ニューヨークで活動する 注目の若手アーティストを紹介

俳優の伊藤沙帆さん

夢を叶える街、ニューヨーク。きらびやかな舞台の裏側で、夢を信じ戦い続ける一人の女性がいる。ニューヨークの演劇学校を卒業し、現在俳優として数々の舞台で活躍しながらも、更なるチャンスを掴むべく日々オーディションに挑み続ける伊藤沙帆さん。彼女のここまでの道のりと未来への想いを聞いた。


俳優を目指した理由、そして渡米のきっかけは?

幼少期からバレエを習っており、舞台に立ちパフォーマンスすることが好きでした。本格的に演劇の道を志すようになったのは、シアタートラムで観た舞台『レディエント・バーミン』が大きなきっかけです。舞台の世界観に引き込まれるとともに、心を揺さぶられ、日本の劇団のレッスン生として演劇を始めました。

初めてニューヨークを訪れたのは2019年の夏です。街のエネルギーに圧倒され、映画やミュージカルで観た世界に入り込んだような感覚に心が震えたのを覚えています。当時はここに住むなど想像もしていませんでしたが、帰国後に『West Side Story』の来日公演を観た時、「やっぱり私はニューヨークで演劇をやりたい」と強く思いました。またその際、米国人キャストと話す機会があり、彼らの自由さとエネルギーに触れ、その思いは確信へと変わりました。その後英語学習や留学先のリサーチを経て、ついに23年にThe Neighborhood Playhouseに留学しました。

1年生のオリエンテーション時に学校の前で

 

学校生活はどうでしたか?

「どんな役でも安定した演技をするには?」と模索する中で出会ったのが、“マイズナーテクニック”でした。そして、その本場であるこの学校の存在を知り、「ここしかない」と決意しました。入学後は、マイズナーを中心に、歌、オンカメラ演技、ステージコンバットなど演技に必要なことを総合的に学びました。中でもマイズナーの授業では、自発的でオーガニックな表現が身につき、自分の演技に自信がつきました。一日中演劇に没頭でき、アットホームで前向きな環境は、私を大きく成長させてくれました。

共に演劇を学んだクラスメートと卒業時に撮影

 

ステージコンバットの練習風景

 

ここでの大変なことは?

やはり一番の壁は言語でした。英語の発音は簡単ではなく、特にスピーチクラスでは苦労しました。しかしこの国は、日常生活の中でも誰もが積極的に話しかけてくれる環境なので、上達も早まったと思います。先生方の熱心なマンツーマン指導やクラスメートたちの温かいサポートにも何度も救われました。それでも時に自信を失くしてしまうこともあります。そんな時は、「英語の発音はかなわなくても、私には皆とは違う日本で培った視点や感性がある」と考え、それを表現に活かそうとしました。そう意識すると、自分の表情や動き、意見を褒めてもらえることもありました。完璧な英語でなくても、感情はきっと伝わると信じています。

そして何より「演劇の本場・ニューヨークで、第二言語で芝居をしている」という事実が、すべての困難を挑戦に変える原動力になっています。

舞台『DRACULA』にてナース役を演じる伊藤さん

 

表現活動を行う上で、大切にしていることは?

仲間とのコミュニケーションは常に大切にしています。リハーサルの時など、プロダクションの空気を良くするのは会話だと思います。また演技をする際は、マイズナーのテクニックの一つでもあり、演劇において非常に重要なことなのですが、「常に相手を観察してよくセリフを聞くこと」を大切にしています。

あとは日頃から、さまざまな感情になった時の自分や周りの人の行動を認識し記憶して、演技に活かせるよう日々研究中です。

ミュージカルでの一コマ

 

今後の展望や目標を教えてください。

学校で得た学びを活かし、今後は舞台やフィルムをはじめ、コマーシャルやボイスオーバーにも積極的に挑戦し、ジャンルを問わず多様な経験を積みたいです。そしてプロデューサーやキャスティングの方に安心して主役を任せてもらえるような役者になり、いつか大きな舞台に立つのが私の夢です。また、今後1年を目安に、自ら舞台をプロデュースし公演を行うことも計画しています。私が活躍することで、私が学んだ学校の素晴らしさやニューヨークで演劇を学ぶ尊さを次の世代に伝えていきたいです。

ニューヨークは、毎日が発見と刺激の連続で、いろいろなことを考えさせられる街です。この街にいることで人生がより豊かになっていく——そんな感覚を日々実感しています。これからもこの場所で、表現を磨き、挑戦し続けていきたいと思います。


伊藤沙帆

東京都出身。6歳よりクラシックバレエを始め、大学在学中に演劇の世界へ。日本で劇団レッスン生となり、いくつかの舞台を経験。その後2023年ニューヨークへ渡り、TheNeighborhood Playhouseにてマイズナーテクニックをはじめ、ダンスや歌、ステージコンバットなどを学ぶ。25年5月にThe Neighborhood Playhouse 2-Year Conservatory Programを卒業。現在はオーディションを受けながら活動中。

Instagram: @saho.ito7お問い合わせはInstagramのリンクから

               

バックナンバー

Vol. 1313

ニューヨークで楽しむ オクトーバーフェスト

毎年9月から10月にかけ、世界各地を熱狂で包むオクトーバーフェスト。ドイツ・ミュンヘンで二百年以上続く世界最大のビール祭りは、今ではニューヨークでも秋の風物詩だ。街のあちこちにあふれるジョッキを掲げる笑顔、香ばしく焼けるソーセージ、軽快な音楽…。今号では、一度は体験したい本場さながらのフェストの魅力を紹介。

Vol. 1312

秋到来! 週末のプチお出かけ ワシントンD.C.博物館を巡る旅

ニューヨークに負けずとも劣らない美術館や博物館の宝庫、ワシントンD.C.。今週はトランプ政権のD.E.I.政策に揺れるスミソニアン協会運営の博物館の中で、今のうちに訪れたい五つの施設を紹介する。

Vol. 1311

映画の街・NYを味わい尽くす フィルムカルチャー最新ガイド

映画が日常に溶け込む街・ニューヨーク。『ティファニーで朝食を』や『ゴッドファーザー』といった名作の舞台であり、今も『プラダを着た悪魔2』をはじめ数多くの作品の制作が続いている。世界中から映画ファンやクリエーターが集まり、大規模な国際映画祭から街角の小さなインディペンデント上映スペースまで、あらゆる映画体験の場が点在している。そんなニューヨークの映画文化(フィルムカルチャー)の最前線を探ってみたい。

Vol. 1310

私たち、こんなことやってます!

事業発展に伴う税務を全米対応でサポートするAA&TC, Inc. 代表・税理士のナムさん、日米の複雑な国際案件にも対応するGIIP 日米国際会計事務所マネージングパートナー・公認会計士の佐藤さん、パートナー・税理士の伊東さんに話を伺った。