アートを見に行こう

Jasper Johns: Mind/Mirror ①

編集部員がアートを巡る連載エッセイです。編集部員A

■外国語学部を卒業し、写真専門学校へ。某新聞社系出版社の写真部を経て、フリーランスのカメラマン兼ライターに。現在、弊紙編集部で書いて撮って編集を担当。趣味は映画と犬の散歩。食べること、飲むことが大好き。


地下鉄のグランドセントラル駅にもぐり、緑の丸で囲まれた4の数字を探す。今日は6ではなく4に乗る。ユニオンスクエアまで急行で1駅だ。ニューヨークに住み始めて間もない頃は、不親切な線路図と早口なアナウンスのおかげで目的地にたどり着くのにかなりの時間を要した。まだまだ住んで日は浅いが、これでも効率的に移動手段を選べるようになったと思う。

1930年にジョージア州で生まれたジャスパー・ジョーンズは、ある日星条旗を描く夢を見て、次の日にそれを現実にしたという。ジョーンズの描く星条旗はただのそれではない。巨大なキャンバスにデザインを描き、取るに足らない記事の新聞紙を敷き詰め、その上から絵の具と蜜ろうを塗り込める。労力を掛けて制作された作品は一見、愛国心の象徴に見えるのだが、実際には誰が見ても意味のわかる一つの「記号」として描かれている。

星条旗を見てアメリカの国旗だと瞬時に判断できるのと同様に、現代の都市には一目見て意味を読み取ることのできる記号であふれている。信号の赤や、黄色い標識に描かれた動物だってそう。地下鉄の駅に掲げられた緑の丸で囲まれた4を見て、なぜ緑なのか、あの緑は薄緑かエメラルドグリーンか、どこから数えて4番目なのか、なんて思考を巡らせる暇なんてない。私たちは記号だらけの社会の中で、効率性を重視して生きているのだ。

そんな現代社会のあり方に対してジャスパー・ジョーンズは、誰もが知っているモチーフを使って問いを投げかける。彼が星条旗に込めた想いとは。

ホイットニー美術館 

99 Gansevoort St.
TEL: 212-570-3600
whitney.org
【会期】2月13日(日)まで

 

               

バックナンバー

Vol. 1323

ホリデーを彩るワインの魔法  ─クリスマス・年末年始・大切な人と集う時、 “美味しい”を超える体験を、ワインと─

ホリデーシーズンは、家族や友人と集まる特別な季節。そんな時間をより豊かにしてくれるのが「ワイン」である。 今回は、ワインのスペシャリスト監修のもと、基礎知識からフードペアリング、ギフト選びまで幅広く紹介。初心者から上級者まで堪能できる、“ホリデーを彩るワイン”の楽しみ方をお届けする。

Vol. 1322

私たち、こんなことやってます!

睡眠時無呼吸症候群の治療に注力する、パーク・アベニュー・メディカル・センターのジェフェリー・アン院長と、保険対応も万全の総合ヘルスケアを提供するE.53ウェルネスの川村浩代さんに話を聞きました。

Vol. 1321

サンクスギビング特集 ニューヨーカーに愛される手作りパイ 〜ケーバーズの舞台裏〜

ウエストビレッジの一角に、どこかノスタルジックな空気をまとったパイ専門店「ケーバーズ」がある。ロングアイランド地区で生まれたこのブランドは、“農場から都会へ” をテーマに、素朴な焼き菓子をニューヨークの街へ届けている。季節のパイはもちろんビスケットサンドなど魅力は尽きない。今回は同店のミシェルさんに、人気の理由やホリデーシーズンの舞台裏について話を聞いた。

Vol. 1320

どんどん変わる、ますます面白い ゴワナス探訪

ニューヨークの最旬スポットとして  ニューファミリーやレストラン業界、不動産開発業者から熱い視線が注がれるブルックリン西部の中心地ゴワナス。今週はゴワナス入門編として、その楽しみ方を紹介する。