今週からプロ&#
混乱の現場で手を取り合って
「W&Eホスピタリティー」社長 若山大木さん
マンハッタン内で「丼屋」「蕎麦あずま(ニュージャージー店もあり)」「うどんWEST」「対馬」、ニュージャージー州で「ラーメンあずま(2店舗)」「イースト・レストラン」を展開している、「W&Eホスピタリティー」。オースティンを拠点にしている若山社長は、全店でイートイン営業が停止となった3月17日に、ニューヨークに戻っていた。ミッドタウンの事務所に通いながら、現在も各店舗の様子を見て回っている。
「売り上げは同月9日の週から、3割減少。ただマンハッタンの店舗は16日の夜にも駆け込みでお客さまがいらっしゃって、店内で食事をしていました」と若山社長。まだオフィス勤務の人が多かったことがうかがえる。
デリバリー対応の利益はギリギリ
ピックアップ/デリバリー限定の営業措置となり、各店のマネジャーと相談した結果、「うどんWEST」と「蕎麦あずま(マンハッタン店)」は休業。残りの店舗は営業を継続した。
「最初の2週間は売り上げが厳しい状態が続きましたが、4月に入ってからは徐々に伸びてきました」
「丼屋」は、1〜2人前の丼物の注文が多いという。食材の流通は現在通常通りで、しいていうなら魚介類の入荷が減少している。
これまでデリバリー対応をしていなかった「丼屋」「対馬」は、これを機にデリバリーを即時導入。しかし大手デリバリーアプリは、1回の注文で、売り上げの30%が手数料に取られるという。
若山社長は、「デリバリーの利益は人件費に充てるのが、やっとの額。店舗の家賃はとてもじゃないけれど負担できません。完全休業している飲食業店があるのも、仕方ないことだと思います。どちらの判断が正しいのか」とため息を漏らす。
従業員のケアを第一に
店内営業ができない現在、苦渋の決断として、従業員には失業保険の申請をしてもらい、さらに「GoFundMe」でクラウドファンディングを立ち上げた(gofundme.com/f/east-restaurant-group)。現時点で1万ドルが集まり、全額を従業員に、均等に割り当てる予定だという。出資者の中には、すでに日本に帰国している昔の客もいるという。
「ただ、一番気掛かりなのは従業員の健康と安全です。通勤時に人と接触しますし、特にマンハッタン市内の治安悪化が心配ですね」
幸いなことに、取材時の時点でコロナウイルスの症状を訴えている従業員はゼロだ。
政府の補償制度でも混乱
今、若山さんが最も懸念を示すのが、政府からの補償制度の停滞だ。例えば連邦中小企業庁(SBA)は「Paycheck Protection Plan(PPP)」という制度を実施しているが(このページで詳しく解説)、電話受付はしておらずネットのみの対応で、それも完全に停止しているのが現状。申請は各金融機関にて行うのだが、対応や申請条件がそれぞれ異なり、事業主たちは混乱してしまっているという。
「PPPは、融資額の75%を人件費に回すことが条件で、しかもこれから8週間後には、従業員の人数を本来の数に戻さなければならない。家賃の軽減にはなりません」
SBAによる「Disaster Loan」、ニューヨーク市による「Small Business Continuity Loan」はいずれも「返答すらない」状況が続く(編集注=「Small Business Continuity Loan」は4月9日現在、受付を一時中断している)。
「事業主としては、4月頭に補助を受けられなかったことが痛手です。月初は家賃だけでなく、卸業者への支払いなどもあります」と若山社長。今、持ち堪えている飲食業店も、長い持久戦を強いられることになるだろう。
一方、物件・店舗の損傷による利益損失を補償する「Business Interruption Coverage」の受付を求めるよう、保険会社に働きかける動きもある。世間は少しずつ、その特異性と被害の大きさに理解を示している。
人々の生活に直に影響する
実は若山社長、2008年のリーマンショックの際は金融業界に勤めていた。その時の経験を踏まえ、今回の騒動を次のように分析する。
「リーマンショックの影響で、金融はIT化も進み、このような世間の混乱には打撃を受けにくい構造に変化しました。銀行が1社でも倒産すれば、悪循環が始まるでしょうが、今回の騒動で最も打撃を受けたのは、時給で働く人々だと思います。そのうち、クレジットカードでの支払いに困る人が増えてカード会社も危機に立たされるでしょうし、不動産市場も不況に落ち込んだりするでしょう。経済被害は計り知れません」
「飲食業界は変わっていかなければならない。1人勝ちを狙うのではなく、みんなが手を取り合って生き残っていかないと」
再び店内が客で賑わうそのときまで、若山社長と従業員は、今日もピックアップ/デリバリー対応を続けていく。
若山大木さん
福岡県出身。1〜18歳までをニューヨークで過ごす。慶應大学を卒業後、バークレーズ証券やゴールドマンサックスに勤務。リーマンショックを経て、祖父の経営する株式会社ウェストに勤務。2012年、ニューヨークの「W&Eホスピタリティー」社長に就任。
丼屋(253 W. 55th St. / donburiyany.com)
うどんWEST( 150 E. 46th St.)
蕎麦あずま ミッドタウン店(251 W. 55th St. / sobaazuma55.com)
生蕎麦あずま(246 Main St., Fort Lee, NJ 07024 / azumanoodle.com)
ラーメンあずま イングルウッド(39 S. Van Brunt St., Englewood, NJ 07631 / azumaramen.com)
ラーメンあずま フォートリー(243 Main St., Fort Lee, NJ 07024 / facebook.com/azumanoodle)
イースト・レストラン(1405 Teaneck Rd., Teaneck, NJ 07666 / eastrestauranttn.com)