2018)
runningpress.com

男の子は青、女の子はピンクなどの既成概念に触れて、考えるいい機会になるかも。


And Tango Makes Three

(Simon & Schuster Books for Young Readers, 2005)
simonandschusterpublishing.com

ペンギンの父親同士の親が子供を育てるお話。動物でも父親同士で子供を育てるケースがあるという、こちらも多様性の教育にぴったりだ。日本語訳あり。


「うちの子の成長ちょっと気になる」と思ったら…

ニューヨークこどもサポート

「ニューヨークこどもサポート」では保護者同士が交流できる

ニューヨーク市を拠点に活動する保護者のコミュニティーグループ。18年以上にわたり、子供の発達や発育に不安を持つ保護者同士が主にグーグルグループで交流。それぞれ会員たちの経験を元に、市の療育や学校選びなどの情報交換や、お互いに相談ができる。幅広い年齢でのアドバイスが聞けるのも魅力。また必要であれば、個人コンサルテーションも行う。メールでの問い合わせはkodomo.nyc@gmail.comへ。

kodomosupport.com

               

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