【アーティストの仕事場を深堀り】藤本まり子さん・末弘裕一さん

普段は知られざるアーティスト仕事の裏側。今回スポットをあてるのは、ニューヨークの松山スタジオで働く藤本まり子さんと末弘裕一さん。スタジオでは上司と部下という関係で、末弘さんが藤本さんのスケッチやシルク版の準備作業などを支えている。そして、個人制作や二人展、合作では大切な制作パートナーという関係でもある。今回はそんな二人の仕事現場に潜入して話を聞いた。


──お二人のアーティストとしての活動について、またアートの世界へ入ったきっかけを教えてください。

藤本さん:

私は、キャンバスにアクリルで絵を描いたり、壁画アートを手がけています。高校生の時の美術の先生が藝大出身の方で、その先生の提案で美術予備校へ通い始めて、現代美術と出会いました。当時、愛読していた美術系のフリーペーパーに「絵を描く仕事」がいろいろな形で紹介されていたのを見つけ、私も将来はアーティストという職業に就きたいと思うようになり、美術大学に進学しました。

末弘さん:

僕はキャンバスに少女をモチーフにした油絵を描いています。幼少期から絵が好きで、中学3年生の時に美術高校を受験し、その後は美術大学に進学しました。ずっとアートの世界で活動しています。

──お二人が松山スタジオで仕事のパートナーとしてタッグを組むきっかけは?

藤本さん:

松山スタジオに入社されるアーティストに関して、皆さん個人ではどのようなアート活動をされているのか気になるものですが、その中でも、末弘さんの作品は特に印象的でした。私も彼も想像と空想の世界、そして人物画を描くところに通じるものを感じ、一緒に描いたら、なにか新しい展開ができて面白そうだなと直感しました。

──藤本さんから見て、末弘さんの仕事ぶりや強みは?

藤本さん:

日中は業務上、末弘さんが担当する松山作品を監修し、よりより作品にするため指示を出しています。  就業後は、私個人のアーティスト活動の補佐として作業を手伝ってもらい、コラボレーション作品なども制作しています。末弘さんの魅力の一つとして、話しやすさや親しみやすさが挙げられます。先輩と後輩、そして友達のような関係がバランスよく交差している感じで、コミュニケーションが円滑にとれるので彼に感謝しています。以前、親交の深いアーティストと二人展を企画して合作を制作しましたが、どれだけ互いの作風を尊敬し合えているからといっても、必ずうまくいくわけではありません。相互理解だけで合作を完成させるのは本当に難しいことだと身を持って感じました。しかし、末弘さんと合作した際、スムーズに進めることができ、互いの作風と工程作業の進め方、主張のバランスなど全体的に相性が良かったようで、改めて合作を通して、芸術というものを学ぶことができました。

“Lavender Herb” Acrylic on canvas 2024

──末弘さんにとって、スーパーバイザーとしてのまりこさんはどんな存在ですか?

末弘さん:

僕が入社してからようやく1年が経ちますが、一番最初の作品制作でとても丁寧に指導してくださったのが印象的でした。細かい技法を一つ一つ辛抱強く教えてくれたのですが、その内容が今後のアート制作にもずっと活きている感じがします。藤本さんの仕事との向き合い方は本当に素晴らしいなと尊敬しています。

──今後の展望について

藤本さん:

個人のアーティスト活動上で、末弘さんのサポートの場をもっと広げていくことが出来たらと考えています。合作も2人でコラボレーションをしていく一つの表現手段として、これからも続けていきたいです。末弘さんの技法で合作を進めると、画面全体の色味やモチーフの印象が、これまでの作品とは違った雰囲気になっていて新鮮なので、今後も新しい発見ができるよう、お互いに試行錯誤しながら進めていけたらいいなと思っています。

末弘さん:

僕はこれまで、他のアーティストのアシスタントとして一緒に作品を作った経験がありませんでした。入社してから初めて藤本さんと合作を制作する機会をもらい、初めは不安な気持ちでしたが、毎日彼女の作品の補佐業務を行うたびに、新たな気づきや学びがあり、よい経験になっています。彼女との合作を通して、人と関わることで生まれるアートの可能性を感じました。今後も、お互いの意見や発想を大切にして、時には新しいやり方も取り入れながら、作品制作に挑戦していきたいです。

 

(左)藤本まり子 Mariko Fujimoto

1991年、東京都生まれ。2014年多摩美術大学美術学部・絵画学科(油画専攻)卒業。16年、アクリルガッシュビエンナーレ16にて佳作を受賞、20年、FACE2020損保ジャパン日本興亜美術賞に入選する。21年より松山スタジオ勤務。

(右)末弘裕一 Yuichi Suehiro

1985年、埼玉県生まれ。2008年東京藝術⼤学絵画科(油画専攻)卒業し、同⼤学院美術研究科(油画技法材料研修室)修了。⾼校で美術教員をしながら、個展やグループ展を多数企画。23年に来米、同年8月より松山スタジオ勤務。


デザインを手がけたギフト用バッグのイベントがいよいよ開催!

 

 

 

 

 

 

 

藤本さんと末弘さんは今回特別に、AAAA(Asian American Art Alliance)団体によるサイレントオークション用に、ギフトバッグのデザインをシルクスクリーンで制作。

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【日時】10月15日(火)午後6時30分〜9時30分

【会場】The Georgia Room at Freehand New York

【住所】23 Lexington Ave.,2nd Fl.

【詳細】https://www.aaartsalliance.org/events/costumes-cocktails2024

               

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