巻頭特集

みんな一緒に新学期

いろいろな生徒がみんな一緒に同じ教室で学ぶ
ニューヨーク教育の今って?

特別支援教育スペシャリストの中島さんと地元保護者に信頼を得るカリスマ学校コンサルタントのジョイスさんに、「包括教育」「多様性の推進」を掲げるニューヨーク教育の今を聞いた。


包括的な支援教育をサポートする

アドボケイトとは、お子さまが発達、学習、社会性、感情などの面でつまずいているかもと心配されている保護者をサポートする仕事です。教師、カウンセラー、サイコロジスト、弁護士ではありませんが、必要であればこれら専門家につなげます。

アメリカではさまざまな障害を持つ子供たちが適切な教育を受ける権利が、幅広く連邦法や州法で保証されています。スペシャルエデュケーション(特別支援教育=以下SE)を受けるには、個別にカスタマイズされたIEP(Individualized Education Program=個別教育プラン)を作成しますが、普通では知り得ない情報も多く、親御さんが法律や支援の仕組みを全て自ら学ぶのは大変で、見落としてしまうこともあります。法律や条例の枠組みを考慮し、IEPを含む記録、書類の分析、書類作成のお手伝い、IEPミーティングへの同席など専門性の高い仕事は多岐にわたります。

いろいろな支援につながる道がある。ちょっとしたことでも気軽に相談してみよう

アメリカの支援教育の特徴

アメリカの支援教育法は1960年代の公民権運動で生まれた公民権法の一種です。子供の発達で気になることがあった時に、アメリカでは0歳からエバリュエーションを勧められることは普通です。支援が必要であれば、早期介入が最も効果的だからです。査定は迅速で無料です。

インクルーシブな
アメリカの支援教育

連邦法のSEの根幹はLeast Restrictive Environment(制限の少ない環境)です。できる限り一般生徒と分別せず、同じ環境で教育を受けます。その一つがICT(Integrated Co-Teaching=包括的な統合教育)クラスです。

ICT教育の恩恵とは

ICTクラスは40%がSE生徒、60%が一般教育の生徒で構成され、一般教育の生徒にも恩恵があります。担任はSE専門家との2人制で、副担任、アシスタント、加配など生徒に対する大人の数が圧倒的に多く、一人ひとりに目が行き届きます。低学年では障害の有無にかかわらず、行動や感情の揺れはどの子も大きいものです。

視覚優先で学ぶ生徒がいたら感覚を優先して学ばせるなど、教室ではSE専門教師の知識と技術がいかんなく発揮されます。小さな時からそういう環境で多様な学びを得ることで、成長してからの社会性や感情表現にきちんと準備ができている子供が増えていきます。支援の必要な子供だけを特別クラスに囲い込むのではなく、全体的に子供たちを見ます。

保護者に伝えたいこと

「子育てが難しい」「うちの子は何か違うかも」と思ったらまずは相談してほしいです。「こどもサポート」は保護者の自主的な会で、仲間とおしゃべりするだけで他では得られない共感が得られほっとできます。それが入り口でいいのです。

 

 

中島ヒーリー厚子さん
スペシャル・エデュケーション・アドボケイト

2017よりNYC特別支援教育の分野で多くの保護者のサポートに取り組む。
支援の仕組み・法律・条例を踏まえたリサーチが専門。
全米で最も定評あるアドボケイト課程、COPAA SEAT 2.0修了。
「ニューヨークこどもサポート」代表。
kodomosupport.com


多様な文化の中で学ぶ素晴らしさ

ニューヨーク市は全米で最も多様な文化が凝縮された都市です。さまざまなニーズに溢れ、学校のスタイルも大きく異なり、学校制度の複雑さは全米でも類を見ません。不安を感じる保護者も多いですが、多様な文化と価値観が混在する地での子育てのメリットは大きいと思っています。多様性にはこれが正解という答えはありません。

教育や子育ての価値観は地域によっても違い、それこそが豊かさだと思います。私は典型的な郊外で育ちました。それが嫌で、自分の子は多様性溢れるブルックリンで育てたいと思いました。

学校が多様・平等・包括化

ビル・デブラシオ前市長の政権下、学校の多様性の推進は大きな焦点でした。学校が人種や貧富の差で分断されるのは公立教育の健全な形ではありません。格差解消、教育の機会均等の動きは、分断に危機感を持つ地域のリーダーや保護者主導で始まりました。ブルックリン第15学校区で始まった、中学進学を抽選のみで決めるシステムは、非常に革新的で全国的な注目を集めました。

公平な新システム

ニューヨークの公立学校では、小・中・高全て希望校を12校まで選び、それを元に抽選で学校が決まります。ノーベル賞を受賞したアルゴリズムで、家族の希望を配慮した上で生徒と学校をマッチさせるシステムです。後にデブラシオ前政権で生まれたダイバーシティー・イン・アドミッションは、経済的に恵まれない子供たちへの優先権を含む抽選です。貧困と人種は時としてリンクするので、裕福な家庭だけの学校にも多様な背景の生徒が増え、教育の機会均等が実現されるようになりました。

学校を作るのは生徒

運悪く理想的な状況にならないことがあるのも事実です。それでも一歩踏み出す必要はあります。例えばブルックリンミレニアム高校は誰も気に留めない学校でしたが、裕福な家庭の子供が進学し始め、たった10年でトップにランクインする学校に変貌しました。同様のことが各地で起こっています。学校が生徒を作るのではない、生徒が学校を作るのです。

変化の先の未来は

100万人の多様な子供を抱えるニューヨークという大都市で、その全てに機能する一つのポリシーを作ることは不可能です。

成績や出席率のスクリーニングによる進学は、コロナ禍で一時停止しました。偶然、デブラシオ前政権が推進する多様化政策に沿う形になりましたが、緊急事態の策です。今年からギフテッド&タレンテッドプログラムが再開しましたが、教育の平等性という視点では疑問もあります。

社会的、経済的、人種的にバランス良く、優れた教育者がいる学校が、最も健康的な場所で、成績の良い生徒にも悪い生徒にもメリットがあります。思慮深い多様性は、同質なものに囲い込まれた環境よりも、はるかに豊かな経験をもたらします。それが学校のあるべき姿と信じます。

 

 

ジョイス・シュフリータさん
NYC School Help創立者/スクールコンサルタント

ブルックリンを中心にニューヨーク市内の公立および私立学校状況に精通。
講演、セミナーでの情報提供や個人コンサルテーションで保護者の学校探しをサポートする。
ニューヨークタイムズ、ウォールストリートジャーナルなどでも活動が取り上げられている。
双子の母。
nycschoolhelp.com

               

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