アートを見に行こう

Tenement Women: 1902②

編集部員がアートを巡る連載エッセイです。編集部員A

■外国語学部を卒業し、写真専門学校へ。某新聞社系出版社の写真部を経て、フリーランスのカメラマン兼ライターに。現在、弊紙編集部で書いて撮って編集を担当。趣味は映画と犬の散歩。食べること、飲むことが大好き。


テネメント博物館で、1900年代の移民女性の暮らしを知ることのできるツアーに参加した。この博物館が異なる人種の移民の住宅だったことは先週書いた通りだ。「テネメント」とは長屋のことで当時は20家族が共同生活していた。

長屋を見ると思い出すのが文化住宅。高度経済成長期に近畿地方を中心に建てられた木造モルタル2階建て、瓦ぶき、風呂無しの長屋のことだ。大阪南部や奈良に現存し、筆者の大阪の実家近くにも何軒か残っている。風呂無しとはいえ近くに銭湯があり、そこに住むおっちゃん、おばちゃんたちは、不自由なく暮らしていたように思う。

風呂無しどころかトイレも無く、屋外に作って共有していた同博物館の長屋には当時、ユダヤ系移民が住んでいた。彼らが食べられるのは聖典で指定されたコーシャフードのみ。ただでさえ通常より高価なコーシャ肉は、何度も値上げされ人々に苦しい生活を強いていた。そこで立ち上がったのが家事に育児、家業の手伝いに大忙しの女性たち。街中のブッチャーにボイコットし、近所の人々に肉を買わないよう指示。家々を渡り歩いては肉を買ってないかチェックしたという。彼女たちの努力が実を結び、コーシャ肉の値段は落ち着く。このボイコットは、移民女性たちの市民権を得る一つのきっかけとなったそうだ。

文化住宅の多くは地震で倒壊してしまったが、ニューヨークの長屋は改築を重ねて残されているものが多い。この街をつくった移民の暮らしを想像しながら歩くと、いつもの道も違った見え方がするだろう。

 

テネメント博物館 
103 Orchard St.
TEL: 877-975-3786
tenement.org

 

               

バックナンバー

Vol. 1323

ホリデーを彩るワインの魔法  ─クリスマス・年末年始・大切な人と集う時、 “美味しい”を超える体験を、ワインと─

ホリデーシーズンは、家族や友人と集まる特別な季節。そんな時間をより豊かにしてくれるのが「ワイン」である。 今回は、ワインのスペシャリスト監修のもと、基礎知識からフードペアリング、ギフト選びまで幅広く紹介。初心者から上級者まで堪能できる、“ホリデーを彩るワイン”の楽しみ方をお届けする。

Vol. 1322

私たち、こんなことやってます!

睡眠時無呼吸症候群の治療に注力する、パーク・アベニュー・メディカル・センターのジェフェリー・アン院長と、保険対応も万全の総合ヘルスケアを提供するE.53ウェルネスの川村浩代さんに話を聞きました。

Vol. 1321

サンクスギビング特集 ニューヨーカーに愛される手作りパイ 〜ケーバーズの舞台裏〜

ウエストビレッジの一角に、どこかノスタルジックな空気をまとったパイ専門店「ケーバーズ」がある。ロングアイランド地区で生まれたこのブランドは、“農場から都会へ” をテーマに、素朴な焼き菓子をニューヨークの街へ届けている。季節のパイはもちろんビスケットサンドなど魅力は尽きない。今回は同店のミシェルさんに、人気の理由やホリデーシーズンの舞台裏について話を聞いた。

Vol. 1320

どんどん変わる、ますます面白い ゴワナス探訪

ニューヨークの最旬スポットとして  ニューファミリーやレストラン業界、不動産開発業者から熱い視線が注がれるブルックリン西部の中心地ゴワナス。今週はゴワナス入門編として、その楽しみ方を紹介する。