コーパー・ヒ&#
ニューヨーク発の洗練された洒脱な視点で、調査報道から小説や批評、コミックやイラストまで、多彩な記事を掲載する老舗週刊誌『ザ・ニューヨーカー』。昨年は創刊100周年を迎え、その節目を祝う企画やイベントが相次いで開催された。ニューヨーク公共図書館本館では記念展示が行われ(2月21日まで開催中)、それに連動した名物編集者らによる座談会形式のトークショーが9月に実施。さらに先月には編集部の舞台裏に密着したドキュメンタリー番組がネットフリックスで配信されるなど、同誌は改めて世界中から大きな注目を集めている。本特集ではその歴史と編集哲学に迫りたい。(文・取材/篠原諄也)
『ザ・ニューヨーカー』の名物編集者たちがその仕事論を語り合うトークイベントが、ニューヨーク公共図書館本館で昨年9月に開催された。登壇者は、編集長のデビッド・レムニック、雑誌全体の編集方針を考案するエディトリアルディレクターのヘンリー・ファインダー、政治報道や速報ニュースを担当するシニアエディターのタイラー・フォガット、長編記事や特集を統括するアーティクルエディターのスーザン・モリソン、そして数多の看板ライターを担当してきたエグゼクティブエディターのダニエル・ザレフスキー。そんな彼らによって、雑誌づくりの舞台裏が率直に明かされた。
まず、編集長のレムニックは編集者の役割について「書き手の中にある才能を引き出すこと」だと語る。文学史に名を刻むような書き手であっても、初稿は未完成であることも多い。しかしその可能性を信じ、時間をかけて形にしていくのが編集者の務めだという。これを受けてエディトリアルディレクターのファインダーは、原稿が行き詰まる理由を二つに整理する。「一つは、書き手が何について書いているのか分かっていない場合。もう一つは、それは見えていても、うまく形にできていない場合」。編集とは、原稿の核となる部分は何かを問い続け、深める部分と削る部分を判断していく作業なのだと定義した。そして、アーティクルエディターのモリソンは企画会議で重視する視点を補足する。「私たちはテーマではなく、ストーリーを求めています」。たとえば「気候変動について書きたい」という提案では足りず、本当に必要なのは具体的な主人公がいて、始まりと終わりがあり、そこに葛藤のあるストーリーだという。
そして、エグゼクティブエディターのザレフスキーは、書き手と読者の関係性にも話を広げる。同誌では、書き手が長い時間をかけて読者とのあいだに関係性を築いていくという。「ライターは、読者とのあいだで一種の長期的な物語を紡いでいて、個々の記事が積み重なることで、その書き手ならではの仕事が形作られていく」。なかでも象徴的な存在として挙げたのが、名物記者のデビッド・グランだ。グランの記事は、途中で大きなどんでん返しが起こる。善人だと思っていた人物が、実は殺人犯だったと明らかになるような劇的な展開がある。徹底した取材の上に、自分自身の文体を磨き上げ、重厚な記事を届けている。そうした蓄積があるからこそ、読者は記事を読むとすぐに「これはデビッド・グランの記事だ」と直感的に分かるという。ギャングの重鎮やドラッグカルテルの犯罪者に取材するようなグランだが、編集部はある時、まったく異なる性質の企画を提案したという。それはレオナルド・ダ・ヴィンチの新たに発見された素描をめぐる読み物だった。編集部としては「少し気分転換になるような記事になるはずだった」。ところが、同作の美術鑑定士の電話取材を終えた後、グランは衝撃的な報告をした。実は彼は長らく美術界を欺いてきた人物で、その発見自体が巧妙に仕組まれた計画の一部だったという。軽い読み物だったはずの企画は、結果的に巨大な不正を暴き出す物語となった。ザレフスキーはこの例を紹介しながら、取材が進むなかで記事の方向性が変わることがあり、その変化を受け入れる柔軟性がジャーナリズムには不可欠だと語った。
デジタル時代における報道の役割についても話は及んだ。オンラインや速報ニュースを担当するシニアエディターのフォガットは、オンラインの記事は誌面とは違って「必ずしも映画のような物語である必要はない」と主張する。長文で劇的な構成展開はなくてもかまわないが、しかし事実を追いかけるだけの速報記事では不十分だという。重要なのは、起きた出来事をどう理解し受け止めるべきかという思考の枠組みを提示することであり、読者は「何が起きたか」以上に「どう考えるか」を求めていると力説する。
トークショーの終盤に司会のレムニックから投げかけられたのは「『ザ・ニューヨーカー』らしい声(語り口)とは何か」という問いだった。編集ディレクターのファインダーは、同誌には複数の書き手の複数の声があり、語り口も関心領域も異なるものの、「ナラティブ=物語性」を備えているということは共通していると語った。人物や場面を丁寧に描き、読者を引き込む構造を持つこと。単なる意見表明ではなく、ミステリアスで緊張感があるナラティブとして成立していること。レビューのような短い記事でさえ、読者が先を読み進めたくなる物語として機能しているかが重視されているのだという。多様でありながら、物語性という一貫した姿勢は崩さずにいる。それが『ザ・ニューヨーカー』を世界で唯一無二の雑誌としてきた理由の一つなのだろう。



