食ビジネス古今東西

第12回 麹ファミリーの新兄弟、塩麹と麹の甘酒

当コラムでは、食ビジネス戦略のスペシャリスト、釣島健太郎が米国食ビジネスを現在、過去とさまざまな観点から検証。その先の未来へのヒントやきっかけを提示していく。


今月6年ぶりに日本に行き、京都を訪問した。

家族で訪問し、名観光スポットである金閣寺、銀閣寺、清水寺などを訪問したが、今回の訪問で銀閣寺が織りなす美、空気感、世界観に特に感銘を受けた。白い砂を基調とした庭園に、長年存在する木々、石、草、花が織りなす独特な美はその場に佇んでいるだけで魅了されてしまう。金閣寺の金や清水の舞台のような圧倒的な存在感があるわけではないが、日本の美、心を表現する際に使われる、わび・さびの美が銀閣寺には他の群を抜いてあるように感じた。

銀閣寺でわび・さびの美の重要な要素の一つとなっているのがコケである。土壌、石、木々の表面にあるコケが他国とは一線を画する美を生み、育んできたのではないかと銀閣寺を訪問して強く感じた。

銀閣寺の庭園を見ながら、(コケとは少し違うが)日本食文化の基本構成を成す麹(こうじ)に思いをはせずにはいられなかった。

麹は自然科学の観点から見ればカビの一種である。日常では天敵であるカビと麹が同じ、と言われても理解に苦しむかもしれないが、日本人は古来から独自の研究を重ね、製法を編み出し、麹を中心とした食文化を築き上げてきたのである。

島国の日本では麹カビが広がりやすい気候、環境があり、われわれは米にそれを植え付ける製法を編み出し、料理、調理に活かしてきた。美意識においてコケがわび・さびの発展に大きく貢献したように、麹カビは日本食の発展に大きく貢献した。

日本人に欠かせない調味料

麹については明確に説明できずともしょうゆ、味噌、米酢、塩麹はご存知であろう。どれも日本食には必須の調味料である。また日本酒、焼酎、甘酒も、日本を代表する酒類、飲料であるが、これらも全て麹カビの作用を十分に利用した調味料である。どれも発酵という製法を用いて、原材料のうま味やアルコールを生み出したものである。

これらの調味料、酒類をひとくくりに「麹調味料」「麹のお酒」と言っても過言ではない。さらに、これらを総括して「麹ファミリー」と言っても良いだろう。

アメリカでも進化する麹の楽しみ方

そんな麹ファミリーで、アメリカで新たな商品として紹介され始めているのが「塩麹」と「甘酒」である。

塩麹と甘酒は製法はほぼ同じで、炊いたご飯と乾燥した麹米に塩を足して55℃で寝かせば塩麹になる。塩の代わりにさらに炊いたご飯を足せば甘酒になる(甘酒には酒かすから作る製法もあるが、今回説明している製法とは異なる)。

塩麹はしょうゆ、日本酒、みりんの作用を全て一つで賄えるようなオールマイティーさがある。塩麹に漬けるだけで豚肉、鶏肉、サケなどのうま味成分をぐっと引き出すことができる。マンハッタンの大戸屋の「塩麹チキン」を食べればその魅力をしっかりと体験していただけるであろう。

最近は日系スーパーでも塩麹製品が増えているので、難しく考えず、たれに漬ける感覚で塩麹にそのまま漬けてみるだけの感覚でぜひトライしてみていただきたい。

もう一つの甘酒は、「飲む点滴」とも言われるほど栄養成分が豊富である。特に今回紹介している麹から作る甘酒は麹の自然の甘味がおいしい。甘酒には独特の臭みがあると思われる方もいるかもしれないが、麹で作った甘酒にはその臭みは全くないと言っても良いだろう。

日本では5年ほど前より新潟県八海醸造の「麹だけでつくったあまさけ」が大ヒットしたが、近年ニューヨークでもいよいよ販売を開始した。

甘酒は加熱処理すると栄養成分がなくなってしまうため、アメリカには冷凍流通で運んでくるのが一般的である。納豆が日系スーパーでは冷凍セクションで販売されているのと同じ感覚である。この甘酒を飲むと心地よい甘味が口を覆い、砂糖などの糖分がどれだけ入っているのだろうと思うかもしれないが、全て麹の甘味だ。

塩麹、甘酒という麹ファミリーの調味料、飲料を正しく理解し、未来の新たな調味料として応援していただければ幸いである。

 

 

 

釣島健太郎
Canvas Creative Group代表

食ビジネスを中心とした戦略コンサルティング会社Canvas Creative Group社長。
「食ビジネスの新たな未来を創造する」をコンセプトに、現在日本からの食材・酒類新事業立ち上げ、現地企業に対しては、新規チャネル構築・プロモーションから、貿易フローや流通プロセスの最適化、物流拠点拡張プランニングまで、幅広くプロジェクトを手掛ける。
canvas-cg.com

 

               

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