気になるアノ人を直撃

ブラックミュージックに魅せられてー黒人音楽業界から一目を置かれる日本人ベーシスト

先日、リンカーンセンターで開かれた人気ラッパー「フューチ(Fyutch)」のライブ。軽快なビートを刻むリズム隊の中でひときわ目を引くのが日本人ベーシスト広瀬隆史の姿だ。渡米6年にして、ニューヨークの黒人音楽界で高い評価を得ている彼が目指す音楽と人生について直撃インタビューした。


─いきなりですが、1日何時間練習しますか?

平均すると3時間ぐらいでしょうか。単なる練習以外にもインスタグラムにレッスン動画をあげたりしているので、ベースを触る時間はもっと多いです。

─特に尊敬するミュージシャンは?
ゴスペルベーシストのシャーレイ・リードです。シカゴを拠点に活動している人ですが、とにかくものすごい音楽性。先日もシカゴまでライブを見に行きましたが感動しました。

─広瀬さんもゴスペル教会で演奏しているそうですね?
はい。ファーロッカウェーのヘイブン・インターナショナル・ミニストリーズ教会で演奏しています。知り合いの日本人ドラマーに紹介されて二人で見に行くはずが、彼が寝坊して結局一人で行ったんですが、いきなり「来週からベース持ってきて」って言われ、以来、毎週日曜日に演奏しています。めちゃくちゃいい環境です。

今年1月にリンカーンセンターで行われたラッパー「フューチ」のライブ

─ゴスペル音楽の醍醐味は?

意外かもしれませんが、ゴスペルではロック以上に「太くて」「自由な」演奏しても構わないんです。かなり激しい演奏をする仲間のオルガン奏者にも言われました。「これでいいんだよ、これが自己表現なのだから」と。他のジャンルだとベースが好き勝手に表現すると通常、嫌がられるのですが、ゴスペルの場合、かなりアグレッシブに「動い」ても、プレーヤーのパッションとして捉えてもらえます。他のジャンルでは考えられないですよね。

─来米してから演奏スタイルは変わりましたか?
はい。とても変わりました。毎週ゴスペルを演奏してるのが大きいと思います。週1ってのが完璧で本番と反省、改善を毎週繰り返しています。譜面も無く全て耳でやるのもあり、今では一番の得意ジャンルがゴスペルですね。

愛用の楽器はBass ModsのEF5

─今までで一番苦労したことは?

ニューヨークに来てからは大して苦労がないです。むしろ日本にいる頃、まわりに優秀なプレーヤーがいるなかで、バイトしながら這い上がっていくほうが、未来が見えなかったし、精神的に辛かったです。テクニックでは上をいく大勢の先輩たちを越えるためには、やはり、ニューヨークに渡るしかないと思い立ったのもそこですね。もしこれからもっと現地のミュージシャンと渡り合って行けるようになれば、世界に通用するレベルになれるのではと思っています。ハードルの高い状況は多いですが、少しずつ慣れていく時に大きな喜びを感じるんです。

─今回共演したフューチについて教えてください。
はい。フューチはグラミー賞候補にもなった有名ラッパーで、ヒップホップ以外に歌も歌えば作曲やプロデュースもする多才な人です。特に最近はラップを使って子供たちに、コミュニティーや自然保護の大切さを教える教育者としても注目されています。彼のライブにはすでに5回ほど参加しており、2023年秋のカーネギーホールでのショーで突然、予定していたベーシストが休演して急遽僕に声がかかったのが最初です。公演の前夜に電話がかかってきて、一晩で10曲ほど覚え込んで本番に臨みました。フューチはゴスペル教会育ちでボーカリストとしての素養を持ち合わせていて、しかも社会貢献を常に考えています。エンターテイナーとして尊敬します。音楽のリーダーシップも厳しいですが、指示は的確でミュージシャンのことを考えてくれます。今回も楽しいライブでした。

2023年10月カーネギーホール公演で「フューチ」(写真右から二人目)と出会う

─今の夢は?

ニューヨークのR&B界で「ファーストコール(指名一位)」のベーシストになることです。この街でベーシストといえば「あいつ」と、有名ミュージシャンから真っ先に指名される存在になりたいです。15年はかかるだろうな(笑)。


広瀬隆史さん

1993年香川県生まれ。4歳でエレクトーンを始め、中学3年の時にレッドチリペッパーズやマキシマムザホルモンと出会い音楽家を志す。ベースのかっこよさに惹かれ毎晩のように練習したところ地元で誰も敵わない腕前に。高校卒業と同時に上京する。専門学校ミューズ音楽院で4年間研鑽を積むうちにファンクやR&Bに傾倒。2019年来米。
IG: @takashi_bassss

               

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