オペラってこんなに面白い!

〈第四回〉オペラってこんなに面白い!

オペラの舞台裏と日常を、現役歌手がリアルに届ける連載。


オペラ歌手に聞く、緊張に打ち勝つ方法 

ご無沙汰してます。テノール歌手の駒形貴之です。今回はよく聞かれる「たくさんの人の前で歌って、緊張しないの?」という質問に答えていきたいと思います。
簡単に言うと、もちろんします(笑)。全く緊張しない人はいないと思います。ただ緊張とうまく付き合っている演奏家はたくさんいると思います。いつか本で読んだのですが、やはり動物的本能で自分のことを大人数の人が見つめていたら恐怖を感じるのが自然なようです。ではどうやって緊張とうまく付き合っていけばいいのでしょうか。

脳の勘違いでパフォーマンスが向上する

みなさん、アスリートは理想的なパフォーマンスをイメージする練習をしていると聞いたことがありませんか。ひとつ前の記事でオペラ歌手はアスリートに似ているとお話ししましたが、イメージトレーニング、いわゆるイメトレをすることは、質の良いパフォーマンスをする上でとても重要なことです。例えば、梅干しを想像したら唾液が出てきますよね?実は脳はイメージと現実を区別できないため、それと同じように成功してポジティブなパフォーマンスを想像すると、それを実際に経験していると脳は勘違いするのです。

オーストラリアの心理学者アラン・リチャードソンの、有名なバスケットボールのフリースローの研究があります。被験者が三つのグループに分かれてフリースローの練習をしました。Aグループはひたすら20日間練習する。Bグループは何もしない。Cグループはシュートが入る様子を毎日リアルに想像するが、実際の練習はしない。結果はというと、実際に練習したAグループと、イメトレだけしていたCグループの上達率がほぼ同じでした。何もしなかったBグループに変化はほぼみられませんでした。このようにイメトレをすることはパフォーマンスの向上にとても効果的です。

無意識に効くイメトレの力

大学院の卒業公演でオペレッタという、オペラよりもセリフ部分が多い音楽劇をやりました。大きな役をもらったため、英語での長いセリフが続きました。毎回の稽古でとても緊張し、いつも同じ場所で間違えてしまいました。そして間違えるのが癖になり、どんどん自信をなくしていきました。そんな時に、イメトレの効果を聞いて、毎日そのセリフを稽古でうまく言えてる自分を想像するようにしました。そうすると、次の稽古で見事にスラスラとセリフが言えたのです。もちろん本番もミスなく成功することができました。

パフォーマンス中は全ての情報をひとつひとつ丁寧に意識してコントロールできるわけではありません。息の仕方、言葉の発音、感情表現、テンポ、発声、演技、動きなど、色々な情報を同時にものすごい速さで処理し、無意識にこなしています。イメトレをすることで、その無意識に動いてる部分を少しでも理想の形に近づけることができるのです。

先月、東京文化会館で都響の定期公演のゲネプロにて

イメトレでの成功体験が自信へつながる

一つ、このイメトレをするのに大事なことは、「リアルにイメージする」ということです。舞台の温度、匂い、観客のエネルギー、指揮者や共演者とのやりとり、自分の声が美しく響いてる体の感じ。色々なことを具体的に想像し、理想の形のパフォーマンスを最初から最後まで現実のように自分の頭の中で上映します。イメトレで何度も成功したパフォーマンスを頭の中で体験するので、どんどん自信もついていきます。いつも公演初日は一番緊張するのですが、本番のイメトレをしっかりやっていると、「あっ!さっきもやったし大丈夫だな」みたいな気持ちになってきます。

これは舞台に立つ人だけではなく、みなさんの日常的な場面にもとても役に立つと思います。不安があって緊張してくると、どんどん失敗してる自分を頭で想像してしまいがちですよね。そうすると脳みそが無意識に頭の中でネガティブな予行練習をしてしまい、本番も自分の想像したネガティブなパフォーマンスに引っ張られてしまいます。なので、反対に自分がポジティブな体験をしている姿を意識的に想像することで、普段の自分以上のパフォーマンスを引き出すことができるのです。少し緊張する日常の場面、例えば大事なビジネスミーティング、プレゼンテーション、または大好きな人とのデートの前など、イメトレを試してみてください。きっとその効果を実感できると思います。

次回は「ソプラノとかテノールとか声の種類を言うけど実際なんのことなの?」と言う質問に答えたいと思います。ではまた。

 

<公演情報>

【Te Deum】

5月25日(月) 午後20時30分

 @Carnegie Hall- Stern Auditorium

来月のメモリアルデーにカーネギーホールデビューが決まりました。世界初演のテレ・ジョンソン作曲『Te Deum』のテノールソロを歌います。オーケストラのNew England Symphonic Ensemble と合唱の方達とともに音楽をお届けします。ぜひお越しください。

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駒形貴之/Taka Komagata

テノール歌手。東京都出身。米ロンジー音楽院大学院修了。ボストン・グローブ紙、LAタイムズ紙に歌声を称賛される。ニューヨークを拠点に北米各地でオペラ公演に出演。クラシック音楽を広める団体、「バルコニーシリーズ」を創設し活動を広げている。

Instagram: @takakomagata

HP: takakomagata.com

               

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