アーティストの仕事場を深堀り

アーティストの仕事場を深堀り- 画家の末弘裕一さんと野口龍さん

普段は知られざるアーティストの仕事現場や展示の舞台裏。今回スポットをあてるのは、松山スタジオで働く画家の末弘裕一さんと野口龍さん。スタジオでは上司と部下という関係で、個人制作では末弘さんの絵画の背景制作を野口さんが全面的に支え、合作作品を生み出している。美術の興味・知識が似ているという、相性ピッタリな二人に話を聞いた。


今年4月に二人が初挑戦した壁画作品「rider of the dungeon 」制作時の様子

──お二人のアーティストとしての活動を教えてください。

末弘さん:2023年8月に渡米して松山スタジオに入社し、スタジオで勤務しながら、自身の絵画制作として、キャンバスに少女をモチーフにした油絵を描いています。今年の3月より野口さんと合作の壁画制作や絵画制作、またその展示会も行っています。

野口さん:パーソンズ美術大学でファインアートを学び、今年3月から松山スタジオで制作スタッフとして勤務を開始しました。自身の作品では、現代社会に漂う孤独感や虚構的な空気をテーマに描いており、また近年はアクリル絵具を用いた幻想的な風景表現にも力を入れています。

──合作制作について詳しく教えてください。

末弘さん:二人とも「シュールレアリスム」という、作者の主観で自由な想像を表現する美術分野が好きで、「存在しない記憶」や「架空の場所」をテーマに制作することが多いです。合作のきっかけは、私が野口さんの作風に惹かれたのが始まりで、私が得意とする人物画の背景部分を野口さんにお願いしています。4月に行われた合作の壁画プロジェクトでは、私の代表作にドラゴンのモチーフを加えるという作業を、野口さんに全面的にサポートしてもらいました。美術の興味に関する共通点も多く、合作を通して良い刺激をもらっています。

野口さん:基本的な流れは末弘さんのアイデアを主体に制作テーマや構想を話し合い、私がラフスケッチや背景構成を作成、そして末弘さんに提案し、背景の制作に取り掛かります。最後に末弘さんが主要モチーフや人物の描画を追加し、完成です。展示会を開く際は二人でインスタレーションや展示設営を行っています。末弘さんは考え方が柔軟で、作品に対するこだわりを持ちつつも、人の意見を受け入れる姿勢があり、素敵だと感じています。美術談義や雑談も自然と盛り上がるので、一緒にいて心地良いです。
──末弘さんの作品の背景制作をサポートする上で野口さんが心掛けていることは?

野口さん:末弘さんの作品の主題や世界観を壊さずに、むしろ際立たせることを意識しています。色調や筆致で末弘さんの意図に寄り添いながら、自分らしさも程よく反映できるよう調整しています。特に背景は空気感や奥行きを演出する大事な要素なので、主張しすぎず、静かに響くような画面づくりを心掛けています。

──末弘さんからみて、野口さんの強みや仕事ぶりは?

末弘さん:スタジオ内では私が担当する作品制作を技術面・実務面の両方から野口さんに幅広くサポートしてもらっています。具体的には、スケッチやキャンバスの状態確認やインスタレーション時に必要となるクリーツ(壁にアートやパネルなどを取り付けるための絵画ハンガー)の制作、取り付けなどです。野口さんは色彩感覚に優れているので、調色やキャンバスの下地づくりなどもお願いしています。また対人スキルにも長けているので、外部との連絡や打ち合わせといったコミュニケーションの場でも、信頼し任せています。

──今後の展望や挑戦について

末弘さん:引き続き野口さんと協力しながら、ニューヨークでの美術活動を精力的に続けていきたいです。

野口さん:今後もお互いの特性を活かした合作を継続しながら、ニューヨークを拠点に大規模な絵画制作やワークショップにも挑戦していきたいです。また個人では展示会開催に加え、一定期間ある地域に滞在しそこで生まれるアイデアやインスピレーションを制作の糧として芸術活動を行う「アーティスト・イン・レジデンス」への参加を通じて、より広い視野を持った表現活動に力を入れていきたいです。


(左)野口龍 Ryu Noguchi
1999年、群馬県生まれ。2024年にパーソンズ美術大学(ファインアート専攻)卒業。スタジオアシスタントやイベントスタッフを経験後、25年3月より松山スタジオで制作スタッフとして勤務。
Instagram: @ryunoguchi_

(右)末弘裕一 Yuichi Suehiro
1985年、埼玉県生まれ。2008年東京芸術⼤学絵画科(油画専攻)を卒業し、10年、同⼤学院美術研究科(油画技法材料研修室)修了。⾼校で美術教員をしながら、個展やグループ展を多数企画。23年に渡米、同年8月より松山スタジオにて勤務。
Instagram: @yuichisuehiro


二人展 『A Slightly Lonely Afternoon』グリーティングカード作りのワークショップも開催

「天使と白い木」を含む、どこか寂しげな女の子の姿を描いた作品6点を展示

【日時】6月30日(月)まで(オープニングレセプション・ワークショップは6日(金)午後6時〜7時30分)
【場所】Owlee Café & Studio (211 Franklin St., Brooklyn, NY 11222)
お問い合わせは admin@matzu.net

誰かに想いを届けるグリーティングカード

 

               

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