寒さが本格的&#
野球の本場・米国で活躍する日本人メジャーリーガー。取材現場で感じた選手の“今”の思いや状況を深掘りするコラム。
ニューヨークの2球団は、10月の下旬にポストシーズンで戦っていない。ヤンキースは地区シリーズでブルージェイズに負け、メッツはポストシーズンに進出することが叶わなかった。ヤンキースは松井秀喜さんがワールドシリーズMVPを獲得した2009年を最後にチャンピオンから遠ざかる。「名門」の看板が、さびしい。
話題は西海岸のロサンゼルス・ドジャースが中心だ。ナ・リーグ優勝決定シリーズ第4戦ではブルワーズに5─1で勝利し、4連勝で2年連続のワールドシリーズ進出を決めた。そして、1998〜2000年にヤンキースが3連覇を達成して以来、連続で頂点に立ったチームはない。ドジャースはその挑戦権を手にした。
私は、サンケイスポーツのフルタイム記者として働いていた昨季までは、日本選手の出場にかかわらずポストシーズンは最後まで現場で取材をしてきた。しかし、今年は現場での取材は地区シリーズまで。リーグ優勝決定シリーズからは、ニューヨークの自宅に戻り、仕事をしている。メジャーリーグの醍醐味ともいえるポストシーズンを現地での取材ができない状況は、複雑な思いだけれど、「来年こそは!」とモチベーションを新たにして、今やるべき仕事に集中している。
2018年、GM会議でのワンシーン。スコット・ボラス代理人の会見では多くの記者が集結
スクープを狙うために
野球記者をしていると知人や友人から「オフは仕事するんですか?」と聞かれる。もちろん、仕事はします(笑)。最大の業務は次のシーズン、日本からメジャーにくる選手がどの球団にどんな契約で入団するのか、を取材する。その情報のスクープを狙う。それが、重要ミッションだ。このオフなら、ヤクルトの村上宗隆内野手(25)がどこにいくのか。ただ、この手の情報は、なかなか表に出てこない。水面下で進められることが多い。そして、ビッグネームになれば、米メディアのジャーナリストたちも「第一情報者」になろうと取材活動に熱が入る。私も「日本選手の情報競争では負けたくない!」という思いで敏腕の米メディアと戦うオフシーズンの取材が待っている。
この類の取材は、自分が持ちうる人脈を駆使して、メールやLINEを送り、電話をして情報収集をする。細かいパズルのピースをつなぎ合わせて、正確な情報にたどり着く。真実に近づいたら、「裏どり」といわれる確認作業に入る。日頃、直接原稿にならない取材現場でも誰とどのように信頼関係を築いてきたか、が問われる。
メジャーの場合、11月上旬にGM会議から本格的なストーブリーグに突入する。GM会議とはフリーエージェント(FA)になる選手らについて、各球団のGMが一堂に会して情報交換を行う。毎年、会場は異なるが今年はラスベガスの大型ホテルが会場になっている。その後、12月にはウインターミーティングといわれる、メジャー30チームの編成本部長、GMら球団幹部に加え、選手の代理人ら、さらに日本や韓国などからもフロントスタッフが集結して情報交換や移籍交渉が行われる。大物FA選手はこのウインターミーティングから、大型契約が次々と決まっていく。それが恒例だ。

今オフは日本からヤクルト・村上に加え巨人・岡本和真内野手(29)、西武・今井達也投手(27)ら移籍希望の選手が多い。私の個人的な注目は、日本で仕事をしていた時代に取材していた楽天・則本昂大投手(34)だ。則本もメジャー移籍を狙っているらしい。則本と最後に会ったのは、2017年のWBS(ワールドベースボールクラシック)。私は渡米して2年目だった。侍ジャパンは、アリゾナでの合宿を終えるとロサンゼルスに移動。「定番の観光地に行きたい」とのリクエストを受け、ハリウッドサインをみにいった(写真)。今はパドレスでプレーする松井裕樹投手(29)も一緒だった。当時からメジャー志望のあった則本に「近いうちにアメリカで、メジャーの球場で再会しましょう」と伝えて別れた。しかし、その後、則本は楽天と7年契約。その大きな契約が満了するタイミングで一度、封印した夢を再び追う決心をしたようだ。ただ、7年前とはメジャー球団が則本に対する評価も変化した。2017年当時、私が取材したあるメジャー球団のスカウトは「実は東京ラウンドで一番メジャーの評価を上げたのは、則本だ」と明かしていた。しかし、来年35歳を迎える右腕への評価は、決して高くないというのが現実だ。今は、則本が悔いのない進路を選ぶことを願いながら、私は移籍情報の競争に突入する準備をしている。
山田結軌
1983年3月、新潟県生まれ。2007年にサンケイスポーツに入社し、阪神、広島、楽天などの担当を経て16年2月からMLB担当。25年3月より、独立。メジャーリーグ公式サイト『MLB.COM』で日本語コンテンツ制作の担当をしながら、『サンスポ』『J SPORTS』『Number』など各種媒体に寄稿。ニューヨーク・クイーンズ区在住。



