野球の本場・&#
観客には決して見えないブロードウェイのリアル。現役ブロードウェイベーシストが、仕事の流れ、現場の空気、そして“プロとして生きる”ということを、自身の視点で綴る連載。
「毎日同じ演奏をしていて飽きませんか?」
「どうしたらブロードウェイミュージシャンになれますか?」
ミュージシャンを目指す人からよく聞かれる質問です。確かに、ブロードウェイは週に8公演、毎日同じことを繰り返します。でも、意外に思われるかもしれませんが、まったく飽きることはありません。観客の反応や、代役が入ることでその日の雰囲気も微妙に変わるからです。もちろん、ロングランで20年も同じショーをやっていれば飽きるかもしれません。しかし、ミュージシャンには特権があります。出席率が50%あれば休みを取って他の仕事に行くことも可能なのです。
例えば、週8公演のうち火曜~木曜の4公演だけ演奏し、週末は別のバンドでツアーに出ることもできます。アクターやダンサーはバケーションや数日だけ許されるパーソナルデーを除き、基本毎公演すべて出なければならないため、ここは大きな違いです。こうして別の音楽を定期的に演奏することで、常にフレッシュな気持ちでショーと向き合える理由のひとつでもあります。
もうひとつ驚かれるのが、ブロードウェイのミュージシャンにはオーディションがないという点です。俳優やダンサーのようにセルフテープを作り、何度もオーディションを受ける必要はありません。ミュージックコーディネーターやコントラクターと呼ばれる人たちからの連絡を待つのみです。実際、2025年10月から始まるショーも、名前すら知らされずに参加を決めました。こうしたケースは珍しくありません。時には、オフブロードウェイの段階で連絡が来ることもあります。『Suffs』というトニー賞受賞作のミュージカルも、最初は何も知らない状態でオファーがあり、そこから参加が始まりました。
では、どうやってチャンスを掴むのでしょうか。まず大切なのは、演奏できる機会はすべて全力で取り組むことです。演奏が上手いことはもちろんですが、現場での態度やコミュニケーション力も非常に重要です。忙しく動き、信頼関係を築くことで、自然と次の仕事につながることがあります。最近の傾向として、ミュージカル経験の少ないミュージシャンを起用し、オーセンティックなサウンドを取り入れるショーも増えています。つまり、経験の有無よりも現場での実力と柔軟性が評価されるのです。
もうひとつの方法が、サブ(代役)として現場に入ることです。レギュラーのミュージシャンが休むときに代わりに演奏する役割で、リハーサルなしのぶっつけ本番が求められます。これは非常に厳しい世界ですが、サブとして複数のショーに関わることで、新しいミュージシャンやミュージックディレクターと出会うことができます。ある意味、これが「オーディション代わり」になるのです。うまくいけば、サブで行ったショーで気に入られ、別のショーに呼ばれることも珍しくありません。
結局のところ、ブロードウェイミュージシャンになるために必要なのは、技術力と柔軟性、そして信頼関係です。オーディションがなくても、日々の演奏と人間関係の積み重ねが未来のチャンスを引き寄せます。舞台上の華やかさの裏には、こうした緻密な努力や戦略があります。演奏する曲は同じでも、毎晩少しずつ違う音を重ねながら、ミュージシャンは自分の居場所を作っていくのです。もしブロードウェイの世界に飛び込みたいなら、まずはチャンスを逃さず、演奏技術だけでなく、柔軟さや信頼を武器に、日々の積み重ねを大切にすることです。

Yuka Tadano / Bass Player
茨城県出身。2004年に渡米し、テキサス州のUniversity of North Texasで学部・大学院あわせて6年間ジャズを専攻。2010年よりニューヨークを拠点にプロのベーシストとして活動を開始。ジャズ、キャバレー、オフ・ブロードウェイ、全米ツアーなど幅広い現場を経て、現在はブロードウェイ・ミュージカルのオーケストラを中心に活躍している。演奏活動に加え、次世代の育成にも力を注いでいる。
IG: @yukatadano




