面積はざっと&#
映画が日常に溶け込む街・ニューヨーク。『ティファニーで朝食を』や『ゴッドファーザー』といった名作の舞台であり、今も『プラダを着た悪魔2』をはじめ数多くの作品の制作が続いている。世界中から映画ファンやクリエーターが集まり、大規模な国際映画祭から街角の小さなインディペンデント上映スペースまで、あらゆる映画体験の場が点在している。そんなニューヨークの映画文化(フィルムカルチャー)の最前線を探ってみたい。(文・取材/篠原諄也)
ニューヨークを拠点に活動する新鋭の映画ライター・映像作家のジョーニ・ハン。ソウルで生まれ、北京を経て10代後半に来米し、現在はブルックリン区に暮らす彼女は、映像作家として実験映画などを制作し、映画ライターとして韓国をはじめとする東アジアの映画や実験映画を論じている。そんな彼女に、最新映画シーンへの思いについて、じっくり話を聞いた。
ニューヨークの映画文化について、どのようにご覧になっていますか。
映画好きにとって、ニューヨークは素晴らしい街だと思います。まず、本当にたくさんの映画館があります。MoMAやリンカーンセンター、メトログラフといった大きく有名な映画館だけでなく、他では決して見られない映画を上映する小さなDIY的なスペースもあります。例えば、前衛映画や実験映画を上映するスペクタクルシアター、ライトインダストリー、アンソロジー・フィルム・アーカイブズなどです。
ニューヨークでは毎日、本当にたくさんの映画が上映されています。スクリーンスレートというウェブサイト(映画上映の情報サイト)がニューヨークで最初に生まれたことにもうなずけます。誰もが「今日、何が上映されているか」を一目で見られるサイトを求めていたんです。
上映作品が多いため、映画ファンはどの映画を見るかで悩むことになります。「今日は本当に素晴らしい映画が三つも上映される」という状況に直面してしまうんです。これはぜいたくな悩みですが「もしこの作品を見逃したら、次いつ見られるかわからない」と思ってしまいます。このように、皆が一つの話題作だけを見ているわけではなく、見る作品が多様で断片的になっているのは興味深い点です。
また、ニューヨークは、フィルムプリントの上映を見られる機会に恵まれています。35ミリフィルムのプリント上映にこだわっているような映画館があるからです。最近、驚いたのはリンカーンセンターでM・ナイト・シャマランの回顧上映が行われていたことです。なんと彼の『シックス・センス』のフィルムプリント上映が今、見られるわけです。
そして、ニューヨークの映画文化という点では、映画を中心に活動する多様なコミュニティーやコレクティブが数多く存在していることが特徴だと思います。それぞれ、コンセプトや関心は非常に異なっています。例えばDIY的に「移動上映」を行うグループがあります。映画館のない市内の地域に出向いて、屋外にスクリーンを設置し、映画を上映します。それから、ブルックリン区のウィリアムズバーグ地区のスペクタクルシアターには、熱心なコミュニティーが存在します。完全にボランティアで運営されていて、上映プログラムの企画をし、宣伝のための予告編まで自分たちで作るんです。また、イーストビレッジ地区のアンソロジー・フィルム・アーカイブスにはとても熱心な観客がいます。10回行けば、7回は同じ顔ぶれを一、二人は見かけます。毎回のように来ているのでしょう。
ニューヨーク中で本当にさまざまなタイプの人々が、自分の興味関心に基づいたコミュニティーやコレクティブを形成しているのはユニークな点です。
最近のニューヨーク映画は、アカデミー賞ノミネート作『パスト・ライブズ』のように、アジア系の監督の作品も注目されています。
ニューヨークを舞台にしたアジア系アメリカ映画に関しては、まだきちんとした理論を持っているわけではありません。ただ、アジア系アメリカ映画全般について言えば、確実に以前より多くの監督が映画を撮る機会を得るようになっています。 その舞台の多くは、ロサンゼルスやニューヨークといった大都市です。映画以外の他の分野でも、アジア系アメリカ人の移民経験に関心が高まっています。たとえば、ミュージシャンのジャパニーズ・ブレックファストとして知られる、ミシェル・ザウナーのノンフィクション書籍『Hマートで泣きながら』は大ヒットしました。
興味深いのは、アジア系アメリカ人の作品だけでなく、アジアの作品に対する関心も高まっていることです。一部のアジア系アメリカ人監督たちは、過去のアジア映画を参照しています。アジア系アメリカ映画という分野自体が、まだ比較的新しい文化現象なので、参照できる文化的な蓄積がそれほど多くありません。そのため、台湾のホウ・シャオシェンやエドワード・ヤン、韓国のホン・サンスやイ・チャンドンなどから影響を受けています。多くのアジア映画がアジア系アメリカ映画の中に輸入され、それが別の文脈の中で息づいているわけです。大都市を舞台にしたアジア系アメリカ映画は、アジア映画との間に、非常に興味深い対話を生み出していると思います。
ジョーニ・ハン
Jawni Han
韓国・ソウル生まれ。現在はブルックリン区を拠点に活動する映画ライター、映像作家、翻訳者(韓国語⇄英語)。批評の主な専門分野は、韓国など東アジアの映画、実験映画、政治と映画形式の関係性。ファッションや音楽に関する執筆も手がけている。