今、米国の若&#
野球の本場・米国で活躍する日本人メジャーリーガー。取材現場で感じた選手の“今”の思いや状況を深掘りするコラム。
野球でエースナンバーは? そう聞かれたら何番と答えるだろうか。私の世代では、おそらく大多数の人が「18番」と答えるはずだ。巨人の桑田真澄、西武の松坂大輔、楽天の田中将大、広島の前田健太は背番号18が代名詞だった。メジャーの担当記者をした2016年以降、何度か米メディアから「なぜ、日本の投手は18番をつける人が多いのか?」と聞かれたことがある。メジャーでは元マリナーズの岩隈久志、今はカブスの今永昇太、ドジャースの山本由伸が18番を選んでいる。おそらく「18番=エース」というイメージは、巨人の堀内恒夫が、きっかけではないだろうか。まだ今のようにネット配信や衛星放送が普及せず、地上波で野球中継を見ていたころ。地上波の全国中継は、巨人戦がほとんど。堀内から桑田に「18番」が引き継がれ、エースナンバーのイメージが定着した。
時代は変わり、いわゆる今の若い選手たちに同じ質問を聞けば「11番」が挙がる。それは紛れもなくダルビッシュ有(パドレス)の影響であり、日本ハムではその番号を後継した大谷翔平(ドジャース)がエースのイメージを18番から11番に変えたといっていい。そのダルビッシュが7月30日、ホームのサンディエゴ、ぺトコパークで行われたメッツ戦で7回2安打無失点の好投で今季初勝利を挙げた。これは、日本とメジャーで投げた投手の中で歴代最多勝利となった(MLB111勝、日本ハム93勝)。
「もちろんうれしいですけど、黒田さんとか野茂さんのようなピッチャーではまだないと思うので、数字がどうとかじゃなくて本質的に近づけるようにしていきたいなと思います」
これまでは通算203勝で黒田博樹(広島、ドジャース、ヤンキース)と並んだ。さらに野茂英雄は201勝。今は、パドレスで球団アドバイザーを務めている。キャンプやオープン戦、シーズン中もダルビッシュに寄り添い、求められればアドバイスを送る。尊敬している大先輩からの、一言が〝ニューダルビッシュ〟の背中を押した。
試行錯誤の結果、サイドスロー気味に右肘を下げる新フォームを試投していた。登板前、ダルビッシュは野茂氏に映像を見せた。「ええやん」。シンプルな言葉だが、これほど心強いことはない。「サイドスローピッチをしようと思ってて、不安はあったので野茂さんに一回ビデオを見せて、どう思いますかと聞いた。野茂さんが言ってくれるならいける。正直にいつも言ってくださる。悪い時は悪いと言ってくれます」。信頼の厚い野茂氏からの後押しが、好投につながった。
次の1勝にベストを
ダルビッシュと松井裕樹の所属するパドレスは7月末のトレード期限で大胆に動いた。若手の有望株選手を大量に交換要因で差し出し、今季にかけるべく先発投手、中継ぎ投手、そして外野手を獲得した。数年後のことは、そのときに考える。とにかく今、今シーズンはドジャースを倒してナ・リーグ西地区で優勝する。そして1969年の球団創設以来、初めてのワールドシリーズ制覇に懸ける。フロントはできることをすべてやった。あとは、現場の監督とコーチ、そして選手たちに任せた。そんなメッセージが込められたようなトレードだった。
優勝争いが熱くなる8、9月を前に開幕から右肘を負傷して離脱していたダルビッシュは間に合った。8月16日に39歳を迎えるベテランに徐々に調子を上げていけばいい、という考えはない。「もう今に懸けていますよ。今日の100%でいきたいと思って投げています。ゆっくり、ゆっくりっていう風には全く考えてないです」。現在、右肘が完全な状態ではないコンディションで工夫した一つが、サイドスローの導入だった。今季5度目の登板、そしてチームとしては109試合目でやっとつかんだ今季1勝目だった。
5月中旬には右肘の状態から「スライダーを諦めなきゃいけなくなるかもしれない」という危機があった。「(その事実を)聞いたとき、別に何も。良くも悪くも最近は感情でバーッて(精神が)揺れないので、だから別に『ああ、そうなんだ』ぐらいに思いました。そこから何ができるかっていうことだけは考えてましたけど。投げ始めたら意外と投げることができている」。日本でメジャーを目指す若い世代が憧れたダルビッシュの背中。204勝を積み上げたきた背番号11は、今と向き合い、次の1勝へベストを尽くす。
山田結軌
1983年3月、新潟県生まれ。2007年にサンケイスポーツに入社し、阪神、広島、楽天などの担当を経て16年2月からMLB担当。25年3月より、独立。メジャーリーグ公式サイト『MLB.COM』で日本語コンテンツ制作の担当をしながら、『サンスポ』『J SPORTS』『Number』など各種媒体に寄稿。ニューヨーク・クイーンズ区在住。