ジャピオン編&#
高層ビルが建ち並ぶ、大都市ニューヨーク。しかし実は、驚くほど多様な野生動物たちが暮らしている。公園の芝生、街路樹の上、そして川辺や住宅街まで、都市のあらゆる場所に現れる動物たちを紹介したい。
SNSで話題沸騰
〝バズる野鳥〟を追って
4月中旬、春の陽気に包まれた日のお昼どき、マンハッタン区ミッドタウン地区のブライアントパークを訪れると、植え込みの一角に人だかりができていた。人々の視線の先にいるのは、両手に収まりそうなほどの小さな鳥・アメリカンウッドコック。丸みを帯びた体に短い脚、そして頭の後方に寄った大きな目が特徴的で、まるでぬいぐるみのような愛らしい姿だ。地面にじっとたたずんでいたかと思うと、突然、体を上下に揺らしながら小刻みに歩き出す。リズミカルに頭を振る動きはまるでダンスのよう。そんな姿がSNSで「ダンスをする鳥」として拡散され、瞬く間に話題となった。
このウッドコックは、冬を米国南部で過ごした後、春になるとカナダ方面へ北上する渡り鳥。その途中でニューヨークに立ち寄ることがあり、ブライアントパークは中継地として知られている。体長は約25センチほど、落ち葉に溶け込むまだら模様の羽毛を持ち、地面にいると見つかりにくい。長く細いくちばしを土の中に差し込みミミズを探す姿も特徴的で、実際にブライアントパークでも、植え込みの中で採食する様子が確認されている。
ただ今年は例年と様子が違った。SNSで動画が拡散されたことで一気に注目が集まり、連日多くの人々が詰めかけたのだ。スーツ姿のオフィスワーカーから家族連れの観光客までがカメラやスマホを構える光景は、まるでスターを追うパパラッチのよう。普段は警戒心が強く森の奥でひっそりと暮らす鳥だが、都会のど真ん中でこれほどの注目を浴びて、どのように感じていただろう。
一番の特徴である「ダンス」の意味は興味深い。研究者の間では、求愛行動、地面に振動を伝えてミミズを誘い出す採食行動、あるいは捕食者に対する威嚇行動など、複数の説が指摘されている。いずれにせよ、そのどこか間の抜けたようなかわいらしい動きが人々の心を掴んだのだった。春の訪れを感じるニューヨーカーたちにとって、明るく喜ばしいニュースとなった。
一方、同じようにマンハッタン区に生息して話題を呼んでいる鳥が、大型のワイルドターキーだ。 なかでも有名なのが「アストリア」と名付けられた個体で、もともとクイーンズ区アストリア地区で確認されたためにそう名付けられた。後にイーストリバーを越えてマンハッタン区へ移動し、現在はローワーマンハッタンのバッテリーパーク周辺に姿を見せる。体長は1メートル近く、ずっしりとした体と虹色に光る羽毛を持ち、その堂々とした存在感はウッドコックとは対照的だ。
このターキーは、まるで街を散歩するかのように歩道を歩き、時には交通量の多い道路を横断することもあるという。日中は地面でエサを探し、日没後には木の上に飛び上がって休むという野生の習性を残しながら、人間の都市空間に溶け込んでいる。その姿を追うファンも現れ、毎日のように位置情報や写真が共有されるほどで、ちょっとした街の人気者となっている。
ワイルドターキーは北米原産でニューヨーク周辺にもともと生息していた在来種。20世紀に一度は個体数が減少したが、保護政策によって回復し、現在ではブロンクス区やスタテンアイランド区を中心に、群れが観測されている。近年、都市部での出没が増えたのは、緑地の拡大や人間との距離の変化が背景にあるとされる。
ウッドコックとターキーは、本来は自然の中で生きる鳥でありながら、ニューヨークという巨大都市のただ中で、人々のすぐそばに姿を現し、話題をさらっているアイドル的存在だ。都市と野生の境界線を軽やかに越えてくるその姿は、この街にもう一つの顔があること、つまり豊かな自然が息づいていることを、静かに教えてくれるだろう。
コンクリートジャングルに生息する
