レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 Bugsy Malone (邦題: ダウンタウン物語)

映画監督・鈴木やすさんが、思い出の映画作品を、鑑賞当時の思い出を絡めてゆったり紹介します。


サンクスギビングに家族全員で楽しめる映画を紹介したいと思い、考えを巡らせているうちに子供の頃に夢中になった映画を思い出した。禁酒法時代のニューヨーク、リトル・イタリーのギャング抗争を描いたミュージカルで出演者はなんと全員が子役の俳優、撃ちまくるマシンガンからは弾丸の替わりにホイップクリームが飛び出して撃たれるとクリームまみれになってしまうという滅茶苦茶な映画で子供だった僕が夢中になったのも頷ける。

僕の両親の世代は戦時中に子供だった世代で戦後の食糧難も経験していて、とにかく食べ物を残したり無駄にしたりすると怒られた。その昔、仮面ライダースナックという袋菓子が一袋20円ぐらいで売られていた。コンビニもない時代なので近所の駄菓子屋で買うと、仮面ライダーカードというのがもらえた。仮面ライダーの変身ポーズやら人気の怪人やらのカードを集めては友達と見せあったり交換したりするのが楽しみだった。しかし、このお菓子がなんだか甘ったるくて子供心にもかなり不味いお菓子で、カードを集めていた僕たちは袋を破ってお菓子を道端に捨てた。すると通りがかりの知らないおじさんにいきなり僕たちは頭を叩かれて「お前らなんで食べ物を捨てとるんだて、ばかやろう!」と名古屋弁で怒鳴りつけられた。 そんな今では考えられないような時代だったのだ。タブーが強ければ強いほどそれが破られた時の笑いは大きい。

ドリフターズがスイカを爆発させたり、りんごを投げて口でくわえたフォークで受け取ったりするのを両親が不機嫌な顔で見ている横で子供たちはゲラゲラと笑い転げていた。

70年代当時、クリームパイを投げ合って真っ白にクリームまみれになるのは一度はやってみたい子供の夢だったのだ。この映画はそんな子供たちの夢をみたしてくれた。

 

子供に帰る

 

この映画はフェーム、ミシシッピ・バーニングなどの映画でのちに大監督になったアラン・パーカー監督の劇場長編デビュー作でもある。若いパーカー監督が家族とロングドライブをしている時に退屈がる子供たちのために監督が子供の頃に見た米国のギャング映画を思い出しながら話をでっち上げて、なんとかあやしていた。

話に夢中になった子供たちは次々と質問をぶつけてきて話がどんどんできていくうちにこの映画の構想が浮かんだそうだ。そして、監督の長男は全部子供だけでその映画を作ったら面白いんじゃないのと言った。アイデアは本当にいつどこからやってくるか分からないから面白い。そして子供だった僕は妖艶な歌姫を演じた14歳のジョディー・フォスターにドキドキ胸を高鳴らせた。子役スターからティーンアイドル、そして成熟した女優に映画監督、プロデューサーと50年に渡るキャリアのジョディーは今でも僕の胸を高鳴らせてくれる。

四十数年ぶりにこの映画を見てあの頃の胸の高鳴りが蘇った。ギャングのスーツに身を包んだ子供達がパイ投げで真っ白になるのを見てゲラゲラ笑って幸せな気持ちになれるような世界でずっとあって欲しいと心から思った。

ウクライナやガザでは毎日何人もの人が、そして子供たちが殺されている。そして米国内では2023年の現時点で520もの銃乱射事件が起きて2026人が怪我をして621人が殺された。そんな本物の銃弾が飛び交う世界は一日も早く終わって欲しい。そしてこの映画のラストシーンのように最後はみんな優しい子供に帰ってほしい。

今週の1本

Bugsy Malone

(邦題: ダウンタウン物語)

公開:1976年
監督:アラン・パーカー
音楽:ポール・ウィリアムズ
出演:スコット・バイオ、ジョディ・フォスター
配信:Apple Tv、Amazon Prime 他

禁酒法時代のニューヨーク、敵対するギャングがスプラージガンという新しい武器の台頭で抗争を激化させていく。

(予告はこちらから)

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

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