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従来は、少女には少ないはずの神経障害「チック症」が欧米各国で急増している。医療関係者が相次いで報告し始めた。原因は、ビデオシェアアプリ「TikTok(ティックトック)」との説が有力で、これを問題視した米議会が、公聴会を開き、規制に向けて動き始めた。
筆者が見つけたTikTokのあるアカウントのビデオ──。長い金髪の10代とみられる女性が車の運転席で、首を斜めにピクピクと振る。目は、半開きだ。ビデオには「もし、トゥレット症候群になりたかったら」という字幕がかぶさっている。
トゥレット症候群は神経系の障害で、本人の意思とは関係なく、繰り返し特定の動きをしたり、いきなり声を発したりする。それらの動きはチックといい、個別の症状を、「チック症」という。彼女は「ticcingtogether(一緒にチックちう)」というアカウントで、約1万9000人のフォロワーがいて、日々増え続けている。
こうしたチックを取り上げた動画を見て症状をまねた結果、少女や若い女性に症状が出てしまい、病院に来るケースが異常に増えているという。
最初に報道した米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)によると、米国やカナダ、英国、オーストラリアで医師らが調査したところ、彼女らに共通していたのは、TikTokのユーザーということだった。
ロックダウンで
TikTokユーザー急増
以下は、WSJの報道だ。トゥレット症候群を専門とする米国の医師は昨年3月以降、チック症を患う10代の新規患者を月に10人前後診断している。コロナ禍の前は月1人程度だった。患者が増えたのは、新型コロナウイルスの感染拡大によるロックダウンで、学校が閉鎖されて自宅学習が始まった時期と一致している。スマホ時間も増えた可能性が大きい。
米ジョンズ・ホプキンス大学精神医学・行動科学科のジョセフ・マグワイア准教授によると、同大のトゥレットセンターでは、小児患者の10~20%までもがチック症のような動きを突然するようになった。だが、パンデミックの1年前は2~3%程度だったという。
また、英国の医師の報告によると、今年1月に調査を開始した際、「#tourettes」というハッシュタグが付いた動画の再生回数は、約12億5000万回に上り、その後も、48億回にまで伸びている。
トゥレット症候群と
インフルエンサーの関係性
複数の医学記事は、少女らがトゥレット症候群だというインフルエンサーをフォローしているのが共通点だと突き止めた。米ラッシュ大学医療センターに過去1年に紹介された約30人の10代患者のうち、多くに自傷行為すら見られた。痙攣(けいれん)によるあざや擦り傷も見られるという。
もう一つの特徴は、多くの若者が「ビーンズ」という言葉を動画で発していることだ。
筆者が見つけたTikTokのあるアカウントは、長い黒髪の女性が「ビーンズは好き?」「ビーンズ!!」と叫び、彼女の側にいると思われる友人が笑い声を上げていて、楽しげだ。
この傾向には妙な点もある。WSJによると、多くの医師は、動画の女性らの動きが、トゥレット症候群には見えないとも指摘している。つまり、チックを「クール」だと思って、症状はないのにまねをした動きをして、ビデオをアップしている可能性がある。フォロワーを増やしたい、一心ということか。
米上院商業委員会
新たに規制を検討か
これに対し、米上院商業委員会の消費者保護小委員会は10月26日に公聴会を開き、若年層に人気のTikTok、Snapchat(スナップチャット)などソーシャルメディア幹部を呼んだ。議員らは、子供がソーシャルメディアを利用する際の安全性に懸念を示した。公聴会の狙いが、今後、子供を保護するための新たな規制を定めることであるのは間違いない。
WSJ は、子供が突然チックの症状を見せた場合、親ができることを紹介している。「ソーシャルメディアの利用を休止させる」「専門家に相談する」「過剰反応しない」ことなどとしている。
コロナ禍で増えた少女らのチックは、もう一つの禍だともいえる。インフルエンサーらが、発信する情報に責任を持つ必要もある。
津山恵子
ジャーナリスト。
「アエラ」などにニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。
フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOなどにインタビュー。
近書に「現代アメリカ政治とメディア」(東洋経済新報社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。
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