今年9月にアラ&
困難に立ち向かい、今を全力で生きる日本人ビジネスパーソン。名刺交換しただけでは見えてこない、彼らの「仕事の流儀」を取材します。
※これまでのビジネスインタビューのアーカイブは、nyjapion.comで読めます。
ニューヨークに来てから、まずはウエートレスとして働き始めた内藤詠子さん。経理アシスタント、不動産ブローカー、ウェブデザイナーを経て、現在のキャリアである引っ越し業に落ち着いた。
「引越し業者の共同経営を持ち掛けられたとき、『今までやってきたこととは畑違いだけど、ちゃんとできるのかな』と不安がよぎりました」と内藤さん。
昔から、いろいろな建物と間取りを見るのが好きだった。なおかつ不動産業で物件を歩いて回っていたから、ニューヨークの土地勘にも優れている。そしてデザイン制作でのコンサルテーションのような、人の話をじっくり聞く作業も得意。総合的に見て、内藤さんの天職だったのかもしれない。
ロックダウン中の知られざる苦悩
ニューヨークの引っ越し繁忙期は春からだ。昨年3月のロックダウン時点で、すでに予約がびっしり入っていた。
「外出自粛といっても、賃貸契約が切れる人はどうしてもその日に出て行かなくてはいけない。なのにビル側が衛生面から、人の出入りを禁止する措置を取るし、そうは言いながらビルオーナー側も退去はさせなくてはならないし…とにかく正解が分からず、大変でした」
実は当時は、引っ越し業がエッセンシャルワーカーなのかも不明だった(運送業はエッセンシャルワーカーだった)。多くの死者数を報道するニュースを受けて、スタッフの中には「自分の命が大切だ」と、出勤拒否をする人も出てきた。困った内藤さんを救ったのが、命を懸けて残ってくれた同社の精鋭スタッフであった。そして、ニューヨーク内の引っ越し業者同士が作るコミュニティー。いずれもこれまで内藤さんが、丁寧な仕事ぶりで築き上げてきた信頼関係だ。
「業務を行って問題ないのかを相談し合ったり、感染防止策を共有したり…。『この危機をみんなで乗り越えていきましょう』と互いに励まし合いました」
作業を経て心を通わせる
命懸け状態なのは、引っ越しを行う顧客も同じだ。ソーシャルディスタンスや定期的な消毒が、顧客とスタッフにとって、現場での最重要項目になった。とにかく信頼関係が鍵を握ったという。
「常にお客さま目線を忘れないようにして、『どうしたら少しでもスムーズなお引越しのお手伝いができるか』を考えていく努力をしています」と内藤さん。「また、引っ越しはとにかくストレスがたまりますから、最初は不安に思われるお客さまもいらっしゃいます。あいさつや細やかな気配りに気を付けて、プロとしての作業を見ていただくと、お客さまも徐々に信頼してくれるようになります」
引越しは顧客によってさまざまな対応が必要となるが、それでも「エイコーさんにお願いしてよかった」という感謝の言葉を聞くと、「今までやっていてよかった。この仕事、大好き」と思うそうだ。
そうして、その客がリピーターとして戻って来る。今年の春も、内藤さんの優しい気遣いのおかげで、同社は盛況するに違いない。
内藤詠子さん
「A-CO Moving Corp.」代表
来米年: 1988年
出身地: 埼玉県
好きなもの・こと: ハイキング
特技:特になし
複数の職種を経て、2000年に引っ越し業を共同経営。
14年に独立して「エイコームービング」創業。
ニューヨーク市内および他州への引っ越しや、部屋の清掃などを行う。
相談・見積もりは無料。ウェブサイトでは「引っ越しガイド」を紹介している。
a-comoving.com