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藤谷奈々子さん システムエンジニアから寿司職人に ー「本当の和食」の美味しさを伝えたい

舌の肥えたニューヨーカーが絶賛するトライベッカのAzabu New York。おまかせを提供する地下1階の「The Den」で、寺戸俊英ヘッドシェフの隣でスーシェフを務める藤谷奈々子さんに、寿司職人に至る道のりを聞いた。


藤谷奈々子さん(左)、ヘッドシェフの寺田俊英さん

大学では情報工学を専攻。卒業後は通信業界でシステムエンジニア、ITコンサルタントとして働いていたという異色の経歴。しかし、学生時代からカフェや居酒屋でアルバイトをし、好きで興味があった飲食の世界に挑戦したいと一発奮起。2012年、国内外でホスピタリティー事業を展開するプラン・ドゥ・シーに料理人として入社した。まだまだ男社会とされる業界で、料理学校出身でもなかったのに採用された理由を、「豪快で瞬発力のある男性と計画性と持久力がある女性がバランス良くいた方がお店はうまくいく。将来的には男女比を同じにしたいとする会社の方針と、語学留学の経験があり将来は海外で働きたいとする私の希望が一致したのでは」と振り返る。入社後は名古屋で400年続く老舗の料亭・河文に配属され、懐石料理を7年間、みっちりと学んだ。

海外で和食をやるなら、寿司を勉強しなさい

知れば知るほど奥深い和食に魅了され料理人として充実した毎日を送っていた17年、Azabuマイアミ店のオープンに伴いヘルプ要員として現地に派遣され4週間滞在。(マイアミ店の)料理長から「海外で和食をやりたいなら、寿司の勉強をしなさい」とアドバイスを受ける。これが転機となった。帰国後、寿司の勉強をしたいと思っていた矢先にプラン・ドゥ・シーが寿司事業部を創設。面接で「留学先のカナダの日本食レストランで感じた違和感」と「本当の和食や江戸前寿司を海外に紹介する大切さ」を熱く語ったところ採用となり、東京は大森海岸で100年続く松乃鮨で修行をスタート。ここでも徹底的にしごかれ、懐石料理も作れる寿司職人に。

Azabu店に赴任したのは22年12月。仕込みからレシピ開発、調理まで全てを任されていたが、今年3月からは地下1階「The Den」のスーシェフにも就任。隣でにぎるヘッドシェフの寺戸俊英さんは08年に同店がオープンした際に熱狂的な人気を誇った名人。世界各地の寿司麻布を指導して巡る長い旅を終え、2年前に再び古巣に復活したという知る人ぞ知るベテランの寿司職人だ。

天然の白身魚をはじめ鮮度抜群の魚をお造りやお寿司でいただける

細かい仕事で完成度が高まるアペと白身魚にやり甲斐が

懐石料理と寿司、二つの世界を歩いてきた藤谷さんが目指すのは「アペタイザーと寿司の両方が美味しい店」。和食の世界に長くいたせいか「日本に行かないと食べられない本当の意味での和食。食材の持ち味を生かした料理」と、とりわけアペタイザーに思い入れが深い。寿司ネタでいえば、白身魚。細かい仕事を一つ一つきっちりすることで完成度が高まる和食と同じように、入念な下拵えと工夫で味の違いを出せる白身魚はにぎっていて楽しいしやり甲斐があるという「。淡白だがそれぞれに味や歯応えに特徴がある。ニューヨーカーは脂がのった魚が好きだが、白身魚の美味しさをもっと知ってほしい。帰り際に『今日は白身魚が美味しかった』と言われたい」

懐石料理で腕を磨いた奈々子シェフのお椀物はまさに日本料理の粋

共通点は冷静さと論理的思考

ソムリエと酒ディプロマの資格も取得している藤谷さん。ゆくゆくはカウンターで「この料理にはこのワイン、この魚にはこのお酒などと提案をして楽しんでもらいたい」と考えている。「お酒と料理の相性がピッタリ合えば、もっと楽しくなる」と目を輝かせる。前職と料理人との共通点は?との問いに、「カウンターでは何が起きるか分からない。予測不能な事態に対処するには冷静に論理的に考える力が要求される。システムエンジニアの経験が生かされているとしたら、その点でしょうか」


藤谷奈々子さん

Azabu New Yorkの寿司店The Denのスーシェフ。IT系から料理の道へ進み日本各地で修行後、プラン・ドゥ・シーに入社。ニューヨーク在住2年半、大阪府出身。店情報はインスタ@thedennewyorkをチェック。azabuglobal.com

The Den

428 Greenwich St.

TEL: 212-274-0428/azabuglobal.com

               

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