2016/02/19発行 ジャピオン852号掲載記事

ハートに刺さるニュース解説

第21回 クイーンズ・ブルックリン間に路面電車新設

路面電車が復活
またも富裕層優遇?

 クイーンズに住むようになってから、「Mライン」に乗るのが楽しみだ。週末に運休したりする不便はあるが、高架線を走るので、マンハッタンに行く際は、ウィリアムズバーグ・ブリッジを渡り終わるまで、クイーンズからマンハッタン対岸の景色が楽しめる。

 と思っていたら、ビル・デブラシオ市長が「路面電車(ライトレール)」を、クイーンズ・アストリアからブルックリン・サンセットパークまで新設する計画を発表した。「ブルックリン・クイーンズ・コネクター(BQX)」と呼ばれる計画は、走行距離16キロメートル、敷設費用25億ドルという、壮大な計画だ。

サービス開始は
2024年を予定

 ルートは、アストリアから出発すると、イーストリバー沿いにブルックリン・ハイツやウィリアムズバーグといった住宅ブームエリアを通る。バークレイズ・センターなどブルックリンのダウンタウンに寄り道をした後、レッドフックの沿岸に細かく停車して、サンセットパークに至る。2019年に建設に着手し、24年の開通を目指す。

 この計画と経済効果を発表した非営利法人(NPO)「フレンズ・オブ・ザ・ブルックリン・クイーンズ・コネクター」は、35年までに1580万人の乗客がBQXを利用すると推定。費用は膨大だが、付近の開発や新しいビジネスができることで、新たに37億ドルの税収にもつながるという。

 この路線計画を見たときの感想は、「ニュージャージーのライトレールのまねだな」というものだ。お隣の州の「ハドソン〜バーゲン・ライトレール」は、デベロッパーが「ゴールドコースト」と呼ぶ住宅ブーム地域、つまりハドソンリバー沿いを走っている。BQXが出来れば、マンハッタン島を挟んで、2本の川沿いに双子のようにライトレールが走ることになる。

 実は、ブルックリンとクイーンズには以前は路面電車が網の目のように走っていた。ブッシュウィックから筆者が住むクイーンズの南部は、バス路線が網の目のようにあるが、これがかつての路面電車の名残だ。1930~50年代に、「クルマ社会」の到来で路面電車はバスに取って替わられた。バスなら、クルマの走行を妨げないからだ。

従来の電車と異なる
ライトレールの魅力

 ライトレールは、かつての路面電車とは少し形が異なる。筆者が米国で初めて乗ったライトレールは、カリフォルニア州サンノゼの「VTAライトレール」だ。まず、地下鉄や路面電車よりも車両が大きい。駅は無人駅ばかりだ。天井が高く、フロアは、限りなく線路に近いのでホームが低い。また、シリコンバレーを走る路線らしく、自転車ホルダーが車両内にあり、床に対して縦に駐輪することができる。ワイファイも完備していた。BQXも実現すれば、こういった現代のライフスタイルに合ったデザインが盛り込まれるだろう。


高所得者への優遇?
それとも格差の是正?

 さて、BQXは実現するのだろうか。路線については、すでに批判が出ている。レッドフック以外は、ほとんど地下鉄がやや内陸よりに平行に走っている、というのが理由だ。これでは、現在マンハッタンをしのぐ住宅ブームにわくイーストリバー沿いに住める若くて高所得の市民への優遇策だというわけだ。

 デブラジオ市長は、公共交通機関が均等に行き渡らないことが「格差」につながるとして、BQXは「大きな変化をもたらす」と強調している。

 さらに、費用をどう捻出するのかというのも大きな問題だ。地下鉄のセカンド・アベニュー・ラインは、工事が遅れるばかりで、費用も膨らんでいる、という悪い「先例」だ。

 しかし、クイーンズの北から、ブルックリンの南に行くのは、現状では極めて時間がかかるというのが現実だ。地下鉄が平行して走っているという批判はあるが、その地下鉄の起点はみなマンハッタンで、複数のラインに乗らないと南北縦断は無理だ。

 さらに、公共交通機関の方が環境にもいい。BQXが出来るのに期待したい

BQXの完成予想図と路線図。(写真提供: Friends of the Brooklyn Queens Connector)

津山恵子

津山恵子
■ジャーナリスト。「アエラ」などに、ニューヨーク発で、米社会、経済について執筆。フェイスブックCEO、マーク・ザッカーバーグ氏などに単独インタビュー。近著に「教育超格差大国アメリカ」(扶桑社)。2014年より長崎市平和特派員。元共同通信社記者。

今週の用語解説

NY市の路面電車新設

ニューヨーク市のビル・デブラシオ市長は4日夜、ブロンクス区で行った施政方針演説の中で、ブルックリン区とクイーンズ区の間に路面電車を新設する計画を発表した。路面電車は、ブルックリン区サンセットパークからクイーンズ区アストリアまでのイーストリバー沿岸地区約26キロを結び、年数百万人の利用が見込まれている。運賃はメトロカードの基本運賃と同額で、2024年の開通を予定。推定建設費25億ドルは市が負担し、運営も市が行う。地下鉄路線を新設するより建設費ははるかに安いが、地元住民の検討と市当局の討議後に費用の変更が見込まれている。同計画は「平等と革新」をうたう施政方針の一部。

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