巻頭特集

【今週の巻頭特集】知りたい・見たい・感じたい『幽霊都市 ニューヨーク』

さまよう霊と超常現象幽霊が出るホテル

 

幽霊はタイタニック号生き残りの女
ホテルチェルシー

赤いネオンサインが血の色に見える

1884年開業。アメリカのロック&アート史に残るアイコンが滞在したこのホテルも幽霊たちのすみかだ。詩人、画家、自ら手首を切断して飛び降り自殺をした女、タイタニック号の生き残りの若妻など数多いが、最も有名なのはメアリーという名の女性。彼女は、凍てつく大西洋から救出された生存者たちと共に、このホテルで手当てを受けたが、夫を亡くした悲しみから5階で首を吊って自殺。ホテルの無数の鏡に映る自分の姿を見つめながらたたずむ姿が目撃されている。セックス・ピストルズのシド・ビシャスは1978年10月、恋人ナンシー・スパンゲンを殺害。作家のチャールズ・ジャクソン(1903〜68年)も薬物自殺を図るなど血生臭い歴史にも彩られている。

ビシャスはナンシー殺害の翌年2月、ヘロインの過剰摂取で死亡

The Hotel Chelsea

222 W. 23rd St./hotelchelsea.com

幽霊は白い女
バワリーホテル

不可解な動きをするエレベーター。深夜は、従業員も使いたがらないという

1875年建造のドライドック貯蓄銀行の跡地に2002年開業。ホテルとして営業を開始した初日から奇妙な出来事が続出している。最も頻繁に報告されているのはエレベーター内のポルターガイスト現象だ。深夜1時頃になると、無人のエレベーターが不規則に上下に動き出し、従業員を震え上がらせる。最も有名なのは「白い女」と呼ばれる幽霊で、これまでに何百人もの従業員や宿泊客によって目撃されている。彼女は道を尋ねてから突然、空気のように消えたり、ベッドの足元に座ったりして、宿泊客を恐怖のどん底に突き落とすという。ホテルの外に出没するのは、アニー・ムーアという売春婦の幽霊。ホテルのそばにあった「自殺の館」という不気味な名前の売春宿の従業員で、1906年に客に殺害された。事件は未解決のままだ。

The Bowery Hotel
335 The Bowery/theboweryhotel.com

 

幽霊は喜劇俳優、劇作家、詩人
アルゴンキンホテル

「アルゴンキン・ラウンド・テーブル」の面々

1902年の開業から1世紀以上にわたり作家、芸術家、俳優たちのサロンとして知られる、ニューヨークのアイコン的ホテル。出版関係者を中心とした1920年代の社交サークル「アルゴンキン・ラウンド・テーブル」の舞台としても世界的に有名。幽霊はもっぱら1920年代の著名人たちで、喜劇俳優のハーポ・マルクス(1888〜1964年)、劇作家で演出家のジョージ・S・カウフマン(1889〜1961年)、詩人で作家のドロシー・パーカー(1893〜1967年)といった劇場関係者たち。特にパーカーは頻繁に現れ、ホテル内を走り回る騒がしい子どもたちを叱りつけたという。廊下やダイニングルーム、ロビーが幽霊の多発地帯。

The Algonquin Hotel
59 W. 44th St./algonquinhotel.com


たたずまいもまがまがしい幽霊が出る家

 

幽霊は孤独死した老女
マーチャンツ・ハウス・ミュージアム

10月はろうそくの明かりだけで館内を回るゴーストツアーも開催

ニューヨーク市内の怪奇スポットとしてまず名前が挙がる1832年建造のレンガと大理石の屋敷。現在は博物館として一般に公開され、市のランドマークと国定歴史建造物に指定されている。裕福な商人シーベリー・トレッドウェル一家が100年にわたり居住。幽霊としてたびたび目撃されているのは末娘のガートルードだが、使用人や家族の幽霊も出没するという。ガートルードは生涯独身で、生まれた時と同じ2階の寝室で93歳で孤独死。死去のわずか数週間後から幽霊となって現れ、屋敷が博物館として一般公開された1936年以降もスタッフや博物館の入場者、近隣住民、さらには通行人から、音、目撃情報、匂いなど、奇妙で不可解な出来事が報告されている。

Merchant’s House Museum
29 E. 4th St./merchantshouse.org

 

幽霊は焼け死んだ女子工員
NYUブラウンビルディング
(旧トライアングル・シャツウエスト工場)

惨事を機に火災安全法や建築基準法が制定された

ニューヨーク大学のブラウンビルは、1911年3月25日の火災で女子工員146人が死亡したシャツ工場があった場所。火災は8階で発生。火は瞬く間に9階と10階に燃え広がり工場は火の海に。煙に巻かれて気絶し焼死する者、逃げ場を失って路上に飛び降りる者たちで現場は阿鼻叫喚の様相に。盗難や無断休憩を防ぐために出口のドアが施錠されていたことも被害の拡大につながった。NYUの所有となってからも、「息苦しい」「夏でもないのに教室内が妙に暑い」と受講を敬遠する学生が続出。夜間にビルの下を歩いていると(人間が飛び降りたような)「バウンス音や悲鳴が聞こえる」との証言もある。

Brown Building
(Triangle Shirtwaist Factory)
23-29 Washington Pl.

 

幽霊はなんと22体、幽霊猫も
西10丁目14番地

1900年から翌年まで住んだトウェインの幽霊は白いスーツを着ており、1階階段付近に出没

またの名を「死の家」。1850年代建造の屋敷に作家マーク・トウェインと猫1匹を含む22の幽霊が住んでいるとの言い伝えがある。10世帯用のアパートに改装されてからも幽霊の出没は続き、1957年に最上階のユニットに引っ越してきた女優のジャン・ブライアント・バーテルは「背後から迫ってくる怪物のような動く影」の存在を体験。「首の後ろにブラシが当たるのを感じ、アパート中が腐臭に包まれた」と後の回顧録に書いている。バーテルと夫は、超常現象の専門家と霊媒師に調査を依頼。霊媒師は、「床板の下に死体がうごめいている」として除霊を試みたが失敗、夫婦はアパートを引き払った。その後、屋敷は幼児殺人事件の舞台にもなった。

House of Death
14 W. 10th St.

               

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