プロスポーツから見る経営学

第52回 バーガーキングの奇策

弱小チーム人気爆発
ゲームで盛り上がれ

スポーツ界において無観客試合(日本ではリモート試合)が主流になりつつあります。テレビ局はさまざまなコンピューターグラフィックを駆使して、観客があたかもいるように工夫をしたり、スポンサー企業の宣伝広告がより目に付くようにしていたりと、今までは異なる工夫がたくさん出てきました。

一方で、スタジアムに観戦に出掛けることが限定的であることは変わらず、失われたチケット収入や、スタジアムでの各種収入の補てんへの回答はまだ出てきていない状況です。

世界中で色々な施策が試されている中で、つい最近バーガーキングが実施した、非常に面白い事例を紹介したいと思います。

 

こちらは現実世界のスティヴネイジFCの本拠地・ラメックススタジアム

 

無名チームで戦え!
ゲームで自社ロゴ祭り

彼らは試合会場に誰も行けないことを前提に、いかに自分たちをプロモーションしたら良いのかと考えました。その中で、エレクトロニクスアーツ(EA)社が出している人気サッカーゲーム「FIFA20」に着目したのです。

このゲームの中に登場するチームは実在するプロサッカーチームなのですが、バーガーキングはその中で一番下位に位置する無名の英国クラブ「スティヴネイジFC」のユニホームの胸に、2018年よりロゴを掲出するスポンサー契約をしていました。下位リーグに所属をしており、無名のクラブなので、ユニホームの胸広告も安価で済みました。

ここでポイントなのは、実際のチームのユニホームに自社ロゴを掲出したということは、EA社のFUFAシリーズに登場する同クラブのユニホームにも、バーガーキングのロゴが掲出されることです。

そこでバーガーキングは、このFIFAのゲーム内でスティヴネイジFCを使用したユーザーに、華麗なゴールを決めたらその動画をSNSに投稿してもらう「スティヴネイジチャレンジ」を開始しました。投稿と引き換えに、バーガーキングから各種特典がもらえるというキャンペーンなのです。

これによりチームファンは元より、FIFAをプレーしていた人たちが一気にスティヴネイジFCを選び、ゲーム内でリオネル・メッシやクリスティアーノ・ロナウドなどをスティヴネイジFCに移籍させてプレーしだしました。

双方に経済効果
夢のコラボまで

このキャンペーン期間中だけで、スティヴネイジFCのユニホームを着たメッシやロナウドなどのゴール動画が2万5000件も投稿され、スティヴネイジFCはFIFAゲーム内で最も使われたクラブになり、さらには同クラブのユニフォームが、史上初めて完売してしまったのです。

これでバーガーキングは、安価かつ広範囲に、自社の宣伝広告をすることに成功しました。ゲーム内とはいえ、スーパースターであるメッシやロナウドがバーガーキングのロゴを胸に活躍してくれるというおまけまで付いてきたのです(実際の世界でメッシに自社コマーシャルに出演してもらうとなると、とても高価になってしまいます)。

スティヴネイジFCも、ユニホームが売れるという臨時収入を得ることができました。

このコロナ禍で収入が激減している中、スポーツとゲームを非常に賢く組み合わせた企画であり、スポーツマーケティングに携わる一員として、とても感嘆しました。

このようにスポーツビジネスは、ますますデジタル化し、eスポーツの勃興が促進されていくことは間違いないないでしょう。今後もアフターコロナ、ウィズコロナにおいて、どのような新しいスポーツビジネスモデルが出現していくのか、私も大きな期待を寄せています。

ちなみに、このキャンペーンの様子をまとめたものがユーチューブに掲載されていますので、興味のある人はぜひご覧ください(youtu.be/7qjIcK-cvbg)。

 

<今週の用語解説>

スティヴネイジFC

スティヴネイジ・ボロFC(Stevenage Borough FC)から2010年に改名。イギリスのハートフォードシャーにある同名地を本拠点に、1976年に創設された。イギリスサッカーリーグでは最下位(プレミアリーグの三つ下)に位置する「EFLリーグ2」に所属。2019-20年度シーズンでは最下位だった。ちなみに2020-21年度シーズンは、日本のチームと対戦の予定があるそう。

 

 

中村武彦

マサチューセッツ大学アマースト校スポーツマネジメント修士取得、2004年、MLS国際部入社。08年パンパシフィック選手権設立。09年FCバルセロナ国際部ディレクター就任。ISDE法科大学院国際スポーツ法修了。現東京大学社会戦略工学研究室共同研究員。FIFAマッチエージェント。リードオフ・スポーツ・マーケティングGMを経て、15年ブルー・ユナイテッド社創設。

 

               

バックナンバー

Vol. 1312

秋到来! 週末のプチお出かけ ワシントンD.C.博物館を巡る旅

ニューヨークに負けずとも劣らない美術館や博物館の宝庫、ワシントンD.C.。今週はトランプ政権のD.E.I.政策に揺れるスミソニアン協会運営の博物館の中で、今のうちに訪れたい五つの施設を紹介する。

Vol. 1311

映画の街・NYを味わい尽くす フィルムカルチャー最新ガイド

映画が日常に溶け込む街・ニューヨーク。『ティファニーで朝食を』や『ゴッドファーザー』といった名作の舞台であり、今も『プラダを着た悪魔2』をはじめ数多くの作品の制作が続いている。世界中から映画ファンやクリエーターが集まり、大規模な国際映画祭から街角の小さなインディペンデント上映スペースまで、あらゆる映画体験の場が点在している。そんなニューヨークの映画文化(フィルムカルチャー)の最前線を探ってみたい。

Vol. 1310

私たち、こんなことやってます!

事業発展に伴う税務を全米対応でサポートするAA&TC, Inc. 代表・税理士のナムさん、日米の複雑な国際案件にも対応するGIIP 日米国際会計事務所マネージングパートナー・公認会計士の佐藤さん、パートナー・税理士の伊東さんに話を伺った。

Vol. 1309

夏の夜にレコードを  〜響き続けるアナログの魅力〜

今、日米でレコード人気が勢いづいている。特に若年層を中心に音楽配信とは異なる魅力で、特別な体験や満足感を得ようとする傾向が主流になりつつあるようだ。いつまでも大人たちを魅了してやまないレコード。こよいは夜風に吹かれながらレコードで音楽鑑賞を楽しんでみては。