ニューヨークで活動する 注目の若手アーティストを紹介

今年1月にデビューした注目の女性落語家ー桂月輝さん

昨年9月に落語家・桂三輝に弟子入りし、六代目桂文枝より「桂月輝(カツラ・ムーンライト)」と命名されたオゼキマイさん。今年1月にブロードウェーのNew World Stagesにて落語家デビューを果たし、ブロードウェー初の日本人女性落語家となった。現在も前座として毎月舞台に出演中の彼女に、落語に懸ける熱い想いを聞いた。


―日本で一般企業で勤務しながら役者業をされていたそうですが、そこから渡米したきっかけは?

コロナで出演予定の舞台が相次いでキャンセルになる中、何でも良いから演技に関連したことをしたいと模索している時に、HB Studioのオンラインクラスを知りました。早速いろいろなクラスを見学し、受講しました。Actingだけなく、Speech、Speaking、Movementなど多方面からのアプローチで、役者としての基礎を作り、更なる成長に必要な要素が詰め込まれた授業が多く、もっと深く演技を学べると思い留学を決意しました。急いで必要書類を準備して出願し、無事合格をもらい2022年3月に渡米しました。

今年1月、落語家デビューしたときの様子

 

―役者から落語家へ転身したきっかけは?

自身の舞台が無事終わり、次は何をしようかと考えていた時に、友人に連れて行ってもらった師匠のショーを見て衝撃を受けたのが始まりです。日本の伝統芸能をたくさんのお客様が楽しんで笑っている姿に驚くとともに、日本のものが海外でこんなに受け入れられていることを誇らしく感じました。落語の持つパワーを肌で実感し、自分もこんな風に人を楽しませてみたいと強く思いました。また落語は、声、テンポ、表情、仕草などを使い、一人で複数のキャラクターを演じ分けるため、演技の勉強にもなります。落語家と役者を両方経験することは、互いにとてもプラスだと感じています。

―なぜ桂三輝師匠に弟子入りを?

落語を初めて見に行った時に、師匠が舞台上で弟子募集の話をしていて興味を持ったので、その後すぐに話を聞きに行きました。その時の弟子募集は噺のネタだったようなのですが、実際話してみると師匠は一門を作り落語を世界に広めたいという熱い想いをお持ちで、ぜひ私もその一員になりたいと思い、その日のうちに落語家になることを決めました。

(左)兄弟子の桂晴輝(サニー)(中)師匠の桂三輝(サンシャイン)(右)桂月輝

 

―現在、役者業もされていますか?

はい。現在は、リーディングプレイのリハーサルをしているところです。古代ギリシアの作家によるコメディーの戯曲です。また日本には素晴らしい戯曲がたくさんあるので、今後、翻訳してニューヨークで公演ができたら良いなと思ってます。

―桂月輝さんが想う落語の魅力とは?

落語のストーリーは普遍的なものが多く、世界共通で笑えて楽しめます。特に古典落語はシンプルで分かりやすいですし、笑いと人情はどの国でも馴染みのあるものです。私がデビュー時に披露した『子褒め』は、あの手この手で人をおだてて、ただ酒を飲もうとするけどなかなか上手くいかない、という話なのですが、空回りする滑稽な様子は人を選ばず笑える話だと思います。

また、落語を通じて日本の文化を世界に広められるところも魅力です。着物や扇子、手拭いなどの小道具、酒を飲んだりお蕎麦を食べる所作、出囃子に使われている三味線や和太鼓、そして日本語の美しい響きも感じていただければ嬉しいです。落語は日本の魅力を広めるツールになる可能性を持っていると思います。

―1月に落語家デビューされた時の感想は?

演技で舞台には何度も立ってきましたが、また違う緊張感がありました。ですが、舞台に出た瞬間にお客様が温かく迎えてくださり、気がついたら自分自身すごく楽しんでいました。昔からブロードウェーの舞台に立つのが一つの大きな目標だったので、舞台から満席のお客様を見たときは感無量でした。弟子入り後4カ月でデビューしたのですが、大師匠や師匠を始め、兄弟子の桂晴輝や周りの方々に支えられて実現できました。本当に感謝しています。

―今後の目標やビジョンを教えてください。

今は古典落語を主に行っていますが、大好きな野球ネタなども取り入れたオリジナルの創作落語を作ってみたいです。またいつか、大師匠と師匠と私たち弟子でニューヨーク公演もやってみたいですし、他州や米国外でも公演したいです。今は落語を知らない米国人も多いのですが、SAKEやSUSHIみたいに「RAKUGO」として認識されるようになったら嬉しいです。ショーを見て、日常の嫌なことを忘れて笑ってもらったり、帰り道にふと思い出してクスッとしてもらったり、少しでも見てくれた人の心をポッと温かくして、「RAKUGO」で世界中の人々を笑顔にしたいです。


桂月輝(オゼキマイ)

兵庫県神戸市出身。東京学芸大学卒業後、都内の一部上場企業に就職。同時に舞台役者として東京で活動を開始。2022年3月に渡米し、マンハッタン区のHB Studioにて2年間演劇を学ぶ。24年7月にはNY Chain TheaterのTime Capsule Projectにて、新作劇『VOICE』をプロデュースし、主演を務める。同年9月、桂三輝に弟子入りし、六代目桂文枝より「桂月輝」と命名される。25年1月、落語家デビュー。

               

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