意外と身近な動物たち
都市のサバイバー
アライグマ 市内全域・住宅街や公園
夜のニューヨーク市で、最も遭遇しやすい野生動物のひとつ。幅広く分布し、公園や住宅街、さらには下水道や建物のすき間を住みかにするなど、都市環境に適応している。果実や昆虫、小動物から人間の食べ残しまで何でも口にする雑食性で、ゴミ箱をあさる姿も目撃される。愛らしい見た目とは裏腹に狂犬病などのリスクもあるため、距離を保って観察することが大切。
静寂のハンター
フクロウ セントラルパークなど市内公園
市内の公園でひそかに暮らす夜の捕食者。モリフクロウやアメリカワシミミズクなどの複数種が確認されており、特に冬から春にかけての繁殖期には活動が活発になる。ネズミや小鳥を捕食し、都市の生態系のバランスを保つ重要な存在でもある。昼間は木の上でじっとしていることが多く、人が歩いていても気づかず通り過ぎてしまうことも少なくない。観察する際は距離を取り、静かに見守りたい。
太古からの来訪者
カブトガニ ロングアイランド沿岸
毎年5〜6月頃、満潮の夜になると海岸に現れる「生きた化石」。実はニューヨーク近郊でも見られる。カニの仲間ではなく、クモやサソリに近い古代生物で、4億年以上ほぼ同じ姿を保っている。産卵のために浜へ押し寄せる光景は圧巻で、数千匹規模になることもある。卵は2〜4週間で孵化し、渡り鳥の重要な栄養源となるなど、生態系の中で大きな役割を担っている。
身近な捕食者
コヨーテ ブロンクス区・クイーンズ区の緑地
コヨーテというと砂漠や草原などをイメージしがちだが、ニューヨーク市内でも目撃例が増えている。主にブロンクス区やクイーンズ区の自然エリアに生息し、時にはマンハッタン区のセントラルパークなどにも姿を現す。1日に約16キロ移動する行動力と、環境に応じて食性を変える柔軟さを持ち、都市でも生き抜く力を備える捕食者なのだ。基本的には人を避けるが、餌付けによって警戒心が薄れるとトラブルの原因に。近づかないように注意したい。
初心者でも気軽に始めたい
バードウォッチングの世界
ニューヨークは実は、北米有数のバードウォッチングスポットとして知られている。特に春と秋の渡りのシーズンには、セントラルパークやジャマイカベイ野生動物保護区などに数百種もの鳥が立ち寄り、世界中のバードウォッチャーが集まる。
双眼鏡を片手に公園を歩くだけで、色鮮やかな小鳥や猛禽類に出会える可能性がある。春にはアメリカムシクイの仲間が木々を飛び交い、冬にはフクロウが静かに枝にとまるなど、季節ごとに違った表情を見せるのも、この街ならではの特徴だ。
初心者でも参加しやすいのが、各地で開催されているバードウォッチングイベント。たとえば、NYC Bird Allianceや市内公園の管理団体が主催する無料ツアーでは、ガイドが鳥の見つけ方や特徴を丁寧に解説してくれる。ひとりで始めるのが不安な人でも、コミュニティーに参加すれば気軽に楽しめるはず。
さらに理解を深めたいなら、ニューヨークの鳥を紹介する書籍を手元に置いておきたい。例えば、『Field Guide to the Neighborhood Birds of New York City』。クイーンズ区の水辺に泳ぐカモや、ブルックリン区のサギ、ブロンクス区のフクロウ、マンハッタン区のセントラルパークの渡り鳥など、5区それぞれで見られる多様な鳥の姿を紹介している。また、子供向けの『The Kids’ Guide to Birds of New York』は、フルカラー写真とともに、見分けるポイントや鳴き声などの豆知識をわかりやすく伝えている。
忙しない日常の合間に、ほんの少し視線を上げてみる。ビルの狭間や公園の上空には、思いがけないほど多くの鳥たちがのびのびと飛び回っているはずだ。そんなバードウォッチングは、日常の見慣れた風景をちょっと違ったものへと変えてくれるだろう。







