レトロ作品 まったりレビュー

今週の1本 The Naked Gun(邦題:未定)

映画監督・鈴木やすさんが、映画好きにもそうでない人にも観てほしいおすすめ新作映画作品をご紹介します。


このコラムは映画紹介にかこつけて、気になった事を言いたい放題書かせていただいている。最近の話題は人工知能AIに関するものが多い。大学を卒業してもAIに仕事を奪われて就職できない若者が増えるのも嫌だし、AIを作った人間でさえその発達のメカニズムが理解できないままどんどん進化してしまう怖さもある。しかし憂いているばかりでは技術の進化はない。AIを応用した医療では病気の発見率が格段に上がるそうだし、副作用のない新薬の開発も夢ではないそうだ。人間は与えられた膨大な時間をどのように過ごしていくかを考える必要に迫られるかもしれない。そこで僕は考えた。AIにはできない、人間にしかできない事とはなんだろう? まず考えたのは不完全に非効率。日本文化には不完全なものを愛でる「侘び寂び」の文化がある。秋の枯れ葉や冬の枯れ枝にも朽ちてゆく美しさがあり、その不完全な美を非効率に追求してゆくことへの尊敬も持っている。日本文化の洗練さが改めて見直される日が来るかもしれない。生産や収穫した労働者に対して公正な対価を支払う「フェアトレード」商品がブランド化に成功したように、人間の手によって非効率で不完全に作られる商品もブランド化できるかもしれない。非実用もAIには考えつかないだろうな。1980年代に提唱された「超芸術トマソン」という運動があった。登っていっても壁に突き当たる階段、二階の外壁面に設置された扉など、役に立たないけれど興味深いものを街で見つけては観察する芸術運動だった。思えばそんな非実用的なものを面白がる余裕があったのは日本が豊かなバブルの時代だったからこそできたのだろう。馬鹿はどうだろう。イギリスの伝説的コメディー番組『モンティー・パイソン』にこんなコントがあった。のどかな田舎の村で一人の男が道端の柵の上に座り、難しい顔をして哲学書を読んでいる。すると村の農民がその道を通りかかる。男はさっと本を隠し、突然奇声を発し、変顔を作り歌って踊り出した。農民は「またバカが踊っているよ。バカは幸せそうでいいよな」と鼻で笑って通り過ぎて行った。農民が見えなくなると男はまた柵に座って静かに哲学書を読み始める。このコントは芸人や芸術家の社会での役割というのを的確に表現している。馬鹿にはしっかりと社会での役割があるのだ。もちろんAIにはできない。馬鹿は集積されたデータの外側にいるのだ。

桁違いの馬鹿

1980年代から90年代にかけて作られた『裸のガンを持つ男』シリーズが帰ってきた。映画館で予告編を見たときに嬉しくて飛び上がりそうになった。しかもそこはハリウッド映画だ。クソ真面目な顔で間抜けを繰り返す主人公のフランク・ドレビン警部を下手なコメディアンに演じさせてお茶を濁したりはしない。強面で冷徹に悪者を殺してゆくキャラクターの数々を演じるスター俳優、リーアム・ニーソンをキャストした。日本で例えるならば高倉健にハクション大魔王を演じさせるような配役なのだ。こういうところがハリウッドの凄さだ。意外性で観客の裏をかき、それを決して子供だましのいい加減さで作らない。ともすれば作品も興行も大失敗する可能性が高いが、熟考に熟考を重ねてキッチリと作り切る。ショービジネスとしての市場の大きさもリスクの高さも規模の桁が違うのだ。こんな何十億もかけて作り上げる馬鹿がAIにできるものか。尚、この映画を見てあまりの馬鹿さ加減に観に行ったことを後悔されても、ジャピオン編集部及び著者は一切の責任を負いかねますのでご了承ください

 

今週の1本

The Naked Gun(邦題:未定)

監督:アキヴァ・シェイファー
原案:『ポリス・スクワッド』テレビシリーズ
音楽:ローン・バルフェ
主演:リーアム・ニーソン、パメラ・アンダーソン

「あなたは誰なの?」
「フランク・ドレビン警部、ニューバージョンだ」

(予告はこちらから

 

鈴木やす

映画監督、俳優。1991年来米。ダンサーとして活動後、「ニューヨーク・ジャパン・シネフェスト」設立。短編映画「Radius Squared Times Heart」(2009年)で、マンハッタン映画祭の最優秀コメディー短編賞を受賞。短編映画「The Apologizers」(19年)は、クイーンズ国際映画祭の最優秀短編脚本賞を受賞。俳優としての出演作に、ドラマ「Daredevil」(15〜18年)、「The Blacklist」(13年〜)、映画「プッチーニ・フォー・ビギナーズ」(08年)など。現在は初の長編監督作品「The Apologizers」に向けて準備中。facebook.com/theapologizers

 

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