毎日働き続け&#
在米日本人の健康と医療をサポートする「FLAT・ふらっと」がお届けする連載。アメリカで健康な生活を送るために役立つ情報を発信します。
睡眠は1日の約3分の1の時間を費やす大事な活動です。睡眠中は受動的な状態に見えますが、実は能動的にさまざまな活動を行っています。睡眠時間の重要性への注目は年々高まっていますが、もう一つの大事な要素、「睡眠リズム」については、まだ見過ごされがちです。そこで今回はこの睡眠リズムについて説明します。
睡眠リズムの重要性
睡眠リズムは体内時計に基づいて制御されています。体内時計は脳だけでなく全身に存在するため、それが狂うと眠気、集中力低下、消化器機能の低下、免疫の低下、そして精神の不安定化など、さまざまな形で悪影響が現れます。
多くの方が夜に眠って日中に起きているので、リズムについては問題ないと思われているかもしれません。しかし、人間の体内時計は私たちが想像しているよりもずっと敏感です。わずか30分から60分程度の睡眠リズムの変化ですら、体に悪影響を及ぼすことが知られています。
睡眠リズムの制御
睡眠リズムは運動、食事、入浴などさまざまな活動の影響を受けます。その中でも圧倒的に影響が大きいのは「光」です。太陽が出ている時間帯、つまり朝から昼は光を浴び、夕方以降は光を浴びないようにするのが原則になります。特に睡眠リズムへの影響が強いのは起床前後と就寝前後です。朝起きたら日光をしっかり浴び、就寝中および就寝前は光を減らすことが大切です。
起床しても暗い部屋で過ごしたり、就寝直前までパソコンやスマホを使っていたりすると、一見リズムが整っていても体内時計に悪影響があります。北欧など緯度が高い地域で、うつ病や不眠が増えやすい原因の一つは、日照量の少なさによる睡眠リズム障害と考えられています。現代は人工物による日光の遮蔽が容易なため、日照量が多い地域でも光への暴露が不十分になりかねません。そこで意識的に朝しっかりと光を浴びることは特に大事です。
適切な睡眠リズムのためには、(1)就寝時刻と起床時刻の日ごとのズレを30分以内に抑える、(2)起床後に日光浴をする、(3) 就寝前と夜間は光を極力浴びないようにすることを心がけてください。
時差ボケは全身に影響する
とはいえ、米国で生活をしていると、否応なく睡眠リズムが乱されることがあります。原因の一つは時差ボケです。時差ボケというと眠気や疲れだけを意識される方が多いですが、消化器機能、精神機能、免疫など全身に影響します。眠気や疲労は翌日に出やすいのに対して、消化器症状は数日遅れて現れるともいわれています。そのため日中の眠気が解消しても数日は時差ボケの影響が体に残っていることを忘れず、解消するまでは起床後の日光浴を意識するといいでしょう。
一般的に時差ボケの解消は、睡眠リズムを遅らせる方向に最大1・5時間/日、前進させる方向に1時間/日の速度で進むといわれています。
夏時間の開始時も注意
もう一つの大きな問題は夏時間です。1時間のズレなので軽視されがちですが、睡眠リズムを前にずらす夏時間開始のタイミングは特に注意が必要です。夏時間開始後には、交通事故や労災、心血管イベント(心臓や血管の重篤な病気)、自殺率の増加など、さまざまな問題が報告されています。そのため夏時間が始まる2、3日前から15分/日程度のスピードで少しずつ起床時刻を早めておくと影響を減らせるでしょう。
ブルーライトの影響
光が睡眠リズムを調節するにあたって最も重要なのは、ブルーライトと呼ばれる光です。近年、ブルーライトはスマートフォンやパソコンから放出される光にも含まれるため、ブルーライトをカットする眼鏡が注目を集めています。上述の通り、夜間に浴びるブルーライトは睡眠リズムに悪影響を及ぼします。しかし最近では「夜間に」という点を省き、ブルーライトそのものが悪いかのように誤解させる商業的な宣伝が増えています。しかし、日中に浴びるブルーライトは体にとってむしろ重要であり、それをカットすることは大きな悪影響につながります。小児では睡眠リズム障害だけでなく、体の成長の阻害や小児近視のリスクを高める可能性も指摘されているため、子供に使用する場合は眼鏡の使い方に十分注意してください。
睡眠リズムの重要性と調整の仕方を知ることで、少しでも皆さんの睡眠が改善され、仕事や生活の質の向上につながれば幸いです。
和田真孝
精神・神経科専門医
2015年慶應義塾大学医学部卒業。日本で精神科専門医およびPhDを取得し、睡眠障害の臨床に従事する。24年4月にスタンフォード大学の博士研究員として渡米。精神疾患に対し電気や磁気で神経の働きを調整するニューロモデュレーション(Neuromodulation)を用いた新規治療法の開発に携わる。
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