巻頭特集

夏の夜にレコードを 〜響き続けるアナログの魅力〜

今、日米でレコード人気が勢いづいている。特に若年層を中心に音楽配信とは異なる魅力で、特別な体験や満足感を得ようとする傾向が主流になりつつあるようだ。いつまでも大人たちを魅了してやまないレコード。こよいは夜風に吹かれながらレコードで音楽鑑賞を楽しんでみては。(文・取材/伏見真理子)


日米レコードの売り上げは
18年連続増加で過去最高

今年3月、全米レコード協会(RIAA)が発表した2024年の音楽業界の小売価値が過去最高の177億ドルに達し、前年から5億ドル増加した。ストリーミングは149億ドルを生み出し、有料サブスクリプションやソーシャル・メディア・プラットフォームなどを含む総収益の84%を占めた。レコードの売り上げは18年連続の増加を記録し、1984年以来最高の14億ドルに達した。日本でもレコードブームの勢いは増す一方だ。シティーポップの名盤を入手しようと世界中から日本に人が押し寄せ、中古盤の単価は9年前の2・6倍で推移する。歌手の竹内まりやさんの作品は、現在市場で3万円以上の値が付く。新曲も発売が相次ぎ、レコード国内生産金額は35年ぶりに70億円を超えた。

 

1号店ラフ・トレード・アバブの店内

観光客も入りやすい通りに面した入り口

マンハッタン区の中心地に誕生した新レコード帝国

家賃高騰問題などで独立系レコード店が相次いで閉店を余儀なくされる中、21年6月にミッドタウン地区のロックフェラープラザの一画にレコードショップ、ラフ・トレード・アバブがオープン。もともと、英国はロンドンで生まれたレコードショップで13年にニューヨークに進出。当初はウィリアムズバーグ地区に店舗を構え、21年3月に現在の店舗へ移転した。昔と比べて同店の規模は4分の1以下だが、それでもレコード1万枚は在庫できるほどの広さを誇る。

新譜レコードを中心に幅広い音楽を取りそろえる。壁には同店スタッフおすすめの「スタッフピック」が、読み応えのあるレビューと共に設置され、顧客から高い評価を受けている。

 

広々としたラフ・トレード・ビローの店内

コアな音楽ファンに人気の2号店

ニューヨークをモチーフにしたコーナー

高立地に快進撃2号店

今年4月にオープンした2号店のラフ・トレード・ビローは、1号店から徒歩2分のロックフェラーセンター地下1階だ。品ぞろえがさらに豊富で、特に中古版のコーナーが充実している。映画制作会社であるA24の映画作品や音楽メディア、書籍なども扱う。そして、店内奥にはライブミュージックが楽しめるバンドセットとステージが設けられており、アーティストとファンの交流スペースにもなっている。他には、ニューヨークにちなんだ作品を集めた常設コーナーも。観光客が多く訪れるエリアということもあり、旅の思い出にと関心を引きそうだ。もちろん地元の人と思われる客も多く、平日休日構わず店内はにぎわう。今まさに勢いの止まらないラフトレード帝国、そして今後さらに拡大していくであろうレコード市場から目が離せない。

 

Rough Trade Above
1250 6th Ave.
TEL: 212-664-1110
roughtrade.com/en-us

Rough Trade Below
30 Rockefeller Center
Concourse Level
TEL: 212-664-1110


この夏に聴きたい! スタッフピックの中からの気になる一枚

Live at Forest Hills Stadium ’24 / King Gizzard and the Lizard Wizard

オーストラリアのバンドが昨年クイーンズ区で行ったライブの録音音源。環境問題に熱心で政治的発言も注目を集める。Spotifyでは聴けないレアなアーティストだ。

Moisturizer / Wet Leg

英国のインディー・ロック・バンド。23年にグラミー賞など多くの賞に選ばれた1stアルバムに次ぐ期待の2作目。ポストパンクやニューウェーブなどが好きな人には特におすすめ。

If You Asked for a Picture / Blondshell

ニューヨーク出身のインディー・シンガー・ソングライター。2023年の楽曲 『Joiner』はオバマ元大統領がその年のお気に入り音楽に選んだことでも注目を集めた。

               

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