木を見て、森を見て、木として考えるコラム

<第20回> 5月の読書におすすめーAAPI(アジア系米国人と 太平洋諸島民)関連の書籍

5月はAAPI HeritageMonth。「アジア系米国人と太平洋諸島民」を指すAAPI(Asian American and Pacific Islander)の歴史と経験を認識し、文化遺産を継承する月だ。同時に、米国社会での偏見や差別、同化の強要など、AAPIコミュニティーが抱える問題を考える機会でもある。5月が選ばれた背景には、1843年に日本人が初めて米国に上陸した月であること、そして多くの中国系労働者が19世紀に従事した米国横断鉄道がこの月に完成したことがある。

近年は、「アジア系米国人、ハワイ先住民と太平洋諸島民」を意味するAANHPI(Asian American, Native Hawaiian and Pacific Islander)や、「アジア系・太平洋諸島・南アジア系の米国人」を指すAPIDA(Asian Pacific Islander Desi American)といった言葉も使われる。

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非常に多様な歴史と経験、文化、そして苦難

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どの表記であっても、この属性はとてつもなく大きい。なので今週は5月に向けて、このカテゴリーの豊かさに触れられる書籍を紹介したい。できるだけ幅広い背景から選び、一冊を除き日本語訳されているものに絞った。

■『パチンコ』ミン・ジン・リー

日本統治下の韓国・釜山から大阪に移住する女性主人公を中心に、家族4世代に渡る長大な小説。在日韓国人が経験する差別や貧困、文化的同化を韓国系米国人作家が著す希少な1冊。Apple TV+でドラマ化もされている。

■『ノーノーボーイ』ジョン・オカダ

第2次世界大戦中、日本への忠誠放棄と米国軍入隊を問われどちらにも「ノー」と回答し、投獄された日系米国人2世青年が主人公。2国家の狭間に置かれた日系アイデンティティーの苦悩とコミュニティー内の亀裂、世代間のズレを伝える。1956年刊行時、日系米国人による初めての小説だったそうだ。

■『地上で僕らはつかの間きらめく』オーシャン・ヴオン

幼い頃に難民としてコネティカット州に渡ったベトナム系米国人著者による自叙伝的小説。英語が読めない母に向けた手紙の形式で、戦争の影響、家族の過去、性的マイノリティーの経験などを綴る。詩人である著者の筆致は読み手の心を動かす。

■『低地』ジュンパ・ラヒリ

描かれるのは、インド・カルカッタの反体制運動家の弟と、故郷を離れロードアイランド州に移住した兄。インド系米国人作家が二つの土地を舞台に、思想にズレがあっても続く家族の繋がりとそれを守る試練を著す小説。

■『キッチン・ゴッズ・ワイフ』エィミ・タン

中国からカリフォルニア州に移住した母と、米国で生まれ育った娘を描く小説。年老いていく母から中国での女性としての人生の困難を聞き、娘は気づきを得ていく。中国系米国人2世の同著者による『ジョイ・ラック・クラブ』は1993年に映画化され、当時ハリウッド初のオールアジア系キャスト映画だった。

■『Hマートで泣きながら』ミシェル・ザウナー

韓国人の母と白人米国人の父を持つ著者が、亡くなった母がよく作ってくれた料理を再現することで、ルーツの一つである韓国との距離を縮めていく回想録。泣かずに読むのは困難なほど、彼女の後悔と悲しみからの再生はつぶさに綴られる。

■『長距離漫画家の孤独』エイドリアン・トミネ

日系米国人4世著者がグラフィックノベル作家として名をあげるまでを描いた回想録のコミック。しかし栄光のストーリーではなく、とある授賞式で自分の日系姓が呼ばれないといった「悔しい」シーンも。映画化が決まっている。

■『H a w a i i ’ s S t o r y Liliuokalani (日本語訳未発表)

ハワイ王国最後の君主であるリリウオカラニ女王による自伝。19世紀の政変や米国の植民地主義がハワイ先住民に与えた政治的混乱について、示唆に富んだ洞察を展開する。

来月は、至るところで関連書籍が取り上げられるので、手にとったり周りと共有する絶好の機会。映画やドラマなども豊富だ。私も、このテーマには今後も幅広く触れていきたい。

 

COOKIEHEAD

東京出身、2013年よりニューヨーク在住。ファッション業界で働くかたわら、市井のひととして、「木を見て森を見ず」になりがちなことを考え、文章を綴る。ブルックリンの自宅にて保護猫の隣で本を読む時間が、もっとも幸せ。
ウェブサイト: thelittlewhim.com
インスタグラム: @thelittlewhim

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