NY発!週末アメ
観客には決して見えないブロードウェイのリアル。現役ブロードウェイベーシストが、仕事の流れ、現場の空気、そして“プロとして生きる”ということを、自身の視点で綴る連載。
シアターの舞台裏 ― ブロードウェイを支える人々
ブロードウェイの魅力と聞いて、多くの人が思い浮かべるのは、きらびやかなステージ、次々と変化する照明、自動で動く巨大なセットピースではないでしょうか。しかし、その一つひとつの裏側に、それぞれの分野で“プロ中のプロ”が存在し、毎晩ショーを成立させていることを意識する人は、意外と少ないかもしれません。客席から見ているだけでは、なかなか想像できない世界です。
プロフェッショナルから成る「歯車」
例えば、音楽に完璧にシンクロして変化する照明。これは偶然でも、事前にプログラムされているだけでもありません。舞台袖にはステージマネージャーと呼ばれる人たちがいて、ショー全体をリアルタイムでコントロールしています。「Lights 321, go」そんな一言で、照明、音響、セット転換などが正確に動いていきます。まさに舞台の司令塔です。ちなみにLights 321番はChessアクト1の最後の照明のキュー番号で、ステージマネージャーのリサさんのお気に入りだそうです。
照明、音響、衣装、ウィッグ(かつら)、舞台転換、オートメーション。ブロードウェイでは、あらゆる分野に世界中からトップレベルの人材が集まり、「最高のエンターテインメントを毎晩提供する」という一つの目的のために働いています。だからシアターの中は、どこか会社のようでもあります。明確な役割分担があり、ルールがあり、そしてプロフェッショナルとしての責任があります。
私がブロードウェイで働くのが好きな理由のナンバーワンは、この完成された仕組みの中で仕事ができることです。この世界を説明する際によく使われるのが「歯車」の例えです。一つひとつの歯がショーに関わる人々で、それぞれが綺麗に磨き上げられている。完璧な歯車同士が噛み合うことで、その上にある大きなシステムが回り続けます。個々の歯にスポットライトが当たることはほとんどありませんが、たった一つ欠けただけで、全体が止まってしまう。そのシステムの一部として働くことで、自分一人では決して動かせない規模のものを動かせるのです。もちろん、その裏には複雑なユニオンルールや契約の仕組みが存在します。
チームワークを高め、コミュニティーを循環させる伝統
そんな多くのデパートメントが一つのチームとして機能するために、ブロードウェイには独特の文化や伝統があります。その一つが、いくつものシアターで行われている「ダラーフライデー」です。毎週金曜日、シアターで働く誰もが参加できるミニイベントで、一ドル札に名前を書くか、ラッフルチケットを購入します。そしてインターミッション中に名前を引かれた一人が、その週に集まったお金をすべて持ち帰る、ちょっとした賭け事です。私が現在働いている『Chess』では、毎週だいたい300〜400ドルほど集まっています。当たった人がその週末に差し入れをすることも多く、自然とコミュニティーが循環していきます。私自身も今のショーではないですが、過去に二度当たったことがあり、日曜マチネ(昼公演)前にベーグルを差し入れしました。
もう一つが、「サタデーナイト・オン・ブロードウェイ」を略した S.N.O.B.(スノブ) というイベントです。土曜日の二公演が終わった後、シアター内または近所のバーで行われる飲み会で、毎回どこかのデパートメントがホストを務めます。「今月のテーマはこれ」といった張り紙がバックステージに貼られ、キャストもスタッフも入り混じって楽しみます。普段は交わることの少ない人たちと話せる、貴重な時間です。
ブロードウェイの舞台は、決して表に見える部分だけで成り立っているわけではありません。その裏側には、無数の仕事と人のつながり、そして長年培われてきた文化があります。その一端を知ることで、客席から見る舞台は、きっと少し違って見えてくるはずです。

Yuka Tadano / Bass Player
茨城県出身。2004年に渡米し、テキサス州のUniversity of North Texasで学部・大学院あわせて6年間ジャズを専攻。2010年よりニューヨークを拠点にプロのベーシストとして活動を開始。ジャズ、キャバレー、オフ・ブロードウェイ、全米ツアーなど幅広い現場を経て、現在はブロードウェイ・ミュージカルのオーケストラを中心に活躍している。演奏活動に加え、次世代の育成にも力を注いでいる。
IG: @yukatadano




